プロポーズ(2020/08/22)

『大人になったら結婚しよう』


私は7歳年上の幼なじみ、いさおと約束した。それは幼いころの約束で、忘れてしまっていた。


「お誕生日、おめでとう。これで大人の仲間入りだね」


彼氏のたけるが言った。尊は私よりも3歳若い。知り合ったのは、バイト先だ。私は嬉しそうに笑顔で応えた。


「ありがとう。尊」

「なぁ。今からあり得ないことを言うけどいいか?」

「え?」

「まあ、これは昔話だと思ってくれ」


尊は静かに切なげな表情になった。

その面影はどこか、昔の幼なじみの功に見えた。


「昔、小さなころに大人になったら、結婚しようと約束した少年はその後、すぐに亡くなってしまった」

「亡くなったって?誰が?」

「ああ。病気で」


そういえば、功の消息を私は知らない。

遠くにいってしまったと母は言っていた。

私はそのまま、頭の片隅に残っていた。


「うん。で、俺は昔、小さい頃、入院していたんだ。で、小さな幽霊が友達が言っていたんだ」

「うん」

「その男の子の名前が、功って名前だったんだ」


私は時が止まる気がした。尊は功と会ったことがあるということか。


「功って」

「功が言ったんだ。『お前に力をやるから、お前は李奈りなと幸せになれ』って」


私は涙が出そうになり、口を抑えた。


「何か、それを今日思い出して。ずっと忘れていたんだけどな。多分、俺は功に導びかれてお前に出会ったんだなと」

「……信じられない」

「信じられないけど、本当のことなんだ。功は李奈をりっちゃんって呼んでいたんだろう?」

「どうして、それを」


私は尊に功の話を一切したことがない。更には功からどんな渾名あだなで呼ばれていたかさえも言っていない。

尊はゆっくりと笑う。


「だから、功に導びかれたんだ。でも、功に助けられたからって李奈と付き合おうって思ったんじゃない。俺は改めて、李奈が好きだ。結婚してほしい」


私は涙を流し、尊の手を握った。尊は私の手をしっかりと包んだ。


「はい、喜んで」


私ははっきりとした声で言った。


プロポーズ(了)

題材 大人 製作時間 35:33 文字数 794

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