帰省(2020/08/20)

僕は毎年、夏になると故郷に帰省する。夏の故郷はとても暑くて苦しい。

けれど、毎年、めいに会うのが楽しみだ。

姪は今年で二十歳になる。

姪は僕に話しかけるのが小さなころから好きで、昔はよく遊んだ。

ここ10年は遊びに行けていないのが残念だ。

僕は故郷に着くと、姪の姿を見た。僕は姪に声を掛ける。


美央みお、元気にしていたか。僕は相変わらずだよ』

「叔父さん。今年も暑いね。叔父さんのところは楽しいかな。こっちは大変だよ。コロナウイルスが蔓延まんえんして」


美央は近況を一方的に話す。

どうやら、今、流行している感染症の為に検査を受けてから帰省してきたらしい。


『そうか。美央は大丈夫そうなんだな』

「でさ、よその大学通ってる友達なんかはさ、クラスターになってるみたいでね」


美央は花束から花を出す。

持ってきた茶菓子を手前に出してくる。


『お前がウイルスに掛からなくてよかったよ』

「叔父さんは大学生のとき、どうだったのかな。お母さんから聞いたことがあるよ。すごく無茶してたとか」

『大学時代か。楽しかったな』


僕の言葉は美央に聞こえない。だって、僕は。


「叔父さんが亡くなって10年だね。よく遊んでくれたときのことを思い出したんだ」


美央は僕のお墓に水を流す。冷たい水が気持ちよかった。


「叔父さんが言ってくれたことをずっと思っているよ。『辛いときでも、必ず、明けるときがくる』って」

『そうか。お前は強く生きれてるのか』

「だから、この時も絶対に乗り越えられるって」


美央はチャッカマンで火を着け、お線香をさらした。お線香の匂いが漂う。


「だから、来年も叔父さんのとこに会いに行くね」

『ああ、待っている』


僕は美央に話しかけられないので、返事変わりに風を吹かす。木の葉が揺れて、落ちた。

美央は僕が返事したと思ったのか、ふわりと笑った。


帰省 (了)

題材 季節 製作時間27:01 文字数 737

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