第3話

その翌日、春子とおちあった時、私はいつもより口数が少なかったのでしょう。春子は、そんな私の様子に気が付いたのか、首を傾げてにこっと笑うと、どうかなさったの?と尋ねてきました。

春子に昨夜見た淫蕩な場面の話をするような真似は私にはとてもできませんでした。春子は私をじっと見つめると、何を思ったのか私の手に掌を重ねました。その少し湿ったひんやりとした春子の掌の感触は私の乱れかかった心を掻き毟るには十分でした。

 「あら、雨」

 空を見上げ、春子が呟きました。ぽつりと重ねた手の甲に落ちた春の冷たい雨が、たちまち勢いを増して私たちに降りかかってきました。春子は立ち上がると、私の手を引きました。

 「私の家に行きましょう」

春子の家がどこにあるのかそれまで知らなかった私でしたが、言われるままに春子に手を取られたまま私は駆け出しました。神社の裏手のあの桜の脇を通って、小さな坂道を下ると、古びた一軒家があり、春子はその家の軒先に駆け込みました。少し遅れて駆け込んだ私と一緒に軒先に並んで春子と私は息を整えました。

 「すごい雨・・・」

そう言って私を見た春子の濡れたブラウスに包まれた軽い体を私は抱き寄せました。春子は私を一瞬、強い目で見て、そして微笑みました。彼女の唇に私は唇を重ねました。教授と麗子の淫蕩な場面を思い出し、そしてその場面を思いから振り切るように私は春子と長く長く、キスをしました。春子の濡れた体が柔らかく私とぴったりと寄り添いました。最初に唇を離したのは春子でした。

 「鍵を・・」

春子はそう言って、私の胸に腕をそっと当て、私たちの抱擁を終わらせました。旧式の真鍮製の鍵を音を立てて回すと、玄関が開き、そこから幼い頃祖父の家を訪れた時のような、懐かしい古い木の香りがしました。

 「どうぞ。あんまりきれいではないですけれど」

そう言った春子の後に付いて家に入ると、確かに調度は新しいものではないですが、よく整頓された心地の良い家です。

「お一人で住んでいるのですか」

そう尋ねると、春子は小さく頷き、それ以上の質問を拒むように背を向けて家の奥に入っていきました。

玄関からまっすぐに廊下があり、左側には格子の嵌め硝子がしてありました。古びた家の廊下には木の良い香りが漂っていました。鮮やかな緑が硝子に流れる雨に歪んで、私の心臓の音と同じように乱れています。

 廊下の先にある居間には古いソファーがあり、そこから埃っぽい匂いがしました。濡れた体をタオルで拭いてから、そのソファーに並んで二人で座ると、春子は少し息を切らした様子で、

 「何かお飲み物を作りましょう」

 と言いましたがそれに答えず、私は春子を抱きしめました。春子は火照った桜色の頬を私に近づけ今度は春子から私にキスをてきました。春子は私の唇を舌で舐めるようにし、そしてその舌は私の唇を割って、舌に絡みつきました。その温かい舌を私は強く吸うようにして、春子の体を横倒しにしました。左手で春子を抱えるようにしたまま、私はブラウスの釦を一つずつ外していくと、春子の形の良い胸乳がブラジャーに包まれて露わになりました。春子の右の掌が私のペニスを包むようにして、ゆっくりと動きます。私は春子のブラジャーを外し、桜色の乳頭を交互に口に含み吸い上げました。乳房は私の手に包まれて柔らかに汗ばんでいましたが、乳頭は硬く立っていて、春子が私のペニスを撫でる動きが早まりました。上半身が露わになった春子のブラウスを肩から外し私はスカートの下から春子の脚の間を弄りました。春子は私のズボンのベルトを外し、器用にジッパーを降ろしました。私のペニスは下着の中で春子の湿った冷たい掌に包まれ硬直し、春子はそれを愛おしそうにゆっくりと撫で、それが強烈な快感を私に呼び起こしました。このままでは、春子の中に入る前に精液を放出しそうだったので、焦った私は春子の手を制しました。春子は、その意図を理解したのか、ペニスから手を離し私を両手で抱きしめました。乳頭を舌で舐りながら、左手で春子の下着を細い足首から外すと、指でワギナをゆっくりと触れました。指が沈んでいったそこは温かく湿っていました。春子は動きを止めていた手で、私の下着を下げ、私のペニスは勢い良く下着から跳ね出しました。春子は壊れ物を触るように掌で私のペニスを包み、ワギナに導きました。スカートを穿いたままでしたし、外が雨で暗かったせいか、そこは露わには私には見えませんでしたが、ペニスの先が温かいものの中にゆっくりと入っていくのを感じ彼女の底に届いた時に、私は最初の激しい放出をしていました。春子は一瞬首を反らせ、それを受け入れたまま静かに動きませんでした。

あっけなく先に行ってしまった恥ずかしさに私が体を離そうとすると、春子はいやいやをするようにして両脚で私を強く挟みます。そして、左手で私の嚢をゆっくりと触りました。放出したことで虚脱したようになっていた私のペニスは春子の中でまた硬くなり始めました。春子は私の体の下から私を見つめ、私は再び春子の唇に自分の唇を重ねました。脳裏に教授室で見た情景が蘇り、その情景の中で麗子の挑戦的な目が私を見つめていました。私は体を起こすと春子と結合した部分を前後に動かし始めました。春子が私の嚢を弄っていた左手で今度は自分の唇を隠すようにし、その合間から漸く、あぁ、という喘ぎ声が漏れ始めました。

春子が私より三つ年上であることはそれまでの話の中で知っていました。愛しい年上の女が私と交わり、感じていることは私を嬉しくさせました。二回目の絶頂はまもなく、私たちに同時に訪れました。一度目の放出がまるで倒したグラスから水が零れるようなものであったのに比べると、二回目の放出は遥かに快感に溢れた能動的なものでした。春子は左腕を噛んだまま、浅く息をして私の最後の一しずくまでを体の中に受け入れようとして小刻みに動いていました。私は右手で春子の腰を浮かさせて、スカートのホックを外すとスカートを体の下から抜きました。春子と私の結合した部分が露わになり、春子の白い肌を小さく飾っている黒い毛が愛らしく前後に動いていました。私は春子のブラウスとブラジャーを外すと、結合したまま自分の衣服を脱いで行きました。春子は不思議そうな顔をして、私の行動を見ていました。すっかりと二人とも裸になると私は春子の白いうなじを指で優しく撫でました。そして、春子の上半身を立たせて、彼女の腰を両手で抱きました。緩やかに彼女の体を上下させると、柔らかくなっていた私のペニスが彼女の温かいワギナの中で少しずつ膨らんでいくのが判ります。彼女もそれを感じたらしく、艶かしく微笑んで、私に体を預けました。汗に湿った春子の乳頭を再び舐りゆっくりと腰を動かしながら私は春子の全身の重みを尻に受けました。三度目の放出は穏やかなものでした。穏やかで短い放出を終えると、春子は私を長い腕で抱き、私たちは永遠に続くのかと思うほどに長いキスをしました。春子のすべすべとした背中を掌で撫で

 「今日は大丈夫なのですか?」

と私は聞きました。

 「ええ」

春子は性交が終わった後も恥ずかしげな表情を変えませんでした。

 「三回も行ってしまいました」

私は春子を抱いたままそう言いました。

 「そう、三回も」

春子はまだ解けていない結合部を覗き、そして驚いたように私を見つめました。

私たちはその日から曜日に関わらず毎日神社で会い、少し話をした後に春子の家に行き、性交をしました。彼女は決して、私に避妊具を要求せず、私はそれを密かに喜んでいました。春子が妊娠したなら、私とこれからも離れることはないでしょう。

 今まで女とそう言う関係になることで、ずるずると結婚までいってしまうことを恐れていた私にとって、思いもかけない心情の変化でした。そして、春子が避妊具をつけずに私と性交するのは、私と同じ気持ちでいるということに相違ありません。春子の家に行くと私たちはあのソファーの前で、互いの服を脱がせあいます。初夏の瑞々しい陽の中で私は春子の体の隅々を見ることが出来ました。春子はけして体を晒すことを厭いませんでした。春子の体には黒子一つなく、蕾のような乳頭はいつも硬く上を向いていました。すべすべとした白いおなかの下にある飾り毛は小さく、黒々としていて、その奥にひっそりとあるワギナはいつも湿って私を受け入れるようになっていました。春子を仰向けにして、私は春子のワギナを舌で探り春子は私のペニスを口に含み、互いに高めあうと言葉さえ交わさずに求め合いました。そして、一度目は激しく、二度目はゆっくりと私は春子の中に自分の精液を送り込みました。その飽くことのない儀式のような性交の日々は永遠に続くように思えました。



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