雪が降る夏の日

 僕は真白ましろを連れて、神社の御神木まで来た。

 どういう仕組みか分からないがこの木で僕はこっちの世界とあっちの世界を行き来することが出来る。

「この木に触れたらここに来たの」

「ああそうだよ」

「元の世界に戻るの?」

「いいや。家族に別れを言おうと思って」

 父と母は急に僕がいなくなり悲しんでいるだろう。一度戻ってこの世界であったことを話し、今度こそちゃんと別れを言ってからこの世界で2人で過ごしたいと思っている。

「分かった。私ここで待ってる」

 僕は「必ず帰ってくる」とだけ言って木に触れた。


 幸太は目を開いた。そこには父と母がいた。天井が白いここは病院だろうか。父が何かを言っているが全く何を言っているか分からない。母はベットの横で泣き崩れている。どれほどの間、僕はここに入院していたのだろう。父と母の様子から数日間ずっとベットで横になっていたことが分かる。

「ああぁぁぁ…」

 うまく声が出ない。数日間ずっと寝ていたせいだろうか。話し方を忘れてしまったのだろうか。

しゃべったぞ。幸太が喋ったぞ」

 父がとても嬉しそうにしている。父と母が手を合わせ喜んでいる。

 後から医師が来ていろいろな検査を受けて体に異常はないとのことで、退院することができた。

 家に着いた頃には、普通に話せるようになっていた。あの話をしなければいけない。

 父と母を呼び、眠っていた間のことを話すことにした。

「何だ話って」

 僕は大きく息を吸い「大事な話があるんだ」と言った。

「分かった。話してくれ」

「病院で寝てる間、不思議な世界に行っていたんだ。そこで真白という女の子に会って、その子を好きになった。今あっちの世界で僕を真白が待ってる。だからこれからはあっちの世界に行って暮らしたい。真白と一緒に暮らしたいんだ」

 言いたいことを全て言った。父と母は、真剣に話を聞いてくれた。

「そうか。お前が起きてから別人のようになっていたのはそのせいか」

「あぁ」

「お前がその世界で生きたいなら生きろ。お前の初めてのお願いだな」

「ありがとう父さん僕は行くよ」

「待ちなさい。お父さんが認めても私は認めません」

 奥で様子を伺っていた母が出てきて言った。

「母さん。あいつを見てみろ。変わったろ。何事にも興味を持たず退屈そうに生きているように見えるか?」

「そうね。あの子にも守りたいものができたのね」

「じゃあ行くよ」

 僕は荷物を持ち部屋を出た。

「幸太」と父が呼んだ。

「幸せになれよ」

 僕は心の中で小さく「分かってるよ」とつぶいた。


 僕はもう一度御神木を触り彼女の待つところへ行った。

「お帰りなさい」

「ただいま」

「お別れは済んだ?」

「ああ」

 真白はそっと幸太の目から出ていた涙を拭った。

「泣いてた?」

「うん」

 外を見るとやはり雪が降っている。白く美しい雪が降っている。いつの間にか僕は雪が大好きになっていた。

「今日も雪綺麗だね」

「そうね」と言い彼女は笑みを浮かべた。

 後日父からもらった手紙を開いた。

『幸太幸せか。こっちでは雪が降らなくなったんだ。そっちは雪が降っているか。幸太お前の父として最後の言葉を送る 幸太これからの2人の人生には多くの困難があるだろう。でも今のお前なら絶対乗り越えられる。お前は変わったんだ。2人の信じる道を進んでいけ2人で乗り越えていけお前はもう1人じゃない

                                父より』

 と書いてあった。

 あの日のワクワクはこの出逢いに対してだろう。

 今日のワクワクはこれからの2人のことだ。

 今日も暖かい雪が降っているなぁ。

「あなたご飯できたわよ。来ないと千夏ちなつと私で先に食べてしまいますよ」

 急いで階段を降りた。




 

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雪が降る夏の日 コラボイズ @singetunoyoru

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