2人で

 翌日彼女は、元気を取り戻した。彼女は「1人で帰れる」と言っていたが、まだどこかつらそうに見えたのと心配だったから僕は彼女を家まで送ることにした。

 病院から出ると雪が少し積もっていたからだろうか7月の中旬だと言うのに肌寒く感じた。僕たちは家まで一言も話さなかった。

 家に帰ったらすぐに学校の準備をしてすぐに家から出た。2度目の登校は、1人でなく花園と2人だった。登校中にまた季節外れの雪が降ってきた。僕たちが1週間後の期末テストの話をしている間に学校に着いてしまった。まだ慣れない学校の校門をくぐった。

 学校が終わったら急いで花園の家に向かった。体育の途中で額の傷が痛んだようで早退していた花園のことが心配だったからだ。

 花園の家に着いたらすぐに彼女の部屋に向かう。

そこには、あの時のおじいちゃんの腕と同じくらい細くなった君がいた。

「私、どうなっちゃうのかな?」花園が不安そうな顔で言ってくる。

 僕は「大丈夫だよ。なんとかなるよ」と根拠も何もないのにそう言った。

 そして僕は花園の傷にそっと触れた。彼女は「そうされると落ち着く」と言って僕の手を握った。

「私、雪女になってしまうのかな?」

どうしてそんなことを聞くのか分からなかった。

「私ね。雪女になる夢を見たの。雪女はとても嫌われていたわ。雪女はいずれあなたにも嫌われて最後はあなたの手で…」

「ならないよ」とその話を遮るように言った。

その続きを聴きたくなかった。

おじいちゃんの部屋にあった巻物を思い出した。

 もしかしたらその巻物に雪女の治し方について書かれているのではないかと思い、彼女に一言いっておじいちゃんの部屋に向かった。

 おじいちゃんの部屋に着いた僕は、棚をあさり目的のものを見つけた。

 それを広げてみるとそこには、雪女の治し方が書いてあった。

 そこには、他にも雪女の誕生についての記述もあった。それは、花園さんのパターンと全く同じだった。彼女はもう雪女になっていたのだ。だから7月に雪が降るのだろう。

 それを持ってまた花園のところまで来た。

「ここに雪女の治し方が書いてあったよ」

「ほんと治るの?」

「ああ、でも治すには君の好きな人と満月の夜にあの浜辺で互いの額を10秒合わせないといけないんだ」

「えっ」と彼女は驚いて、顔を赤くさせた。

 僕もこれを初めて見た時はとても驚いたし、こんなことで治るのはあり得ないと思うがこれが嘘だとはどうしても思えなかった。

「好きな人はいる?」

「はい」と言い彼女は僕と目を合わせるのをやめた。

「じゃあ俺は帰るよ。好きな人に治してもらいな」

いらいらしてそう言った。

どこかで僕のことが好きだと言ってくれると思っていたのだ。

この時君のことを好きになっている自分を知った。君に恋している自分がいた。

 近くにあったかばんを担ぎ部屋を出ようとした。

「あの」

「何?」

「好きな人は、あなたなんです」

 顔が真っ赤になった。鼓動こどうが全身に広がっていく。

好きになってもらえていたことに驚きと両思いだと知ったことにとても大きな喜びを得た。

「実は僕も君のことが好きなんだ」

自然と言葉が出た。

「うん。気づいてた」と言い彼女が微笑む。

「えっ」

「本当だよ。君分かりやすいもん」

「そうかな?」

「そうだよ。だってまた顔が赤くなってるもん」

 この笑顔を僕の大好きな彼女の笑顔を守りたいと思った。

 それから3日たった日が満月だった。その日は珍しく雪が降って来ず、雲もほとんどない快晴だった。

 僕は待ち合わせの時間の15分前に浜辺に着いた。僕と花園が初めて会った日も今日のように雲が全くなかった。

僕の人生はあの時から始まった。あの出会いが僕を変えた。君との思い出が何事にも興味を持てず、人とも関わらずに過ごしていた者を新しい世界へ連れ出してくれた。

「ごめん。待った?」

 僕が着いた10分後に彼女はやって来た。

「まあ少しね」と幸太は笑うように言った。

「そこは、僕も今来たところだよ。とか言うところじゃないの」

「言わないよ。言ったって今来たところじゃないことくらい分かるでしょ」

「そうだね」

「空見てみなよ、綺麗な月だよ」と幸太は空に指を向けていった。

「本当だ。綺麗」

 この世界に来てから初めてみる満月はとても美しかった。

 2人は向き合って、額を合わせた。

「なんか恥ずかしいね」

「うん。そうだね」

「一緒に10秒数えない?」

「いいね。そうしようか」

「1、2、3、…10」

 10秒経った後、2人は額を合わせるのをやめた。

 彼女の額の傷にこれといった変化はなく、彼女自身も変化は感じ入られないと言っていた。この方法では、治らないのだろうか。

 翌日雪が降った。やはり治せていなかったのだろう。その雪をいつもより冷たく重く感じた。

 花園のことが心配になって家に行った。家に着くと彼女の母が「真白ましろ知らない?」と僕に聞いてきた。すごい嫌な予感がした。僕は「知りません」と答え花園を探しに行った。

 必死になって探した。とても嫌な予感がしたからだ。

街にも山にもいなかった。

 僕は、なんとなく昨日の浜辺によった。そこから彼女が見えた。彼女は、

 3m以上ある大きな岩の上から海を見ていた。嫌な予感が的中した。それも一番恐れていた形で的中した。その岩まで全力で走った。途中小さな石に引っかかり脱げた靴や何かに引っ掛かって破れた服の切れ端などを置き去りにして走った。

 手からも足からも血が出ていた。でも不思議と痛みは全く感じられなかった。

 真白のことしか考えられない状態になっていた。

「真白」全力で叫んだ。

 その叫び声を聞いた彼女は振り返った。

「私雪女になったみたい」

彼女は泣いていた。

「君を迎えに来た」

「私は、雪女なんだよ。私がいるとずっと雪が降り続けるんだよ」

「それがどうしたっていうんだ」

「雪女だよ。雪を降らせるんだよ。みんなを不幸にしてしまう私なんていない方がいいよ」

「バカか。みんなを不幸にするだって勝手に決め付けるなよ。お前がいなくなったら俺はどうすればいいんだ。お前がいない世界なんていなくなった世界なんて考えられない。これからもずっと俺のそばにいて一緒に生きよう」

幸太はこのとき目から涙が出ていたことを知らない。

「ありがと。こんな私を好きになってくれて」

「一緒に生きよう。これから先何年何十年経ってもずっと2人で」

「うん」

 彼女は、泣いていた。彼女は、涙を拭って笑った。僕はこの笑顔を守り切れるだろうか。これから先も。

 2人は手を繋いで、歩いて帰った。2人が家に帰った頃には、日が暮れていた。


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