夏祭り

 翌日近所にある神社に着いた。そこにはなつかしさを感じさせる匂いがただよっている。僕が小さい時何度かこの神社に来たのだろうか。その時のことを思い出そうとしてみたがうまく思い出せなかった。

「こっちに来て」

 突然、神社の御神木ごしんぼくであろう木がある方向から女性の声が聞こえた。不思議に思ってそれに近づこうとすると、「近づくな」と荒々しい声で父に怒鳴どなられた。びっくりした僕はその木に寄りかかってしまった。

 途端に周りが光だした。

 気づいたら砂浜で横になって倒れていた。

「何してるのですか?」

 高く暖かく全てを優しく包んでくれるような声が聞こえた。

 幸太こうたは体を起こしまっすぐ海を見た。

「君はどうしてここに?」

「答えになってませんよ」

 彼女は笑いながらそう言った。幸太は彼女のいる方を見て、少し顔を赤く染めた。

「海を見ているかな?」

「どうして疑問系なんですか?おかしな人ですね」

 そう言った彼女の方がおかしな人だと思う。会ったこともない僕に普通に話しかけてきたのだから。

 僕だったら知らない人には絶対に話しかけたりはしない。

「どこの制服ですか?島の外から来たのですか?」

 周りを少し見てみたが、さっきまでいた島とは全く違う場所だと思った。

「そうだね。ずいぶん遠いところから来たね」

「そうですか。島の外はどんな感じですか?島の外に出たことがないから島の外がどのような場所か分からないのです」

「こことそんなに変わらないよ」

 幸太はゆっくりと立ちあがった。

「君名前は?」

「内緒です」と口に人差し指を近づけて言った。

 そして彼女は走って浜辺を出ていった。

 不思議とこの人ととは自然と話すことが出来た。胸の空いている場所に何か暖かいものがみていくのを感じた。


 浜辺を出るとみたことのあるようでないような風景が広がっている。

 道路の作りなどはさっきいた島と同じなのだが、お店が多く立ち並んでいて街に活気があった。

 近くの神社では子供達が遊んでいる。

 実家に帰ったらそこには若かりし頃のおばあちゃんとおじいちゃんがいてまだ子供の父もいたのを見て、混乱した。

 僕が混乱していることなど知るはずのないおばあちゃんは当たり前のように聞いてくる。

「あら幸太帰ってきてたの。学校はどうしたの?」

 ここで僕はこの世界は、パラレルワールドであり自分のいた世界より20年ほど前のものだと仮定した。 

 そうすれば、この時代に存在しないはずの自分が自分の父の兄としてこの時代に存在していることが証明されるからだ。

「あぁ今から行くよ」

 幸太は扉を勢いよく閉めた。そして幸太は父が通っていた仁泰じんたい高校へ向かっていった。幸太は昨日通った道なのに全く知らない道を通っているような感覚だった。

 去年閉鎖されたはずの学校は、同じ学校とは思えないくらい綺麗だった。でもここは20年以上前の世界だからそれが普通なのだろう。

 どこの教室に行けばいいのか分からないので職員室に聞きにいった。

「あのすみません自分のクラス教えてもらっていいですか」

 頭をかいて恥ずかしいのを我慢しながら言った。

 先生達がやばいやつ来たと言わんばかりにこっちを見てくる。

 すると1人の先生が転校と書いてある資料を持ってきた。

金井かないくんってのは君かい?」

 それを聞いて先生達はまたパソコンに向かい作業を始めた。

「はい。金井 幸太と申します」

 先生は資料の写真と実物を見比べた。

「金井君は、1年3組だね。そこの道をまっすぐ行けば教室に着くから」

 先生は職員室前の廊下を指さして言った。

 この世界は不思議で面白いと思った。

 きっと僕がこの島に行く前にワクワクしていたのはこうなることをどこかで感じていたからだろうと思う。

 若い女性の教師が転校生を紹介する。

「転校生の金井 幸太君です」

 教師が黒板にかいてある僕の名を紹介する。

「名前とひとことお願いします」

 小さな声で耳元で言うので少しびっくりしてしまった。

 やはり知らない人と話す事には慣れない。

「金井 幸太です。これからよろしくお願いします」

 みんなに注目されないよう一般的なことを言った。

「金井君でした〜。金井君はあの席に座ってね」

 教師が一番右奥にある席を指さしてそう言った。

 幸太はその席まで歩き座った。隣には今朝あった不思議な少女がいた。

 その少女を見た途端雪女のイメージが頭をよぎった。これが現実になるなんてこの時の僕は知っているわけがなかった。

 机についている名札に花園はなぞの真白ましろとかいてあるのが目についた。

「よろしく花園さん」と言ったら、彼女は「よろしく」と返した。

 朝のSHが終わり休み時間に入った。先生が教室を出たら教室のあちこちから声が発せられる。

「金井だっけ俺南野みなみの はるよろしく」前の席にいる南野が話しかける。「よろしく」とだけ返した。

「金井君も私たちと一緒に今日の夏祭り来ない?」花園が突然言ってきた。それに動揺していた僕は何も考えずに「うん」と答えてしまった。

 人生初の友達との遊びがこんな流されるような形になってしまったのは、不本意だが初めての友達との約束を出来て少し浮かれている自分がいた。しかしこんな自分は自分らしくないのであえて楽しみにしていなさそうに振る舞っていた。

 5時30分に近所の神社に集合となっていたのでその15分前に集合場所に着いた。

 そこにはすでに花園さんがいた。僕たちは他のみんなが来るまでの数分の間御神木の近くにあったベンチに腰掛けていた。

 2人きりの時間はどこか落ち着かない。そわそわしていて、彼女のことを意識するたびに胸の高鳴りが激しくなっていた。

 他の4人が来て終わってしまった2人きりの時間を僕はもっと過ごしたいと思っていた。

 南野と花園と高夏たかなつ新藤しんどう岸田きしだと僕の6人で祭りをまわることになった。

 高夏がチョコバナナの上に乗っているコアラのマーチを欲しそうに見ているのに気づいた南野は「バナナ買ってくるわ」と言って高夏の手を取りチョコバナナを買いに行ってしまった。

 しばらくしたら新藤まで「俺しなければいけないことがあるから」と言い高夏たちがいるところに向かった。

 それを見た岸田が「私も」と言って新藤の後を追った。

「2人になっちゃったね」と花園さんが困ったように言う。

 僕たちは、近くにあったベンチに座った。

 僕たちはまた2人きりになったのだ。

 そこで僕はさっきの彼らの行動が不思議だと思い彼女に尋ねた。

 僕はそこで南野と高夏が両思いであること新藤が高夏を好きに思っていること

 岸田が新藤を好きであることを知った。

 花園は僕が一番知りたかった花園さん自身のことは一切話さなかった。

 いつの間にか彼女のことで僕の頭の中はいっぱいになっていた。

 近くの自動販売機でコーラを買って2人で一気飲みし笑った。

 しばらくしたら4人が帰ってきた。みんなどこかくらい表情をしている。何があったのかは分からないが大体の検討はついた。

「ねぇ〜あれ何知ってる?」と花園が上にある星を見て言う。それは青く輝いていてこちらに向かっているような気がする。だんだん大きくなっているのだ。

 やがて花園だけでなく祭りに来ていた皆がそれに気づき始めた。僕たちは御神木の近くまで避難した。

 花園の額が青く輝いている。青く輝いていた何かが彼女の額にぶつかったのだ。花園が頭を抱え「痛い痛い」と言うものだから僕は彼女を抱え神社を抜けてこの島唯一の病院に向かった。他の4人には花園さんの家に行ってそのことを伝えに行ってもらった。

「花園大丈夫か」

 とても弱って見えた。胸が苦しい。締めつけられている。

 今にも泣き出しそうだったが弱った君がいる前では、泣いてはいけないと思った。

「金井君ごめんね会ったばっかりなのにこんなことになっちゃって」

 雨が降り出した。病院まではあと一キロ以上ある。

 雨で風邪をひかないよう急いで病院に向かった。

 初めて人のことで泣いた。彼女の存在が自分の中で大きくなるのが少し怖く思えた。

 道中にただ泣きながら「大丈夫」などと言うことしか言えなくて、彼女を不安にさせてしまったことを後悔し、今まで人と関わらずいい言葉をかけられず不安にさせた自分をのろった。


 病院に着いたときには雨はもう止んでいたが、彼女がかなり濡れてしまったのでとても心配だった。

 彼女はこの病院に定期的に来ているらしく来たらすぐに診察室まで連れていってもらった。

 診察はすぐに終わり大きな異常はないが少し気になる点があったとかで入院することになった。

 病室まで彼女を連れて行くのを手伝った。

 病室で横になる彼女はさっきまでとは別人のように見える程弱々しくなっている。

 病室のカーテンを開けると今が夏であることを忘れてしまったのだろうか。真っ白な大きな雪が降っていた。



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