雪が降る夏の日
コラボイズ
父のちち
僕の周りは雪で満ちている。今日も暖かい雪が降り注いでいる。僕の周りでこのようなことが起こり始めたのは、10年程前あの人に出会ってからだ。
高校生になった
遂にその日が来た。朝は出発の3時間前に起きて一時間で準備を終わらせ、今から行く島のことを考えていた。いつもこういった事に興味がない僕だが、この日は珍しくわくわくしていたのだ。
「いくよー準備出来たぁ〜」
昨日買いに行った新品のバックを背負って言う。
「出来たよ〜」
階段を急いでおりて家の外に出て、家の方を見て心の中で行ってきますと唱えながら一礼した。
「かかと踏まない」
「ちょっとね。楽しみすぎてあはは…」
「言い訳しない。早くいきたいのなら早く乗りなさい」
「はいっ!」
そう言ってから車に乗った。
車が動き出し、窓から見える景色が流れていく。しばらく戻ってこないことを考えると、この景色を名残惜しく感じた。
船乗り場に着いた。そこからは、海が見えた。それは真っ青でキラキラしていてちょっと眩しかった。今から僕は島に行く。この小さな船で、この大きな海を渡れるのか少し心配になった。船には個別の部屋などあるわけもなく壁に腰掛けていた。
2時間ほど経った頃に、僕達が行く島が見えてきた。その島は白かった。初めて見た雪は、想像より白くて想像より冷たそうに見えた。船は島に向けて動いている。雪のことを考えると胸が高なってしかたなかった。
船が島にぶつかり多少揺れた衝撃で何かが倒れる音がした。着いたのだと分かった。すぐに降りる準備をして降りようとする。
「気をつけて雪見た目以上に深いから」
その言葉が聞こえた頃には雪に埋まっていた。助けを借り雪から抜け出した。
腰の辺りまで雪があったので着ていた服が
「いらっしゃい」
おばあちゃんの声が聞こえた。おばあちゃんは急いで階段を降りて、もう一度
同じことを言った。
父さんの実家は想像していたよりも広く、平屋だった。この家は船着き場から30分ほど歩いた場所にある。
「母さん久しぶり父さんは?」
「父さんはねぇそこの部屋で体調悪くして寝てるわ」
「どこが悪いんや前来た時元気やったやん」
「えっとねぇ〜ちょっとこっち来て」
おばあちゃんは下を向いて手招きした。それで父さんも何かに気づいたのか僕たちに小声で「すまん」とだけ言って奥の部屋へ去った。
「私たちは、こっちの部屋で待っているよ」
母が居間へ誘導する。
「うん」
居間で母と2人で一言も話さず静かな時間が流れた。
母と僕は何も話さなかったのもあり父がいる部屋からおばあちゃんの話し声が聞こえていた。聞こえたのはおじいちゃんに関することだった。
どれぐらい経った頃かわかわからないが泣くのが聞こえた。
きっとおばあちゃんが泣き出したのだろう。それは、おじいちゃんがもう長くは生きられないと理解するのに十分なものだった。
いけないことだと知りつつもお父さんとおばあちゃんの話が気になったので、
音を立てないよう静かに奥の部屋に向かった。
「父さんは、もう長くは生きられない。この前突然倒れて病院に連れて行ったの。そこで父さんが、病気にかかっているって言われたのその時お医者さんの顔色があまりよくなかったから手術が必要ですかって聞いたのそしたらね、手術をやってももう手遅れですって言うの、その後にねあと半年もつかどうかって言うの」
おばあちゃんは悲しみを抑えきれず、膝から崩れ落ちた。
「大丈夫母さん」
「ごめんね。続けるわ。その後、すぐに病室に行って父さんにその事を話したの。そしたら父さんが、あと半年か〜あいつとあいつの子に会いたいなぁ〜って言ったからあなた達を連れてきたの」
「会いに行ってくるよ父さんに」
その後父は僕と母を連れておじいちゃんが居る部屋まで行った。
父がそっと
病気で細くなった腕を父が優しく自分の手で包む。
僕はそれを見ても何も思わなかった。それは当たり前だと思った。
この人がおじいちゃんだと言われても実感がないのだ。急に知らない人が家族だと言われて家族だと思えるものだろうか。
他の人は他人の苦しみを悲しむことができるものだろうか。
人とあまり関わらず生きてきた自分には分からなかった。
「慎二お前ももう立派な父親になったんだな。そこにいるのがお嫁さんの
「そうだよ父さん。幸太ももう高校生になったんだよ。父さんが幸太を見たのは幼稚園の時が最後だろ」
「そうか、もうそんな前になるのか大きくなったなぁ。慎二あの棚に入っているものを取ってきてくれ」
「あぁ」
そう言って父は棚から一冊の本を持ってきた。
おじいちゃんはその本を開いた。そこには『成長記録』と大きな文字で書いてあった。
「慎二これは、お前が生まれた時の写真だ」
おじいちゃんは自分が父さんを抱いている写真を見せながら言う。
「お前が生まれてきた時泣いて喜んだよ。その時のお前はとても小さくてこの先ちゃんと育っていくか不安になったよ。お前はこの島で一番の小ささで生まれたがこの島の誰よりも大きくなったなぁ」
おじいちゃんは何ページかめくって入学式と書かれた所を見てまた話し出した。
「これが、お前が小学校に入学した時の写真だ。制服が大きくて手が隠れてる
なぁ。まだわしの半分の高さもないこの時のお前の笑顔に何回助けられたかなぁ。お前はわしがどんなにイライラしていても落ち込んでいても笑顔でいつもパパ遊ぼって言ってわしのイライラも落ち込みもどっかに飛ばしてくれて、さらに元気や勇気を俺にくれた。だからわしはここまで生きて来られた」
「父さん」
父は父のそばで泣いていた。
「わしに幸せをくれてありがとう。こんなわしを慕ってくれてありがとう。お前が息子で本当によかった」
「父さん‼︎」
僕はこのやり取りに少し憧れた。何故かは分からないがこういうのを悪くないと思った。
父はおじいちゃんの隣で手を握りながら最後を看取った。
おじいちゃんのお葬式が行われた。
島には葬儀社がないので島に呼び寄せて葬儀を行った。
多くの人が泣いていた。外には倒れ込んで泣いている人もいた。
僕はそんな様子の人達を見て重いと思った。
この会場でただ僕だけがおじいちゃんの死に何も感じていなかった。平然としていた。
翌日僕は、1人でおじいちゃんの居た部屋にもう一度行った。
おじいちゃんの部屋にあったもので気になった物があったからだ。
僕はそっと部屋に入り赤色の紐で閉じられている巻き物を取って、そっと部屋を出た。
部屋に戻ってその巻き物を見てみると、「雪女それに近くの危うし。それ全てを凍らす悪魔なり」と書いてある。
僕は幽霊などは存在しないと思っているし、雪女というものがいるのであれば、一度は見てみたいと思う。
そう思いながら巻き物を赤色の紐で閉じ元あった場所に戻しに行った。
その帰りに父から明日近くの神社まで行くことになったことを伝えられた。
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