太陽だって人間だからさ

Ririka

第1話

「暑い暑い言うのは別に自由だけど、言いすぎるのは良くないからね。太陽だって人間だからさ。」

陽の光の強さが窓からこぼれる熱で感じる木曜の3限の理科。吉田先生はメガネを取ってから汗を拭く人で、ほかの先生よりは好感が持てる。その理由だけではなく、吉田先生はほかの先生より顔がいい、充也〜(みつなり)と呼び捨てしても怒らない、背が高い、優しい、みんな僕の周辺の席の女子たちの評価であるが、その通りだなあと僕も思う。吉田先生は間違いなくいい先生に見える。


ただ一つを除くと。


「先生〜太陽は人間じゃないでしょー?てかそもそも生き物じゃないでしょ!」

「こんな丸くて、暑い生き物なんて居ないよな!」

「常に動いてるから先生にとっては生き物なんじゃないのー?笑」

みんなの頭の上にクレシェンド記号があるようにみんなの声は教室に広がる。僕だけが吉田先生を見ている。みんなは隣の席の子、後ろの席の子、前の席の子、アンシンメトリーの目線を自然と作りあげている。吉田先生はアンシンメトリーを見ている。

僕は吉田先生を見ている。息が吸えていない吉田先生を。奥歯を噛んでいる吉田先生を。目の白いところに血管が沢山あるんだよと吉田先生の目が主張している吉田先生を。大きく息を吸い直している吉田先生を。


吉田先生は力強く教科書で教卓を叩いた。


アンシンメトリーがシンメトリーになった。今はシンメトリーたちが息を吸えていない。吉田先生のおでこから汗の卵が産卵期のように流れ落ちる。メガネの奥を通っていった汗を見た。屈折を習った時、レンズを通ると大きさが変わると知った僕は、すぐに吉田先生のメガネが伊達メガネだったことに気づいた。

「太陽は生き物なんだ。常に水素とヘリウムが生じて循環しているんだ。常に新しい何かが生まれていて、常に動いてる。俺たち人間だって、常に呼吸してるし、常に細胞が生まれてる。同じだよ。」

吉田先生の顔に汗が増えていく。僕と吉田先生だけが呼吸している。吉田先生は舌で唇に潤いをあたえた。

「俺が明日まんまるになったら、もう、生き物じゃないのか?「俺」という意思はあるんだ。どんなに喋れなくても歩けなくても、意思があるんだ。それはもう、、、、。」

吉田先生は僕を見た。僕の目を見た。僕も吉田先生を見た。今にも蒸発してしまいそうだった。前にいるのは先生とは呼べない、とても弱く、愛しく、守らなければならないような生き物だ。吉田先生はなんて言うんだろう。怒らない先生が怒るのだろうか。僕の知っている吉田先生では無い。僕の目は吉田先生だけを見ている―


「、、、、そんな本を、15の今頃に読んだんだ。今日みたいに暑い日に。それからは俺は太陽が生き物だと思って仕方がないんだ笑」

シンメトリーが息を吸い込んだ。クレシェンドにアンシンメトリーに音が広がる。吉田先生は笑っている。口も目も笑っている。汗が笑っていない。どんどんどんどん落ちる。吉田先生はメガネをつけたまま汗を拭く。黒いタオルで拭いている。表面だけで笑っている吉田先生を僕は見てる。吉田先生はアンシンメトリーを見てる。

「それなんて本なんですかー?」

「それがな、なかなか思い出せないんだよ笑ってことで、授業に戻るぞー。ここは暗記が多くなって大変だから、頑張れよーーーーー!笑」

僕の汗がノートに染みていた。吉田先生のせいで落ちた汗なのか、太陽の暑さで落ちた汗なのか、授業よりも重要である。

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太陽だって人間だからさ Ririka @ririkan-kan

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