散らかってるけど…


そう前置きして、相原さんは二階にある自宅スペースに俺を誘った。


初めて入った相葉さんの部屋は、スポーツグッズに溢れていて…


「なんか意外かも…」

「そう? こう見えてもけっこう運動神経はいい方なんだよ?」


なんて笑うけど…


俺の知ってる相原さんは、いつだって爽やかな笑顔で、ちょっとだけおっちょこちょいで…でも相原さんの出してくれるコーヒーとパンは天下一品で…


とてもスポーツが好き、なんて風には感じなかった。


「あれ? 信じてない? 触ってみる? これでもけっこう筋肉あるんだから」


相原さんの手が僕の手を掴み、その手を相原さんの胸に導く。


「ね、中々でしょ?」

「う、うん…」


やばっ、ドキドキする…。

それに顔…、熱いって…


「あれ? 顔赤いけど…。あ、もしかして雪の中来たから、風邪ひいちゃったとか?」

「ち、違っ…」


否定しようとした俺の額に、相原さんの額がピタッとくっつく。


ちょっと…、顔、近いって…

つか、息…かかってる…


「うん、熱はないみたいだね。でも用心するに越したことはないから、一応薬飲んどく?」


いや、だから違うんだって…


「えっと、薬は確か…」


俺をソファーに座らせ、相原さんが棚をガサガサと漁る。


「あ、あったあった」


薬を手にした相原さんが振り返った…、と思った瞬間、


「のわっ!」


えっ、えぇぇっ…?


「うわっ…!」


足元に転がったボールを踏んだ相原さんが、バランスを崩して俺の上に覆い被さるように倒れ込んできた。


嘘っ…、これって…

押し倒されてるみたいじゃんか…


しかも…、キス…しちゃってるよ…


唇が重なったまま、相原さんと視線がぶつかる。


どうしよう…、目逸らしたら変に思われるだろうか…

でも、流石にこのままってのも…


俺は相原さんの背中に手を回して、背中をトンと叩いた。


すると相原さんが慌てた様に身体を起こして、


「ごめんね? 事故とはいえ、キス…なんかしちゃって…。嫌、だったよね?」

「い、いや、俺は別に…、寧ろ、嬉しいっていうか…」


俺、何言っちゃってんの?

驚きすぎてどうかなっちゃったのか?


「嬉しい、って…、それホント? だったらさ、こんなことしちゃっても平気?」


相原さんの手が伸びてきて、俺のセーターを捲り上げて、肌に相葉さんの熱い手が触れた。


「わ、わわわわっ…」


呆然とする俺を他所に、相葉さんの手は俺の肌の上を這いまわり、指先が胸の小さな粒に触れると、クルクルとパンの生地を捏ねるように転がした。


やばっ…、気持ちいいかも…


なんて思ったが最後、それからはもう…


あれよあれよと言う間に俺は着ている物を全部脱がされ、気付けば相原さんの匂いが染み込んだベッドに寝かされていた。


当然だけど、俺の両足の間には真っ裸になった相葉さんがいて…


「本当にいい?」


なんて、額に大粒の汗を光らせて聞いてくる。


つか、この状況で”いや”なんて言える?


本気で嫌なら、とっくに逃げ出してるよ。


でもそうしないのは、自分でも気付かないうちに相葉さんのことが好きになっていたから…


「いいよ、来て?」


俺は両腕を伸ばすと、相葉さんの汗でしっとりと濡れた肩に回した。


「じゃ、行くよ?」


言われて「うん」と頷いたものの、俺は自分がどれだけ無知だったかを、身体が裂けるような痛みによって思い知ることになり…


それでも苦心の末(?)俺は小さな悲鳴と同時に、相葉さんを受け入れていた。




そうして迎えた最後の瞬間、相原さんは脱力したように俺の上に倒れ込んできて、荒い息を整える間もなく、俺の唇に自分のそれを重ねて、


「大田さん…、言い忘れてたけど、俺、大田さんのことが好きです」


真剣な顔で言った。


「最初に店に来た時から…。一目惚れってやつです、多分…」


多分…、ってなんだ、多分て…


しかも、今?


「あの、大田さんさえ嫌じゃなかったら、俺と付き合ってくれませんか?」


だから…、嫌も何も…、嫌でこんなこと出来ないってば…


「俺も…、相原さんが好き…、初めてこの店に来た時から、ずっと…」


そう、俺はずっと相原さんのことが好きだったんだ。

初めて会った瞬間から…


ま、それに気付いたのは、ついさっき、なんだけどね?


「ふふ、まずはお互い”名前”で呼び合うトコから始めません?」


”相原さん”と”大田さん”じゃなくてさ、”雅也”と”智樹”ってさ…


天然な俺ららしく、ナチュラルにさ…




end…

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