12進数をみつめて

はっさく

ある日

ーーー午後0時15分、

「ほんといつも通り、決まった時間だな。もう少し人間らしさをつけられないもんかね。」

人の真似をした、体温の無い金属の塊が、まるで同類を見るような目をして、こちらに近づいてきた。嫌味に対しても、なんの反応もなく、まさしく人が作った心の無い奴隷のようだ。

この時間は昼飯の時間で、つい先日桜が散ってしまい、俺にとっては数少ない楽しみな時間だった。

しかし、温度だけ暖かい食事を持ってこられても、もう残り僅かな時間を温めるだけの熱量はないみたいだ。

楽しみだった食事も、いつのまにか作業にかわり、そしてその作業さえも面倒になってきている。


ーーー午後1時3分、

昼飯を食い終わった俺は、先週から事あるごとに時計を見ていた。

10進数で刻む卓上時計は、抜き足差し足で、しかし駆け足で、俺を明日へと引き摺っていく。

何度も何度も時計を見ていれば、その間は時間が止まっているんじゃないかと淡い期待を込めてみたり。

二時間目の授業じゃあるまいし、そんなことしなくても時間は平等に流れる。流れてしまうのだ。言われなくてもわかってるよ。


ーーー午後3時ちょうど、いや、今1分になった。

先週の、ちょうどこの時間だったっけな。もう俺は桜を見ることができない。雪が溶ける頃には、俺の命も消えているそうだ。


ーーー午後3時38分、

すこし時間が止まった気がする。


ーーー午後3時40分、

ああ、このまま止まってくれよ。

昔はあんなに好きだった入道雲が、

今は図々しく人の頭上で踏ん反り返ってやがる。


ーーー今は、午後3時42分

過ぎ行く季節を止める術は。

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12進数をみつめて はっさく @erararai

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