30. 責任の所在
「お前は、もう大丈夫なのか?」
俺の問いの意味を理解したオルガは、スッといつもの無表情に戻った。
ただ、その無表情は何処か固く、不自然に見えた。
「ええ、私は大丈夫です。問題ありません」
「……そんなわけないだろ」
家族を失って、問題ないわけがない。
「お前、ミュートとミューナのこと、凄くよく面倒見てるよな。
自分の睡眠時間削って子守唄歌ってやったり、二人がよく眠れなくて元気がない時は代わりに家事当番を引き受けたりしてたな。
どうしてそこまでしてやれるんだ?
別に、血の繋がった関係でもないんだろ?」
俺の詰問に、オルガは押し黙る。
理由など最初からお互い承知しているのだから、答える必要もない。
「お前は一人で抱え込んで無茶するタイプだからな。話したくなければ話さなくて良いけど、遠慮だけはすんな」
そう言ってやると、オルガは少しだけ目を見開いた。その紫色の瞳いっぱいに俺の姿が映し出される。
数秒ほどすると、オルガは手にしていた包丁をサイドテーブルに置き、ゆっくりと俺の隣に腰掛けた。
そして短いため息をつき、観念したように口を開いた。
「……私には、責任があるんです」
「責任?」
「はい。あの二人を助けた責任です」
その言葉に一瞬だけあっけに取られ、
「はんっ! アホ
思わず鼻で笑ってしまった。
「んなふざけた責任、あるわけないだろ。相手が助けを拒否しているのに無理やり助けたわけじゃないんだろ? なら、責任なんてもんは存在しない」
助けた側が何か責任を感じる必要は一切ないし、感じるのは間違っている。
もし助けられた側がそんなことをほざくようなら、そいつはそのまま捨て置いた方が良い。場合によっては殺し直した方が世のため人のためになる。
「いいえ、そういうことではありません」
しかし俺の嘲笑に、オルガは淡い苦笑いで返した。
「助けた責任、というのは正確ではありませんね。正しくは『助けた動機に対する責任』と言った方がいいでしょうか」
「助けた動機?」
「はい」
オルガは小さな溜息を一つ吐き、声を潜めた。
「私は、
目を伏せ、スカートの裾を握る手に力を込める彼女の姿はとても小さく、触れれば霞の如く消えてしまいそうなほど弱々しく見えた。
「これから言うことは、あの二人には内緒にしてください」
「ああ」
意を決したようにオルガが再び口を開く。
「私は、滅びた王族の末裔です」
「……王族?」
「はい。もう今はどこにあるかも分からない、小さな小さな国の王族。それが、私のご先祖様だったそうです。
戦争で国を乗っ取られたご先祖様は、僅かな従者と近衛に守られながら、国から遠く離れた土地にある村に逃げ延び、農民に扮して隠れながら生きてきました」
かつて日本でも戦で敗れた大名家が落ち延び、そのまま農民に身をやつすことが多かった。それの異世界版なのだろう。
「従者や近衛たちは、何の躊躇もなくご先祖様たちに付いてきてくれたらしく、ご先祖様達と共に素性を隠しつつ、陰ながら代々私の家系を守ってきたそうです。他の村人にはあたかも仲が良いだけの家同士と、いう体を装って。
そんな関係が、千年以上も続いたそうです」
千年……。
オルガは、辛そうに目を窄める。
「盗賊団に村を襲われたとき、彼らは私を逃がすために命を投げ出しました。何の文句も言わず、恐れすら顔に出さず、ただ微笑みながら『逃げてください』と、私にそう言って、私の盾となって死んでいったのです」
搾り出すような声は、一度も聞いたことがないほどに震えていた。
「逃げる間、私はずっと考えていました……私には果たして彼らが命を掛けるだけの価値などあったのか、と」
とうとう、一粒の雫が彼女の膝に落ちる。
「私の一族は追手に怯えるあまり、王に返り咲くことをとうの昔に諦めていました。それは、彼らもハッキリと分かっていたはずです。
それなのに、彼らは文句の一つも口にせず、何代、何十代にも渡って只管に私の一族に仕え、守ってくれたのです……」
握り締めた彼女の拳が血の色を失い、白く染まっていく。
「私に……そんな彼らに……仕えられる価値など……果たして……本当に……あったの……でしょうか……」
感情が高ぶり始め、紡ぎ出す言葉が震え、途切れ途切れになる。
「……教育係のエイダさんの授業を煩わしく思っていた私に……何処までも付いてくる護衛係のトールさんを鬱陶しく思っていた私に……調理係のシータさんが作ってくれた食事をいつも酷評していた私に……皆が命をかけて守る価値なんて、本当にあったのでしょうか……」
それは、自分のために死んでいった者たちへの懺悔。
「私には、それが分かりませんでした。ですから、目の前で泣いていたミュートとミューナを引っ張って、一緒に逃げたんです。彼女達を助ければ私にも多少なりとも価値があったのだと、私のために落としていった皆の命が無駄ではなかったのだと、そう思えるようになるために」
それは、自分が助けた者たちへの慙愧。
「もちろん二人を連れて一緒に逃げたことに後悔はありませんし、二人だけでも助かったことは素直に嬉しいです。
……ですが、私がミュートとミューナを連れていたのは、不純で自分勝手な理由からです」
それは、自分への戒め。
恐らく、それは一種の代償行為なのだろう。
自分を愛し、守り、育ててくれた、なのに自分は大切にしてこなかった、そんな人たちの代わり。
「……ですから、私には二人を助けた責任があるんです」
双子を助けた動機が純粋な──ただ助けたいという一心ではなかった。
そのことに、オルガは心をグチャグチャにかき回されているのだ。
そんな彼女に俺が掛けられる言葉など、一つしか無い。
「だから?」
突き放すように言い放つと、オルガはキョトンとした顔になった。
なかなか珍しい表情である。
「それがどうした?」
外的要因が原因ならば慰めればいいが、彼女の場合は内的要因──心の問題だ。
その場合の解決方法は「向き合う」しかない。
「助けた理由が不純? それのなにが悪い?」
俺はせせら嗤う──オルガの考えと悩みの、その全てを。
二人を助けた理由が不純だから駄目?
不純上等。
果てしない博愛で人類の原罪を一身に背負って死ねるイエス・キリストも、穏やかな慈愛で死の瞬間まで心の平穏を説いていたゴータマ・シッダールタも、世界には一人しかいない。
人間は誰かを助ける時、意識的にしろ、無意識的にしろ、必ず何らかの打算が入るもの。
それは、人間という種の本能だ。
病気の我が子に自分の臓器を提供する親には、我が子を失いたくないという打算が働く。
ホームレスに無償でシェルターと食事を提供する牧師には、神の言葉に従い己の信仰を貫き通すという打算が働く。
チャリティーに参加して大金を寄付する大会社の社長は、企業イメージを向上させたいという打算が働く。
一切の私欲を持たずに人を助ける人間など何処にも居ない。
だからこそキリストやブッダは偉大なのだ。
だけど、俺は問いたい。
打算を持って人を助けることは、果たしてそこまで薄汚れていることだろうか、と。
俺は、そうは思わない。
自分を犠牲にしてでも我が子を救う親は、偉大じゃないと言えるだろうか?
苦難の日々に喘ぐ人々に手を差し伸べる牧師は、偉大じゃないと言えるだろうか?
貧困国の子供たちに知識と笑顔をもたらす社長は、偉大じゃないと言えるだろうか?
打算が働こうとそうでなかろうと、それで救われている人間がいるのなら、それで良いのではないだろうか。
それで良いはずではないだろうか。
「お前はさっき、俺に『私達が助かったのはあなたのお陰です』とか言ってたけど、最初にお前が二人の手を引いて逃げていなければ、俺はあの二人と出会うことすらできなかったんだ」
二人が今も生きて笑っていられるのは、突き詰めればオルガが二人の手を引いたお陰なのだ。
俺がどうこうしたというのは、彼女の行動あってのこと。最初に卵を生む鶏がいなければ、卵など生まれるはずはない。そうなれば、どちらが先かなどという論点自体が存在なくなるだろう。
因果論の果てにあるのは、いつだって主観的結論だけなのだ。
「商人は『
俺の言いたいことが分からず、オルガは依然キョトンとしたままだ。
「俺は、人助けにもそれが当てはまると思う。
助けられた相手は『助けられた』という利益を得て、助けた側は『
損する者はいない」
「で、ですが、これは損得の問題では──」
「損得の問題だよ。
というか、結果の問題だ。
どれだけ途中経過が複雑だろうと、最後にはちゃんと両者が得をすればそれで良い。『助けたこと』と『助けられたこと』、その二つの結果があれば、それで良いんだよ」
世の中、結局は結果が全てなのだ。
幾ら努力して勉強しても、入学試験で結果を出さなければ大学には通えない。
幾ら努力して営業しても、契約を取れなければボーナスは貰えない。
途中経過など関係ない。全ては結果という絶対的事象に集約される。
その証拠に、テストの結果ではなく個人の努力と態度を重視した「ゆとり教育」は、僅か30年ほどで廃止され、いまや世間の笑いネタにされている。
人助けだって同じだ。
救われた者がいる。その結果だけで、全てが報われる。
そうでなければおかしい。
「お前、さっきは俺に『それでも、私たちはあなたに救われました』って言ったろ。お前の悩みは、その言葉を真っ向から否定することだぞ。だって、俺は打算たっぷりでお前たちを助けたんだから。それなのに、お前たちは救われたと感じた」
自分で口にした言葉は大抵ブーメランのように自分に返ってくるものだ。
他人のことはちゃんと見るくせに、自分のことになると何も見えない。
それが人間の
「結局、救う側の『動機の是非』なんてものは、そもそも存在しないんだよ。
救われる側が救われた──その結果があれば全て良しだろ」
そんな俺の持論を聞いたオルガは、徐に薄い苦笑いを浮かべた。
「……そうですね。あなたの言う通りです」
「だいたい、ミュートとミューナを救ったことについて思い悩むなんざ、二人に失礼だと思うぞ」
打算で人を助ける行為を否定するのは、それによって救われた命を否定するのと同じだ。
それは、病床で生死の境を彷徨う子供に「お前の親は打算でお前を救おうとしている。それは間違っている。だからお前はこのまま死ぬべきだ」と言っているのと同じだ。
それは、路傍で行き倒れている困窮者に「あの神父は打算でお前を救おうとしている。それは間違っている。だからお前はこのまま苦しみ喘ぐべきだ」と言っているのと同じだ。
それは、学校に行けずに生活を変えられない貧困国の子供たちに「あの社長は打算でお前たちを救おうとしている。それは間違っている。だからお前たちはこのまま学もなく貧しいままでいるべきだ」と言っているのと同じだ。
人助けに打算や思惑があってはいけないと考えているオルガは、良くいえば純粋、悪く言えば極度の潔癖症なだけだ。
もし「打算」や「思惑」という言い方だとマイナスイメージが強いなら、「願い」や「希望」と言い換えてもいいだろう。
「そうですね……」
少しだけホッとしたオルガの顔は、しかし依然として暗いままだった。
「ミュートとミューナの命で自分の価値を証明しようだなんて、やはり私は──」
「代々仕えてきた人たちが命を掛けて守るほどの価値はない、か?」
これこそが彼女にとっての本題だろう。
ミュートとミューナを救った責任云々は、この悩みの副産物に過ぎない。
要するに、オルガは「自分には彼らの命に相応しいだけの──救われる価値がない」と考えているのだ。
……救われる価値、ねぇ。
それも、とても馬鹿らしい話だ。
「お前のその悩み、死んでいった彼らに対しての侮辱だって分かってるか?」
「……え?」
俺の言葉の意味が分からず困惑するオルガに、俺はサイドテーブルに置いている包丁を指差した。
「例えば、そこの包丁。
一生台所に立たない王族にとっては何の価値もないガラクタだけど、戦場で武器を失った兵士にとっては喉から手が出るほど欲しい救命胴衣だ。
価値なんてものは、観測者の主観でいくらでも変わる」
「観測者の主観、ですか」
「そう」
普通なら「自分の価値は自分で決めるものだ!」みたいな自分探し本から引用したようなことを言うべきなのだろうが、オルガに限ってはその逆だろう。
彼女は自分を見失っているのではなく、大切にしてこなかった人たちに負い目を感じているのだ。
「彼らはお前を逃がすために命を投げ出したんだろ? なら、彼らにとってお前は、自分達の命よりも価値があったということだ。自分たちの命が失われることよりも、お前の命が失われることの方が嫌だったんだよ」
誰かを殺すことと同じように、誰かのために死ぬことだって、本人に譲れない何かがあるから出来ることだ。
命の価値は、決して平等などではない。
大事な人の命は、その他の人間の命よりも遥かに価値が高い。
「お前が彼らをどう思っていようと、彼らがお前を大事に思っていたことに変わりはない。
お前が自分に価値がないと思うのは勝手だが、それは彼らの価値観に関係しない。
彼らを大切にしてこなかったというお前の後悔を、彼らのせいにするな」
俺の突き放すような言葉に、オルガは雷に打たれたようにハッとし、やがて頬を染めて俯いた。
初めて見る、オルガの恥じの表情だ。
「自分には救われる価値がない?
その考えは、彼らの死が犬死だったと評価付けるようなものだ。お前たちが命を投げ出して救ったのは価値のないゴミだった、ってな。
どう考えても、彼らへの最大最悪の侮辱だろ」
さっきまでは「助ける側の動機や理由は重要じゃない」と言いながら、今は「助けた側の考えや気持ちを察しろ」と諭す。
我ながら矛盾だらけの理論だ。
でも、後悔と自責でいっぱいの彼女には、論理的な説得よりもこうした屁理屈による論破が効く。
こういうのは、謎理論で悩みを粉々に打ち砕いてやったほうが、意外となんとかなるものなのだ。
「ま、要するに、大切な人たちを大事にしてこなかったこと以外、お前が悪いことなんて何もないってこった。
双子を助けたことは素直に誇れ。故人たちに負い目があるのなら、これから出会う人たちを大切にしろ。それで万事解決だろ」
「…………」
オルガは暫く黙っていた。
セメントタンカーの中でグルグルと混ぜられているセメントみたいにドロドロでグチャグチャになった心を整理するかのように、顔を俯かせていた。
傍から見たら的外れで回りくどくて見当違いもいいところだけど、その人にとっては何よりも深い悩み。
自責と後悔と羞恥と悔しさが混ざったような、苦くて渋い悩み。
アイデンティティクライシスとはまた違う、挫折と喪失を味わったことのある人間だけが持つ悩み。
そんな彼女の悩みを、俺は無責任に笑い飛ばし、無責任に打ち砕く。
俺には弥生さんやマリアさんのような包容力はない。
俺にできるのは、自己中心的で矛盾だらけな屁理屈ですべてをぶち壊すことだけ。
師匠だって、博士号が取れるくらい心理学に精通しているくせに、俺の思春期な悩みや人生への苦悩とかに対しては、捻くれた持論や屁理屈による艦砲射撃しかしてくれなかったしね。
案外、ガチな心の病気ではない軽い悩みには、こういった荒療治が効くのかもしれない。
黙ったままのオルガの頭を、師匠がしてくれたようにポンポンと軽く撫でてやる。
すると、透明な涙が一滴、彼女のスカートに落ちた。
そうして彼女は暫くの間、静かに涙を流したのだった。
◆
暫くして。
オルガは徐に顔を上げ、静かに口を開いた。
「ありがとうございます。少しだけスッキリしました」
その端正すぎる顔は、既にいつもの感情を伺わせない静かな無表情へと戻っていた。
けれど、彼女の言葉が示す通り、その無表情はどこかスッキリとしていた。
「それはよかった」
「とても捻くれた考え方ですが、偽悪者であるあなたが言うと妙に説得力があります」
「ぎ、偽悪者?」
「はい。悪者ではないのにわざと悪者ぶる人のことです」
「いや、単語の意味はなんとなく分かるけど、なんで俺がそうだと思うんだ? 俺、普通に悪者だぞ? 嘘もつくし、人も殺すぞ?」
そう言った俺に、オルガは少し悪戯っぽい笑顔を浮かべると、論破するように滔々と語ってきた。
「自分の身を守るためならば私も嘘をつきますし、人も殺します。私が言っているのは、そのような
当たり前て……。
「全ての人が幸せになれる選択肢を自然と取ってしまう人を『善人』と呼びます。
あなたが善人であることは、私達を助けてくれたことが証明しています。
そして、あなたは善人のくせに、あたかも悪者であるかのように──露悪的に振舞う。
ですから、私はあなたのことを偽悪的な人──偽悪者と呼んでいるのです」
俺の目を真っ直ぐ覗いてくるその紫色の瞳は、何処までも透き通っていた。
「……でも俺、お前たちのこと脅してるぞ? 秘密をばらしたら殺すって」
「あなたはそうやって自分を悪者のように言いますが、私達への脅しも、全ては自分が損をしないことを前提とした自衛策に過ぎません。
先ほども言いましたが、どんなに善良な領主でも、秘密を守れない使用人は躊躇なく処刑します。それは当たり前のことなのです。
本当の悪人ならば、約束や脅しなどという不確かなことはせず、躊躇なくあの森の中で私たちを殺したでしょう。
対して、あなたはそうしなかったどころか、私達の生活と村での待遇を改善しようと野菜やハーブの栽培まで画策してくれました。
私達全員が幸せになれるようにしてくれたのです」
「それは……その方が効率が良くて利益が最大になるから──」
「そうですね。でも、もっと他にも安全に利益を上げることはできたはずです。
例えば、私たちを売り飛ばすとか」
「…………」
「それをよしとしなかったあなたは、やはり悪人などでは決してないと私は思います」
オルガは微笑む。
「何より、あなたはミュートとミューナのことを心配してくれました。なんとも思っていない──利用するしか用のない相手に、心配などしないでしょう?」
「…………」
「あなたが何故そこまで悪人ぶろうとするのかは分かりませんが、少なくとも私はあなたが心優しい人間であることを知っています」
「……人を新種のツンデレみたいに言うな。別に不良がカッコいいとか思ってるわけじゃねぇよ。俺はただ自分が『クソ野郎』っていう事実をだな……」
「ええ。ですから、あなたは偽悪者だと言ったんです」
とても優しい笑顔を浮かべるオルガ。
その人形のように綺麗な顔は、目が離せなくなるほど美しく見えた。
思わず頬が熱くなる。
ヤバい。
なにこの状況。
なんでこんなに恥ずかしいんだろう。
そろそろ俺の体温調節機能がオーバーヒートしそうになった頃。
廊下からバタバタと二人分の足音が聞こえてきた。
「ねぇちゃん、にいちゃん、おはよー!」
「おねぇちゃん、おにいちゃん、おはよ~」
元気の良いミュートの声と若干眠そうなミューナの声が廊下に木霊する。
みんなが起きている前提で叫ぶなよ。
「二人も起きたことですし、朝食にしましょう」
オルガは置いていた包丁を手に取り、俺の部屋の扉を開けて廊下へと出る。
「速くしてください、偽悪者さん」
「その呼び方やめろ」
苦々しく応じる俺。
対するオルガは、実に楽しそうな、それでいてスッキリしたような笑顔を浮かべていた。
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