03. SA:出会い

 ――――― SIDE:アルデリーナ ―――――




 迫りくる死の刃に、目を瞑らずにはいられなかった。


 死そのものは、さほど怖くはない。

 怖いのは、姫様を守りきれないこと。


 暗殺者の突き出した曲刀の風切り音に、私は無念を噛み締めた。


 ……嗚呼。

 どうやら、今度こそ終わりのようだ。


 申し訳ありません、姫様………。




「おい、そこのあんた。いきなり人に火の玉ぶつけるなんて、何考えてんだ」




 突如舞い降りたそのセリフに、全員の動きが止まる。


 呆れをふんだんに含んだ、不満の文句。

 場の雰囲気からあまりにもかけ離れたその一言は、音量以上に大きく響いた。


 暗殺者の男が驚きに見開かれた目を声のした場所に向ける。私と姫様も自然とそれに続いた。


 声がした場所。

 それは仮面の少年がいた場所だった。

 惨たらしい焼死体があるはずのそこには、不思議なことに僅かな焼け跡すら付いていない。

 代わりに、まるで何事もなかったかのような、先ほどと寸分違わない姿勢で立つ無傷の少年の姿があった。


「危ないだろ」


 まるで聞き分けのない子供に言い聞かせるような口調。

 涼しげな態度の仮面の少年に、暗殺者の男が困惑を顕にする。


 当然だ。

 なにせ、この仮面の少年は暗殺者の男が放った《炎の玉ファイアボール》を避けも防ぎもせず、まともにその身に食らったのだ。

 彼が炎に巻かれる光景を、この場にいる全員が目の当たりにしている。

 勘違いも見間違いもない。


 だと言うのに──無傷。


 これで驚かない人間がどこに居るだろうか。


 全員が驚愕に動けないでいると、少年はゆっくりとこちらに足を向けてきた。


「なぁ、そこの覆面のあんた。今の、魔法だよな? 出来損ないの《火炎弾フレイムブレット》か? 何でそんななんだ?」


 少年の問の数々には、微かな驚きと濃い困惑が含まれていた。


 その問いで驚きから覚めた暗殺者の男が、困惑しながらも素早く二発目の《炎の玉ファイアボール》を詠唱。まるでそれが少年の問いに対する回答とでも言うかのように、無防備に接近してくる少年に向かって撃ち込んだ。


 人頭大の火の玉が再度、仮面の少年へと迫る。


「だから危ないって」


 飛来する火の玉に向かって、少年は羽虫でも払うかのように、右手を軽く横に振る。

 それはあまりにも適当で、この上なくいい加減で、どこまでも無造作な動作だった。


 なのに──


「「「────ッ!?」」」


 暗殺者の男のみならず、私と姫様までもが息を呑んだ。


 消えた!?

 人を容易く焼き殺すはずの《炎の玉ファイアボール》が、「プスッ」という間の抜けた軽い音と共に空中で跡形もなく霧散した!?。


 理解不能な事態に、驚愕を通り越して心身が凍りつく。


「なんなんだその火の玉? 特殊属性や防壁貫通特性の付与も無ければ、情報構造体への直接干渉もない。それどころか、燃焼系魔法の初歩理論すら応用していないじゃないか? っていうか、そもそもまともな魔法構成式すら組まれてないぞ。まさかとは思うが、で魔法を構築してるのか?」


 ゆっくりと歩みを進めながら、少年は首を捻る。


 攻撃魔法である《炎の玉ファイアボール》を打ち消す──そのこと自体は、さほど難しい訳ではない。

 やろうと思えば、水魔法や風魔法をぶつけるなり、《魔力の盾マジックシールド》で受け止めるなりすれば、簡単に再現が可能だ。


 だが、にはならない。


 水魔法で打ち消そうとすれば、先ず、水の塊を生み出さなければならない。

 風魔法で打ち消そうとすれば、先ず、風を吹き起こさなければならない。

 《魔力の盾マジックシールド》で食い止めようとすれば、先ず、淡く光る透明な薄膜──魔力の盾を形成しなければならない。

 いずれにせよ、火球に「直接ぶつける何か」を生み出す必要があるのだ。


 だが、この少年にはそれがなかった。


 彼は指すら伸びきっていない手を無造作に振っただけ。

 火の玉に触れることも、火の玉にぶつけるべき「何か」を生み出した痕跡も、何もなかったのだ。

 それで一体どうやってあの殺傷性の高い《炎の玉ファイアボール》を打ち消したというのか……。


 いや、それ以前に、そもそも《炎の玉ファイアボール》という魔法は、あっけない消え方をするものなのか?

 では、まるで「消えよ」と命じられたかのような、或いは自ら燃えることを諦めたかのようではないか。


 そんな不可解な《炎の玉ファイアボール》の消し方は、見たことも聞いたことも無い。



「……ば、馬鹿なッ!」


 一貫して無口だった暗殺者の男が、喘ぐように口を開いた。


「一体どうやって……!? それに、『無詠唱』だとッ!?」


 少年が《炎の玉ファイアボール》を打ち消した時、彼の指先からは極微量の魔力が放出されていた。

 魔力に敏感な体質である私だからこそ見抜けたというべきか、私ですら見落とすところだったと言うべきか、兎に角、彼は瞬間的かつ信じられないほど微弱な魔力を間違いなく指先から放出していたのだ。

 魔力を「身に纏う」のではなく「体外に放出する」ということは、彼は《炎の玉ファイアボール》を打ち消すために、何らかの魔法を用いたということ。常識的に考えても、飛来する途中の《炎の玉ファイアボール》を何の予備動作も無しに空中で打ち消す方法など、何らかの魔法しかあり得ない。


 恐らく、暗殺者の男もその考えに至ったのだろう。

 だからこその困惑と驚愕、そしてあの「無詠唱」という発言だ。


 そう。

 無詠唱。


 確かに、少年が謎の方法で軽々と《炎の玉ファイアボール》を消したことにはとても驚かされた。

 だが、暗殺者の男が口にした「無詠唱」という言葉に比べれば大したことではない。



 魔法の発動には、呪文の詠唱が必須だ。

 十分な魔力と明確なイメージ、そして正しい呪文の詠唱。

 この三つが揃って初めて魔法は発動するのだ。


 呪文は、省略することは出来ても、無くすことは出来ない。

 例えば、先程私が発動した《魔力の盾マジックシールド》は、本来「"身に宿りし魔力の奔流よ、強固な盾となりて我を守れ"」という呪文を唱える必要があり、それを怠ったり文言を間違えたりすれば、魔法は発動しなくなる。

 私の場合、「省略詠唱」という特殊な詠唱技法でその呪文を「"盾となれ"」まで短縮しているが、「省略詠唱」を習得していない人間がやれば、魔法は普通に発動しない。

 この「省略詠唱」はかなり魔法に精通した者にしか使うことが出来ない高等技法だ。私が国内でもトップクラスの魔法の使い手として認められたのも、この「省略詠唱」が扱えるからである。


 そんな私ですら、呪文を完全に省略する事はできないし、実際、魔法を発動する時は短いながらもちゃんと呪文を唱えている。

 どんなに簡単な魔法でも、呪文無しで発動することは出来ないのだ。


 しかし、この世にはそれが可能な者たちが存在する。

 それが「無詠唱者」と呼ばれる者たちだ。


 その名が示す通り、無詠唱者は呪文を一切唱えずに魔法を行使することが出来る。


 先程、仮面の少年は何らかの魔法を使って《炎の玉ファイアボール》を打ち消した。

 だが、呪文に相当する文言を口にした形跡は、一切なかった。まさか「だから危ないって」というのが呪文であるはずもない。


 つまり、少年は呪文を詠唱せずに魔法を発動できる──無詠唱者ということ。



 ジリッ、と暗殺者の男がゆっくりと身を低くして曲刀を構える。覆面の隙間から覗く肌には、脂汗が滲んでいた。


 無詠唱者は非常に稀有な存在だ。

 その希少性は一千万人に一人とも、五千万人に一人とも言われるほど。学術的には「特殊能力」とも「そういう体質」とも「女神様の恩恵」とも言われているが、数があまりにも少な過ぎるため、彼らに関する研究は今でも殆どが空白だ。

 我が王国でも、その存在はまだ一人しか確認されていない。


 そして、無詠唱者は総じて戦闘能力が高い、というのが定説である。

 呪文を詠唱する必要がないということは、それだけ相手より速く魔法を発動できるということ。それは戦闘において比類ないアドバンテージとなる。対する相手は、魔法の発動速度に劣るという大きなハンディキャップを強制的に背負わされることになる。一瞬が生死を分ける戦場では天と地ほどの差が生まれるのだ。


 そんな希少で強大な存在が、目の前にいるのだ。

 その事実がプレッシャーとなって、この場にいる全員にのしかかっている。

 特に、少年を殺そうとした暗殺者の男は、それを誰よりも強く感じているのだろう。滝のように流れる脂汗を拭いもせず、男は身構えたまま一歩も動かない。いや、動けない。


 暗殺者の男の仕草に小さく肩を竦めた少年は、進めていた足を止め、「ふむ」と独り言ちて私と姫様の方を向く。


「そこの美人なお姉さん」


 少年の呼びかけに思わず姫様を強く抱きしめてしまう。

 この場にいる女性は私と姫様しかいない。「お姉さん」というからには、恐らく私のことだろう。


「この黒い覆面の人は、あなた方のお知合いですか?」


 そう言って、少年は臨戦態勢の覆面男を指差した。


「──は!? ち、違うっ! 奴は──奴らは、私達を害そうとする賊だ!」


 違うと分かっていながらわざと尋ねた、というのは明白。恐らくは念のための確認だろう。

 それでも、私は叫ばずにはいられなかった。こんな奴らと知り合いだと思われるなど、冗談ではない。


 そうですか、と呟いて、少年は顎を擦る。


「さっきのあなたの発言と今の状況を合わせて考えるに、あなたとあなたの腕の中のお嬢さんはそこの覆面男に襲われている最中で、私はそれに巻き込まれた、ということでよろしいでしょうか?」


 思わずギクリと身を固くしてしまう。

 少年の言葉は、一言一句が正しい。


 おずおず頷くと、少年は「う〜ん」と困ったように唸り出してしまった。


 今だ。

 切り出すなら、今しかない。


 私は姫様を背後に隠し、少年が何かを言うよりも速く両手を地面に着け、叫ぶように懇願した。


「貴殿にお願い申し上げる! どうか、我々を助けて欲しい!」


 騎士としての矜持も、貴族家子女としての嗜みも、今この瞬間に限っては全てどうでもよい。

 この瞬間に頭を下げずに、何時下げるというのか。

 私は姫様の騎士だ。姫様をお守りするためならば、土下座も恥と思わない。


 この仮面の少年は、間違いなく強い。

 攻撃魔法を二発も浴びせられたというのに、意に介した素振りすら見せていないのだ。戦場に身を置きながらこれだけの余裕を見せる者が、強くない道理はない。

 今この場に姫様を救える者がいるとすれば、天地を作りし「創世の女神様」とこの仮面の少年を除いて他はないだろう。

 前者は崇め奉る存在ではあるが、頼るべき存在ではない。

 ならば、助力を求めるべきは、目の前の少年だけだ。


「厚かましいことは重々承知している! しかしどうか、どうか御力をお借りしたい! だけでいい! どうか助けてやって欲しい!」


 必死に叫びながらも、私ははっきりと自覚していた。

 私は卑怯だ、と。


 全てをかなぐり捨てて額を地面に擦り付けているというのに、私の言葉は打算に満ち満ちていた。


 彼を直接攻撃したのは暗殺者の男だが、彼に声を掛けて巻き込んだのは私達の方だ。私が声を掛けなければ、彼は今回の件に無関係でいられた可能性もあった。

 少年が先程わざわざ自分の置かれている状況を確認してきたのは、私達と暗殺者、どちらに責があるのかを判断するためだったかもしれない。

 そして、それを思考材料として吟味し、どちらの味方に付くかを決めようとしていたのかもしれない。

 そう考えたからこそ、私は間髪入れずに「助けてくれ」とまくし立てたのだ。

 彼の気を逸し、情に訴えかけるために。


 懇願とは名ばかりの、卑怯な思考誘導。

 それが私が取った行動の本質だ。


 最も卑怯なのは、姫様の身分を偽ったこと。

 今回のことは、間違いなく「王族の暗殺事件」だ。

 政治のゴタゴタの中でも、王族にまつわるものは最も複雑で最も危険な部類に入る。大貴族でさえ関わり合いになるのを躊躇うのだから、平民は言わずもがなである。

 私は、彼に「王家の問題になど関わりたくない」と思わせたくなかった。だからあえて姫様を「この子」と呼び、王族であることをひた隠しにしたのだ。

 豪商の娘と勘違いしてくれれば幸い。それが駄目でも、貴族の娘とでも思ってくれればよし。そうすれば、報酬目当てに手を貸してくれる可能性も出てくる。


 少年をここまで巻き込み、果てにはその命を掛けさせようとしているのに、私の言葉は打算だらけだ。

 卑怯という他ないだろう。


 悪いとは思っている。

 でも、謝りはしない。


 姫様をお守りできるのであれば、私はどこまでも卑怯になる。

 罰ならあの世でいくらでも受けよう。

 だから、今だけは────


「はぁぁ……」


 少年が短い溜息をついた。


 この場にいる全員がゴクリと唾を飲み込む。

 あれだけ執拗に私と姫様を狙っていた暗殺者の男も、今は微動だにしない。

 有無を言わさず二度も攻撃を仕掛けたのに、少年は反撃に出なかった。それは偏に少年に見逃してもらっているからだ、と男も分かっているのだ。

 少年が無詠唱者だと判明し、男もこれ以上不用意に敵対することを避けたいのだろう。今は窺うようにただ曲刀を構えたまま佇むのみである。


 全員が少年の次の言葉を──その決定を、静かに待ち受ける。


 そして、少年は遂にその口を開いた。



「……面倒事は御免です。私の願いは、静かに暮らすことですから」



 目の前が真っ暗になった気がした。


 少年の言葉は、私達を見捨てるという宣言に他ならない。

 私たちは、唯一の希望に手を振り払われたのだ。


 お終いだ……。


 絶望が足元から這い上り、全身を蝕む。

 なまじ希望を持ってしまったがために、絶望をより濃く感じてしまう。横で小さく安堵する暗殺者の男の吐息が、私の絶望に拍車を掛ける。


 こうなったら、もはや最悪な一手を打つしかない。


 目撃者を消すのは暗殺の基本。

 暗殺の現場を見られた以上、黒糸ブラックスレッドが少年を見逃す可能性は限りなく低い。たとえこの場では手を出さずとも、奴らは必ず延々と少年を付け狙い、いずれ何らかの手段で殺そうとするだろう。


 私の最後の手段とは、少年にその事実を明かすこと。

 つまり、「暗殺現場を目撃したから必ず口封じされるぞ」と少年に告げ、無理やり味方に引き込むのだ。


 脅迫同然な上に、そうなった原因の一端を作ったのはこちら側なのだから、手段としては最悪手と言わざるを得ないだろう。場合によっては、少年が敵に回る可能性すらある。


 こんな手段は取らないに越したことはない。

 だが、もはやこれしか手は残されていないのだ。


 私が意を決して口を開こうとしたその時、一瞬だけ早く姫様が動いた。


「妾からもお願いする!」


 私の背後でじっとしていた姫様は、私の前へ躍り出ると、少年と正面から向き合い、迷いなく地面に両膝と両手を着けた。


「妾の名はシャティア!

 シャティア・イクセル・ペンドラス・シール=アルフリーゼじゃ!

 そなたを此度の騒動に巻き込み、本当に申し訳なく思っておる!

 妾たちがそなたに何かを頼める義理はないというのはこの上なく承知しておる!

 しかしそれでも、伏して願いたい!

 どうか、妾と騎士団の皆を助けてくれ!」


 一国の姫君が土下座など、決してあってはならないことだ。それは姫様が最もご理解しているだろう。

 それでも、姫様は全てをかなぐり捨てて額を地に着けた。


「妾たちは、まだ死ぬわけにはいかぬのじゃ!」


 顔を上げ、姫様はそう言い放った。

 涙を湛えたその瞳は、決意に満ちていた。

 土埃の痕が残るその御顔は、毅然としていた。

 震えながらも血を吐くように発されたその御声は、懸命さに溢れていた。

 打算的な私とは違い、堂々と自ら名乗りを上げられた姫様の願いはどこまでも純粋で、その思いはどこまでも真っ直ぐだった。

 まさに魂の篭った言葉だ。


 少年は姫様を見つめ、「はぁぁ」と再び短い溜息をついた。


「……子供がそんな顔すんなよ……」


 少年が消え入るような声でそう呟いたのが聞こえた。

 まるで何かに苛立っているかのような、それでいて何かを悲しんでいるかのような声色だった。


 ヤケクソ気味にボリボリと後頭部を掻くと、少年は再度ため息を吐き、気を取り直したように暗殺者の男に向き直った。


「で、そこの見た目からして暗殺者っぽいあんた。ちょっと訊きたいんだけどさ──」


 片手を腰に当て、少年は暗殺者の男に問うた。




「このまま俺が何もせずに立ち去ったとして、あんたは本当に俺を見逃してくれるのか?」




 挑むような響き。

 その仮面の下で口の端を吊り上げて冷ややかな笑みを浮かべていることがハッキリと分かる、そんな口調だった。


 嗚呼……

 彼を脅そうなどと賢しらに企んでいた私は、なんと愚かだったのだろうか。


 私が脅すまでもなく、彼は最初から分かっていたのだ。たとえこの場で暗殺の邪魔をせずとも、暗殺者達は必ず口封じのために彼を殺そうとすることを。

 こんなことを彼への最終手段切り札にしようとしていた私は、なんと浅はかだったのか。振り返るだけで身悶えしそうだ。


 とは言え、これは私たちにとっては福音に他ならない。

 彼は言外に「口封じのために自分を殺そうとする暗殺者の男」にではなく「土下座して助けを乞うた姫様」の方に付くと言っているのだ。


 と同時に、それは暗殺者の男への宣戦布告でもあった。


「…………ッ!」


 少年が完全に敵に回ったことを悟った暗殺者の男の行動は素早かった。

 もはや話し合いは無意味。

 あるのは殲滅のみ。


 風のように少年へと踏み込むと、暗殺者の男は渾身の力で曲刀を真横に振るった。

 電光石火の如き早業。

 閃光が如き剣光が走り、命を刈り取る刃が動かない少年の頸部を真横から襲う。


 高速で首を刈る、即死の一薙ぎ。


 飛び込んだ男が、棒立ちの少年と交差する。



 ────斬



 血飛沫が舞い、首がボールのように飛んだ。

 頭部を失った体は糸が切れた人形のように崩れ落ち、そのまま動かなくなる。

 一拍遅れて、切り飛ばされた首がボトリと地面に落ち、コロコロと転がった。


 静寂が訪れる。


 相対した二者は、片方が倒れ、もう片方が屹立していた。

 私の目に映るのは、凛然と立つ者の、その姿。



「……ったく。先に手を出したのはそっちだからな?」



 立っているのは、仮面の少年の方だった。

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