あまがみ

 やさしく、やさしくね。



 お母さんが言うから、私はそっと口を開いた。



 そうよ。柔らかいから、やさしくしないと駄目よ。



 おそるおそる舌を差し入れて、そっと持ち上げる。



 上手、上手。やさしくね。



 私は褒められたのが嬉しくてよいしょ、と顎をあげた。


 その瞬間ずぶりと牙が沈み込む。


『あ゛あ゛あ゛ッ』


 聞こえた絶叫に思わず咥えたそれを吐き出して、耳を伏せる。



 あぁ……だから言ったでしょう? 人間は柔らかいの。


 あまがみでも皮膚が裂けてしまうわ。


 次のペットを捜さないと駄目ね。



 お母さんはそう言って、大きな牙が並ぶ顎を開いた。


 

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忌憚幻想譚《キタンゲンソウタン》 @kanade1122

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