ありがとう

「ねえリコちゃん、ありがとう」


 幼なじみのカコちゃんは、いつも私にお礼を言う。


 小さい頃から、もうずーっと。


 最初がいつだったかなんて思い出せないくらい、小さな頃から。


 だから聞いたことがある。


「どうしてお礼を言うの? 私、カコちゃんになにもしてないのに」


 そうしたら、カコちゃんは少し困った顔で微笑んだ。


「だって、リコちゃんは私を助けてくれるから」


 正直、助けた覚えなんてないんだけどな。


 相談を受けたり、転んじゃったカコちゃんに手を貸したり、そんなことはあったけど。


 そんなの友達だもん。当たり前じゃない。


 ――そんなカコちゃんからお礼を言われる回数がさらに増え始めたのは、中学生の終わり。


 会う度にカコちゃんは「リコちゃん、ありがとう」と言う。


 まるでそれが挨拶みたいで、少し変な気持ちだった。


 でも、それがなんでだったのか、やっとわかったんだ。




 ききぃーっ、だぁーんっ!




 全身に衝撃が走って、かーっと半身が熱くなる。


 耳がじーんとして、世界中の音が聞こえなくなった。


 ぐるんぐるんと景色が回り、アスファルトの上でようやく止まったとき、私が突き飛ばして助けたカコちゃんが、向こうからゆっくり歩いてくるのが見えて。


 彼女は……微笑んでいた。


「ほら、ね? リコちゃん、ありがとう。……ばいばい」


 ああ、そうか。

 これが、助けるってことなんだ。


 カコちゃんは、こうなることを……知っていて…………。


 私の世界は、真っ暗闇になった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る