第八話 国防忍者
☆☆☆その①☆☆☆
廃ビル六階の中央ホールは、天井が八階まで吹き抜けの構造だった。
ターゲットであるマッチョ犯罪者のほかに、防塵マスクで顔を隠した男、サングラスの男、スキンヘッドの男がいて、合計四人が円座で武器のチェックをしている。
みな、マシンガンや手榴弾などを手に、何やら雑談に興じていた。
四人組のリーダー格はターゲットとして指定されたマッチョ男で、新しい火器を手に、四人とも興奮している。
「うひょ~っ! このマシンガン、バリバリの新品じゃねーかっ!」
悪い笑顔なリーダーの言葉に、サングラスの男が、オネェ風に応える。
「パイナップル(手榴弾)も、タップリあるわぁ!」
防塵マスクの男が、マシンガンを満足気に弄りながら、ノンビリと話す。
「車もぉ、東南アジアのぉ、廃車工場からのぉ、盗難車だからぁ、足がぁ、つきにくいんだよおぉ」
スキンヘッドの男も、関西訛りで同意する。
「せやでぇっ! 組織も俺たちの活躍に、エラい期待してくれてるっちゅうこっちゃ!」
マッチョが立ち上がって、窓の外を眺めて、確かめる。
「まだ明るいモンだなあ。指令にあった『繁華街での銃撃テロ』は、夜だったよな」
「あと四時間くらいかしら。ぁあん、何人 殺せるかしらぁ!」
「競争だよねぇ。僕が一番ん、沢山ん、殺すんだあぁ」
「アホか! 一番はワシやっちゅの!」
殺人談義で盛り上がる、四人の犯罪者たち。
興奮高まる頭上から、少年の声が、遠慮がちに轟いた。
「お取り込み中すみませんが…そのテロ行為を防ぎにきました」
「「「「っ!?」」」」
四人が慌てて振り仰ぐと、薄暗い八階の天井に、逆さで猫背で小間使いのように立つ、黒い忍者少年の姿。
「なっ–なんだぁ、お前ぇっ!」
急いで立ち上がった四人が、素早く四方に散りながら、マシンガンを構える。
天上に張り付く雷八号は、そのまま名乗った。
「ぼ、僕ですか? えっと…国防の忍び『雷八号』と言います。あ、解りやすく言うと…まぁ、忍者ですね」
「に、忍者って言ってるわよぉっ!」
「マンガかいな!」
オネェとスキンヘッドが突っ込む。
自己紹介を終えた雷八号は、四人の真ん中へと、音もなくクルりと着地。
警戒する犯罪者たちへ向けて、遠慮がちな猫背のまま、無慈悲な死刑宣告をした。
「えっと…我が国において、国籍国が引き取らない重犯罪者であるあなた方は、本日十三時二十分、公安調査庁及び司法省、内閣府の決定により、消去対象と認定されました。このまま日本に居られても 正直 迷惑ですし、資料を読む限り、前科を持った皆さんには情状酌量の余地無しって感じですし…まぁそういうワケでして、つまり僕が…死刑執行人です」
雷八号は、後頭部に手を当ててペコペコしながら、腰の直刀をスラりと抜いた。
自信なさげなその姿が、犯罪者たちに、動揺とイライラを募らせる。
「し、死刑やて?」
「なんだよぉ、出来るならぁ、やってみろよぉ」
スキンヘッドと防塵マスクが、不気味な存在に対し、敢えて強気に出て、マシンガンをグっと突き出した。
丸目ゴーグルの動撮機能で、指揮車でも確認済みな、正当防衛が成立。
忍者少年が、静かに、しかしやはり遠慮がちに、宣言をした。
「では…死刑執行をします…っ!」
☆☆☆その②☆☆☆
その瞬間、小柄な少年の姿が、更に小さく屈む。
「おまえぇ」
背後に位置する防塵マスクの男が、マシンガンを撃ち出した。
–ッタタタタタタタタタタタタッ!
軽い爆発音と共に、赤熱化した弾頭部が連発される。
狙われた雷八号は、足下から舞い上がった埃煙を残して一瞬で姿を消すと、防塵マスクの背後に出現。
「忍法 影法師(かげぼうし)です…っ!」
「えぇえ」
ノロノロと驚く防塵マスク男の首が、スッパリと一瞬ではねられる。
「あれえぇ」
首を分断された防塵男が、ノンビリ叫んで絶命をした。
一瞬の斬撃で出血もほぼ無く、断面もツルツルしていて綺麗。
防塵の男は痛みも感じず、しかし地獄へと落とされたであろう。
そのままの位置で、雷八号が、驚く男たちをギラっと丸目で睨む。
いつの間にか場所を移動していて、気づいたら仲間を殺されていたという光景に、サングラス男とスキンヘッド男が、モロに焦る。
「アっアイツっ、殺されちゃったわあぁっ!」
「こんのクソ餓鬼ゃあっ!」
忍者少年から見て、右斜め前に位置するサングラス男と、左斜め前に位置するスキンヘッド男が、一斉に攻撃してきた。
サングラス男がマシンガンを撃って、スキンヘッド男が手榴弾を投てきしてくる。
その状況に、雷八号は心配をした。
「あぁ、こんな狭いところで 手榴弾とか…」
雷八号は慌てず、忍術を披露。
「忍法 影飛燕(かげひえん)…っ!」
少年忍者は、影のように素早い動きで左に走って手榴弾を蹴り返し、弾かれたように右へと走って、サングラス男の首を一瞬ではねる。
「いや~ん!」
宙を舞うサングラス男の首が、やはりオネェで叫んで絶命。
「ウソやろウソやろっ、うひゃああっ!」
同時に、戻ってきた手榴弾が放物線で胴体の前まで戻って来て、そんなタイミングで爆発をして、スキンヘッド男は爆死をする。
「んなアホなっ–ガクっ!」
転がるスキンヘッド男の首が、断末魔の突っ込みを入れながら、絶命をした。
「なっ–ん…だと…っ!?」
三人の部下が、一分もしないで全滅。
一人残されたマッチョのリーダーは、小柄な雷八号に怯えながらも、二丁のマシンガンを油断なく構えていた。
「あわわ…っ! し、死刑 執行人…っ!」
正面に向き直りつつ、少年忍者は音もなく、犯罪者へと歩み寄る。
「はい。諦めてください…って言うか、街中でのテロを命令されている時点で…あなたたちは組織にとって、ただの捨て駒ではないのかと…」
実はそうなんじゃないかなーと思いつつ、すっとぼけてスルーしていた図星を突かれ、マッチョは動揺。
「っ–俺たちが…そ、そんな…っ!」
雷八号がターゲットへと静かに接近をすると、丸目ゴーグルがビカっと光る。
「あ、組織の全容はこちらでも掴んでますので…今更ですが、あなたがたの自首も認められませんし…あぁそうです、せめて地獄には楽に送ってあげますので…できれば無駄な抵抗は…」
マッチョ男が、事実を指摘されたショックと組織からいらない子扱いされたショックと死の恐怖と、更に心の弱さを自覚させられた半狂乱で、マシンガンをムチャクチャに乱射。
「っちっくしよおおおおぉぉぉおおおおおおおっ! ふざけやがってええぇぇぇええええっ! どいつもっこいつもおぉおおっ–組織まで俺をっ、ぃいらない人間扱いっ、しやがってよおおおおおおおおおおっ!」
銃弾や跳弾の雨をかいくぐり、マッチョの傍らを一瞬で過ぎ去ると、雷八号は静かに、刀を腰の鞘へと納めた。
ズルんと滑り落ちる首に向かって、一言告げる。
「でもあなた、そもそも全科三犯ですよね…?」
「そ、そうだけどさ…」
はねられたマッチョリーダーの首が、納得できない納得を涙目でさせられながら、絶命をした。
雷八号は、周囲を見回して事態の鎮静を再確認すると、スマフォを取り出して、丁稚のような猫背で、栄子へと報告をする。
「あ どうも、雷八号です…はい、忍務終了しましたので、今から戻ります…はい、どうも」
後の始末は全て、諜報部隊「涼風」の仕事なのだ。
窓から戻ろうとする雷八号は、倒れた犯罪者たちを振り返る。
「いらない人間…か」
引きこもり気味な自分と、少しだけダブる気がする。
「僕も…学校くらいは ちゃんと行けないとダメかな…」
とか思って、雷八号は戦場から姿を消した。
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