第六話 忍ぶ少年  


              ☆☆☆その①☆☆☆


 大きめの帽子やパーカーで、極力に姿を隠すような俯き姿勢で、弧燃流は外出をする。

「ちょっと その…コンビニまで…」

 母に言い訳をして、コソコソと静かに、隠れながら歩を進める、偽装少年。

 十分ほどが過ぎると、キョロキョロと怯えながら、近所の大きな公園の寂しい

裏側の出入り口へと、たどり着いた。

「こ、ここだよね…いた」

 電信柱の影から探すと、人通りのない裏通りの一角に、輸送会社名前が入った、コンテナ牽引型の大型トラックが駐まっている。

「周りは…大丈夫だな」

 パーカー少年は、周囲に人の気配が無い事を確認しつつ、トラックの助手席側のガラスを、静かにノック。

「………」

 運転席と助手席には、引っ越し会社の制服を着た目つきの鋭い男性たちがいて、弧燃流の姿を確認すると、何かを報告しながら会釈をくれつつ、後部コンテナの扉が静かに開かれた。

 少年も会釈を返して、コンテナに乗る。

 扉が閉じられるとすぐに、綺麗な女性の声で挨拶を受けた。

「いらっしゃい、弧燃流くん。相変わらず、すぐに来てくれたのね」

 声の主「左雨栄子(さっさ えいこ)」は、二十代後半らしい、落ち着いた雰囲気な大人の女性だ。

 豊かな栗色の髪を美しいウェーブで靡かせて、大きくて綺麗な瞳は、決意と自信に輝いている。

 赤い唇は艶々で、日本女性の平均よりも高い身長に、極上のプロポーションを、赤いスーツとタイトスカートで飾っていた。

 トラックコンテナの中には黒服の男性も二名いて、コンテナ内部はデジタル表示のテーブルや備え付けの折り畳み椅子など、小さな作戦室としての機能があるようだ。

 パーカーの少年は、怯えながら黒服の男性たちへも挨拶をしつつ、コンテナ内で立ったまま訊ねる。

「あの…し、仕事 ですか…?」

「あら、私がキミを呼ぶのに、仕事以外の理由があって? さ、お掛けなさい」

 笑顔で指示された椅子に、大人しく座る弧燃流。

 栄子が運転手に合図を送ると、トラックは静かに出発をした。

 黒服の一人が、リーターと少年に、暖かい珈琲を煎れてくれる。

「ど、どぅも…」

 香ばしいブラックコーヒーに対して、砂糖とミルクを大量投入する甘党少年だ。

 テーブルを囲んで、弧燃流と栄子が向かい合って座り、黒服の男たちは栄子の背後で直立している。

 デジタルテーブルの天板画面には、一帯の地図と移動しているトラックの現在位置、それに一人の男の顔写真が表示された。

 男は、角ばったゴツい顔でマッチョ。そして顔つきは、判で押したような犯罪者。

 目つきも「悪い」のではなく「異質で嫌悪感が剥き出し」で、心の悪意がストレートに面構えとなっている、生粋の殺人者であった。

 栄子が、どこか楽し気な声色で、説明を開始する。


              ☆☆☆その②☆☆☆


「ターゲットは この男ね。外国籍人で、殺人暴行など前科三犯。名前は…まぁ、知ったところで キミには意味のない事よね。仕事内容はいつも通り、処理よ」

 弧燃流が、全く驚きもせず、しかしビクビクしながら、質問をする。

「処理…って事は、国籍国が裏でも引き取らない犯罪者…っていう事ですか…?」

 カフェオレ色の珈琲を戴く少年の質問に、栄子はブラックコーヒーを一口戴きながら、答える。

「そ。そもそも自国籍の犯罪者は引き取るのが国際的な常識なのに、無責任な国もあったものよねー。ま、こういう輩は 人知れず消えて貰うのが世のため人のため 世界の裏常識なんだけれどね」

 美しいヤレヤレ顔の栄子を引き継ぎ、黒服が説明を補足。

「このターゲットは現在、郊外の廃ビルに隠れている事が確認されています。周囲は我々『特殊部隊・雷雲(らいうん)』が警戒しておりますが、早急に始末すべきターゲットであります」

「つまり…銃器を所有している…と?」

 黒服が無言で頷き、栄子も犯罪者たちへの呆れ顔を、美しくも隠さない。

「どこの国にも、密かに武器を密輸入している敵対勢力が入り込んでいるものよ。まさしく、敵国に災厄をまき散らすのが目的でね。そしてこのターゲットには、テロの為の更なる支援が ついさっき届けられたのよ」

 黒服が、状況説明を続ける。

「情報によれば、この男のほかに三人、仲間が合流しております。もちろん…」

「こ、国籍を問わず、全員ターゲット…ですよね…」

 自信なさげな弧燃流の言葉に、やはり無言で頷く黒服。

「…で、でも、やっぱりその…抵抗 してくるんですよね…こういう人たち…」

 戦いが怖いのは当たり前だけど、殺人者の抵抗ほどイライラするものはないのが、弧燃流の本音でもある。

 誰だって殺されるのは嫌なんだから、自分から人を殺すな。

 と、マジでそう思う。

 しかも戦った後も、ムカつく感情は残ったりする事もある。

 そんな少年の心理を把握している女性上司が、餌をぶら下げて見せた。

「今日ね、こんなお菓子が 手に入ったのよ」

「?」

  命じられた黒服が、冷蔵庫から取り出した白い紙製の箱には、弧燃流が二時間以上も粘って諦めた「ほまれ屋スィーツ」の新作ケーキ「ストロベリー・プリンセス」が一つ、収められていた。

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