第二話 関所超え
☆☆☆その①☆☆☆
物心ついた頃には既に、弧燃流は女性恐怖症であった。
原因は、自身ではわからないけれど、生まれた時から美形で、幼女にまでモテモテ。
しかも成長しても小柄な体と相まって、今でもずっと、女性たちから注目され続けていたりする。
女性同士のけん制なのか、弧燃流に対するアタックは成長する毎に苛烈化を極め、幼稚園ではおままごとのお相手として毎時間の夫役や、小学校の頃は強引な手繋ぎ、中学生の頃は取り囲まれての様々なアタック。
高校生となった現在では、更にHで積極的なアプローチをしてくる女子たちも多く、しかも体育会系の姉はキビしくて、男子に人気がある健康美人。
おかげですっかり、女性恐怖症を拗らせた男子が一丁上がりとなっていた。
朝の通学路では、弧燃流と同じく制服姿の男女が登校している。
許されるなら引き籠っていたい少年は、隠れるように身を屈めて、電信柱などに寄り添いながら、通学路の隅っこを静かにノロノロと登校中だ。
「あぁ、もうすぐ学校だ……家に帰りたいよぅ…」
校門が目に入り、思わず立ち止まる。
当たり前だけど、学校に近づくほど生徒たちの密度も増してゆくので、少年にとっては地獄の入り口、または時代劇の厳しい関所、そのものである。
「このままどこかへ–ハっ!」
逃避しようかと思った瞬間、波流香の怒り笑顔が、脳裡をビクっと過ぎた。
『学校 サボるんじゃないよ~っ!』
金曜日のように、家に連絡が入って不登校がバレたら、また姉による四の字固めからのコブラツイストを経ての脳天逆落とし。とかが待っている。
「が、学校に…行かなきゃ…っ!」
恐怖に怯えながら、歩き出すしかなかった。
それは、少年自身も、自力で踏み出さなければいけないと、心のどこかでは分かっているという証でもある。
校門を通る生徒たちは、三人の教師と複数人の風紀委員たちと、朝の挨拶を交わしていた。
「「「「「お早うございまーす」」」」」
「はい、お早うございます」
穏やかで初老な男性の教頭先生が、穏やかに挨拶を返す。
「おう、お早うっ!」
若くて元気の良いジャージ姿な男性の体育教師が、大きな声で挨拶を返す。
「おはようございます」
そしてにこやかに、美貌の若い女性教師「松永由美子(まつなが ゆみこ)」も、丁寧な挨拶を返していた。
☆☆☆その②☆☆☆
由美子先生は古文の教師で、生徒思いで美人で優しく、しかし厳しい一面もあり、何より起伏に恵まれた魅惑的なプロポーションも相まって、生徒たちからの人気が抜群である。
黒い長髪がサラサラで、知的な眼鏡の奥には、愛らしくて大きなタレ目が輝いている、いわゆる地味系美人だ。
男子も女子も、美しい女性教師との挨拶を、朝の楽しみにしていたりする。
そんな賑わいの校門を、弧燃流は怯えながら、目立たず、地味に密かに、こっそり通過しようとして、体育教師に声を掛けられた。
「おう、お早うっ!」
背中から発見された少年は、ビクっとなって、硬直して動揺をする。
「–っ! あ、あ、あ、あ……お、お、お……」
極度の緊張で、挨拶が返せない眼鏡少年。
女性に対する恐怖を拗らせたあげく、今や対人での恐怖までも拗らせた、ハイレベルな引き籠りであった。
挨拶をくれた体育教師は、弧燃流の返事も特に気にせず、他の生徒への挨拶を続ける。
弧燃流の事は、必要以外では担任に任せているのだろう。
緊張しながら、ビクビクと頭だけを下げて通り過ぎたら、今度は由美子先生に、優しく挨拶を戴いた。
「お早う、登和仁くん」
「ひぃ…っ!」
またビクっとなる小柄少年。
ただ驚いただけでなく怯える男子生徒へと、優しく笑顔で言葉をくれる、美人教師だ。
「登和仁くん、今日は登校できたのね。金曜日はお休みしたから、先生 心配してしまったわ。それと、挨拶は元気に返さなくちゃ ね」
「は……は……は……は……」
ただ「はい」の一言でさえ、緊張して涙目の小柄少年。
特にショタというわけでもない由美子先生は、少女のように可愛らしい男子生徒を、まるで甘やかし系お姉さんのように、気遣ってくれる。
「さ、教室に向かいなさいね」
弧燃流は、会釈だけをして教室に向かうのが、精いっぱいだった。
(あぁ…挨拶なんて、緊張するっ! なんでみんな、挨拶とか普通に出来るんだ…っ!?)
弧燃流はいつも、心底からそう思っている。
そして、あらためてそう思いながら、やはり身を潜めてコソコソと、教室へと向かった。
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