第三話 女子の猛攻


              ☆☆☆その①☆☆☆


 目立たないように廊下を進み、後ろの入り口から恐る恐る一年C組の教室に入り、窓側で、後ろから二番目の席に身を屈めつつ、着席をする。

 自分の席に着きながら、まだ所有者が登校していない後ろの席を、チラりと羨望。

(なんで 一番後ろの席じゃなかったんだろう…誰かが後ろにいるとか、気になって気になって 仕方がないよ…!)

 クラスメイトたちは、特に弧燃流に気づく風もなく、みんなワイワイと話しをしていた。

 まだ誰にも、登校した事はバレていない。

(僕は空気…僕は空気…っ!)

 周囲を遮断するように、机に突っ伏して、寝たふりをする。

 そんな少年に、三人の女子が、大きくて嬉しそうな声をかけて来た。

「あ~っ、登和仁くん 来てる来てる~っ!」

「ホントだ~っ! 登和仁く~んっ!」

「ねーねー金曜日 どーしたの? カゼ~?」

「ひぃ…っ!」

 教室中へと響き渡る明るい女子たちの声に、驚かされる弧燃流。

 きゃいきゃいと集まってきた女子たちは、みな小柄な眼鏡少年よりも、背が高かった。

 前後左右を隙間なく囲まれると、多数の猛禽類によって谷底へと追い詰められた、野ネズミの気分である。

「あああ…ぁの……」

 恐ろしくて、言葉も出ない。

 隠れられるなら、机の中でも隠れたい。

「あ、そうそう。私、金曜日にプリント 家に持って行ったんだけど~、もしかして寝てた? はいこれ~」

 女子たちから距離を取ろうと無駄に足掻く弧燃流を、全く気にすることも無く、女子たちは頬を上気させつつ小柄な美男子を囲み、プリントとかを手渡してくれる。

 親切な行為に対して、失礼な態度はとれないと、姉の波流香からキャメルクラッチをかけられながら叩き込まれている少年である。

 とにかく、必死に礼を告げる。

「どっどっどっどっ–どぅもぁぁあありが–」

 焦る少年が可愛いのか、はたまた自分もお礼を言われたいのか、今度は別の女子が、グイと身を寄せて来た。

「そうだ。金曜日の分、私のノート 写す?」

 意外と近くの右耳から聞こえて、思わずビクっと左前に身を避ける。

「ひぃっ–ぇえっ…えっと–えっとっ–ぜぇ…ぜぇ…」

 キラキラ輝く女子たちに囲まれて、恐怖で息が苦しくなって、眼鏡も曇る少年。

 少女のような眼鏡男子が戸惑っている姿は、女子たちにとって恥ずかしがっているようにしか映らなくても、無理はない。

 俯く弧燃流の頬が真っ赤になっているのも、要因だろう。

「そういえばさ 登和仁くん。今日ね あたし、出席番号で きっと当てられるんだよね~」

「あ、私もかも~。あ、ここの漢文なんだけどさ–」

 女子たちは、遂に関係のない勉強の話題を振りつつ、眼鏡少年を左右や後から挟み撃ちし始めた。


              ☆☆☆その②☆☆☆


「–」

(–)

 弧燃流は、緊張しすぎて、意識も途切れそう。

 周囲を囲まれて、女子たちのオシャレな良い香りに包まれて、しかも何だか、女子たちの体温で暖かくも感じられる。

 男子にとって天国のような環境だけど、弧燃流にとっては息も辛くて空も高い、谷底の如く。

 そんな女体渓谷に、天女の救いが聞こえて来た。

「ちょっとあなたたち! 教室でそんなにくっつくモノでは ありません!」

 弧燃流はハっと気づいて、震えながら、声の方を見上げる。

 そこには、窓からの陽光をバックに、ショートカットの眼鏡女子なクラス委員長「霧ヶ野麗(きりがの うらら)」が、女子たちへと凛々しく忠告してた。

 クラス委員長である才女が、自論を展開。

「男女七歳にして席を同じゅうせず です! 確かに登和仁くんは美形男子だけど、あなたたちも女子なんですから、少しは慎みなさい!」

「「「は~い」」」

 堂々とした委員長の注意で、一旦は渋々と引き下がる女子たち。

 周囲の女子壁に隙間が出来ると、弧燃流は蜘蛛の糸で救い上げられる心持ちで、心底からホっとした。

 と、次の瞬間。

 麗は今がチャンスとばかりに、そして楽しそうに、美少年の額へと、大胆にも額をくっつけてきた。

「で、登和仁くん 風邪は治ったの? どれどれ~?」

 コツん。

(ひいぃっ–っ!)

 一瞬で、真っ赤になって全身が硬直する、眼鏡少年。

 眼鏡のクラス委員長は、器用にも眼鏡同士で、眼鏡をぶつけずに額を触れさせ、しかも鼻先までをも優しいタッチで、触れさせてきた。

 まるで、キス寸前のギリギリ近接。

 女子たちが、一斉に非難の声を上げた。

「「「ああ~っ、委員長ずるい~っ!」」」

 指摘をされた麗は、シレっと笑顔で返す。

「委員長特権…じゃなくて、クラスメイトの責任者として、当然の心配で~す。うふふ」

 委員長の密着に対して、女子たちも負けじと、押しくらまんじゅうをしてくる。

(か…帰りたぃ…)

 弧燃流は既に、全身が冷や汗でビッショリだった。

「はいは~い、みなさん 席についてくださ~い♪」

 担任教師の由美子先生は、クラス全員が揃っている嬉しさを隠さず、美しいニコニコフェイスでホームルームを始めた。

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