第20話金城梨穂子は益々困惑する

「どうしよう、お父さん。おばあちゃんが来ちゃってる」


 インターフォンが鳴って、英輝がモニターを除くとそこには東条の母親が映っていた。メッセージは送ったのに春子は英輝が心配で来てしまったのだろう。


『取りあえず、俺の寝室の鍵をかけてくれ。見られちゃまずい』


「は、はい。少年、お父さんが寝室の鍵をかけようって!」


 しかし、外からどうやってかけるのだろうと梨穂子が不思議に思っていると十円玉を持ってきた英輝が寝室のドアのカギの溝に充てると横に回した。


 カチン


 鍵のかかる音がする。


『簡単な鍵しかついていないけれどかけないよりはマシだからな』


 実に得意げに見上げたシルバーのトイプードルがそう言った。――いや、東条なんだけれど。


「こうすると、外から鍵がかけれるんだってお父さんに教えてもらったんだ!」


 英輝も褒めて欲しいと言わんばかりに梨穂子を見ている。


「な、なるほど。いいアイディアですね」


 心なしかトイプードルも輝かんばかりの笑顔に見えるのは隣にいる英輝がその表情だからだろうか。以前よりも確実に親子の仲が良くなっているのだと少し梨穂子はほっこりしてしまった。


 インターフォンがまた鳴った。同時に英輝のスマホにも通知音が鳴る。


 ――おはよう! お父さんはもう出かけたの?


 ――英くんはいるんだよね?


 ――おばあちゃん、行くからね


「えーっと、春子さんは合鍵をお持ちなんですね?」


『居留守は使えない』


「ど、どうしますか?」


『取りあえず、家にあげるしかないな。俺は留守で、金城さんが英輝を預かっている設定のままで行こう。母さんを家にあげてくれ』


「わかりました。少年、お父さんがおばあちゃんを家に上げてって。お父さんは留守ってことにしましょう」


「わかった!」


 英輝が祖母に素早くメッセージを返すとエントランスのロックを解除した。暫くして春子が東条家に到着した。


「英くん! 元気にしていた? なかなか来れなくてごめんなさいね」


「おばあちゃん! お見舞い一回しか行けなくてごめんね。もう大丈夫なの?」


「いいのよ~。英くんは学校もあるんだもの。学校にはなれたかしら? おばあちゃんはさ、この歳になると回復が遅くてね~。ここに来るのは無理だったけれどお家ではゴロゴロしていただけだからね」


「動けなかったんでしょう?」


「大丈夫よ。まあ……もう、歳だからね、とっても元気とは言えないけど。心配はいらないわ。――あら、こちらが?」


「お姉さんは金城梨穂子さんっていうんだ! 僕の友達だよ! こっちはコタロウ!」


「は、初めまして。金城梨穂子と申します。東条さんがお留守の間だけ英輝くんと一緒に居させてもらっています」


「なるほど、一緒にね。おかしいと思ったのよ」


「え?」


「会社の女性に英輝の世話を頼んだっていうから、大丈夫かしらって思っていたの。私が言うのもなんだけど、孝太郎は美男子でしょう? 孝太郎狙いの女性に英くんを任せたって上手くいくはずないの。英くんは悪意に敏感な子だから難しいの。あなた……ええと」


「金城です」


「お名前は?」


「梨穂子です」


「そう。じゃあ、りほちゃんにしましょう。私の事は春ちゃんでいいわ。英くんのなら安心よ。私もお友達になってほしいわ」


「え」


 グイグイとフレンドリーに接してくる春子に梨穂子はたじろいた。英輝を見ると祖母が大好きなようでニコニコと寄り添っていた。











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