第11話 違和感

 ずっと違和感を感じている――


 ドゥが父と母を暗殺したと思い込んでいたけれど、今現在は両者ともに存命中。私の記憶ではこの先二年間、一緒に平穏無事な生活を送っていた――今公表しようとしている情報があるのならば、それは私が想定している情報とは違うのかもしれない。


 母が亡くなるまではあと数日――決して猶予があるわけではない。今すぐ確認すべきだと本能が騒ぐ。

「単刀直入に聞くわね。あなたは何者なのかしら? 時折見せる侍女に不相応なフワッ優しく美しい所作しょさや城内に存在しないものに対する知識に違和感を覚えているの……他意はないわ、ただ知りたいだけ」

「流石の観察眼です……お嬢様は全てお見通しですね。元・公爵令嬢です。公国が戦で敗戦し、私は慰み者になるために王国に連行されてきました。そして夜伽を行える年齢になるまでの間、侍女としてお嬢様にお仕えするよう指示されて今に至ります」


 美しい所作と手入れされている身体への疑問は解けた。大切に育てられたお嬢様なのだから、持ち合わせていて当然。では何故――

「何故奴隷になることを望んだのかしら?」

「私には自身のことを口外できないよう魔術が掛けられています。制約を反故ほごにすれば生命が燃え尽きます……呪いのようなものです。奴隷契約は呪術そのものなので、魔術より優先されます。主人から要求されたことであれば、魔術による制約が呪術により打ち消されます。ですから、お嬢様に打ち明けるためには奴隷になる必要がありました」


 聞くのは怖い――でも気になる。

「本当は、私の奴隷になんて」

 唇で言葉を遮られ、ぎゅっと抱きしめられた。

「お嬢様だけの物になれて幸せです……公表するために奴隷になる必要があったのは事実です。けれど、公表せずに死ぬ選択肢もありました。私にもプライドはありますから、侍女の任を解かれるタイミングで命を断つつもりでしたし」


 暗殺することに躊躇いが無かったのは何故――

「人を殺めた経験は?」

「あります。戦争をしていたので……殺さないと殺されますから……」

(軽蔑されたかなぁ……でも、全てを公表すると約束したからぁ)

 咄嗟に、ぎゅっと抱きしめる。

「あなたが生きていてくれて良かった。約束を守ってくれてありがと」


 疑念は晴れた。奴隷になることが必要不可欠だったことも理解した――

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