第8話 所有権

 最後の一個――簪の太さと陰核の大きさがほぼ同じ。打ち付ければ陰核自体を潰してしまう。


 代わりに使える物――

「所有物の条件を教えて」


「身に付けているもの、普段使用しているもの、他の方の所有物ではないもの」


「契約に要せる時間は?」

「定めはありません」

「身に付ける期間は?」

「釘のことでしょうか、所有権はお嬢様に移っておりますので、使っていただいて問題ありません」


 釘を渡されたときに聞いたから、わかってはいる。だけど、それを使うときは仕方なくで苦肉のさく――


 先程ドゥに貰った釘の中から、陰核を潰してしまわない細い物を選び手渡す。

「これを私に打ち込みなさい」


(えぇ……お嬢様を傷付けることなんて出来ないよぉ……)


「いいから!」

 服を脱ぎ、ドゥに背を向け卓上たくじょうに横たわる。きっと恐怖心が表情に出てしまっているから、顔は見られたくない。

「私もピアスを付けたいと思ったのよ……可愛いじゃない。気が変わらないうちにして」


「でも……」


「あなたの全てが私だけの物でなきゃ嫌なのよ! 所有権が移っただけの他人の物なんて使いたくないの。やりなさい、これは命令よ」

 目をぎゅっとつむり、痛みに備える――震えが止まらない。怖い、それでも耐えることに決めた。



「……ご命令、賜りました」



 トントントントン――



 先端が鋭利えいりで硬い釘はスムーズに貫通かんつうした。

 釘が刺さったひかええめな胸を、自慢げにドゥに見せつける。

「私の身体を貫いた釘は、この世にこの一本しか無いわ。この釘は私の所有物よ!」


 ――――


 ピアッシングの経験けいけんは無いけれど、工程こうていがここで終わりではないことくらいはわかる。

 刺さっているのは釘、まだピアスを装着そうちゃくしていない。


 ――――


 ドゥを見つめていると、申し訳なさそうにうつむく。

(どうしよぉ……ピアスを用意していないなんて言い出せないよぉ)


 そういうことね――

「せっかくのファーストピアスだもの、既製品きせいひんでは物足りないわね。あなたに装着そうちゃくするピアスも特別とくべつなものが良いわ。手配てはいを任せて良いかしら」


「かしこまりました! 早速手配いたします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る