第3話 幽閉

 密室に突如現れた真っ白な髪、白い肌、整った顔立ちの来訪者――


(来たー! 待ちに待ったイベント発生!)


 幽閉ゆうへいされて早数年、この時をずっと待ちわびていた。来訪者に駆け寄り、思わず抱きつく。

「遅いわよ! こんなに待たされるなんて思わなかったわ」


 彼女と面識は無い――しかし記憶が無いため確証は無い。

「何故僕を待っていたの?」


 とぼけた振りをしても無駄よ。私の物語を進めるために現れたことはわかってるのよ。

 頭がくっつくほどに顔を寄せる。

「フラグでしょ!? フ・ラ・グ! 私は待ちくたびれてるの。早く進めましょ」

 まずは契約、定番の展開よね。出入口が塞がれている、この何も無い空間に突如とつじょ現れた。人間の容姿ようしをしているけれど、実は精霊せいれい妖精ようせいたぐいだということはわかっているわ。

「単刀直入に聞くわね、私は何をすればいいのかしら?」

「何を……とは?」

 契約のことを知っている者にのみイベントが発生するという設定なのかしら――だとすると私から言い出さないといけないということよね。

「契約よ、け・い・や・く! 決まってるじゃない」

「何の?」


 じれったいけれど、曖昧あいまいな返答をするとどうなるのかも気になるわ。

「私たちの物語を始めるためのよ! 定番のあれよ、あ・れ!」

「あれ……とは?」


 やっぱり、こういう反応になるわよね――はっきり伝えないと、ずっと無意味なやりとりが続く仕様になっているのね。だいたい理解したわ。


 少年のおでこ・・・を人差し指で突く。

「あなたと私の主従契約しゅじゅうけいやくを結ぶのよ!」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 私には前世ぜんせで取返しのつかない失敗を犯した記憶がある。


 第一志望だいいちしぼうの会社に入社した私は、新人研修中に上層部じょうそうぶに業務改善案を提案したことが社内で話題になったの。会社のためになる良いことをしていると思い込んでいた。


 評価ひょうかされていると錯覚さっかくしていた――でも、それは大きな誤算ごさんだった。後ろ盾も無いのに目立ってしまった。


 最初はコソコソと嫌味いやみを言われる程度だった。次第しだいに私に聞かせるように悪口を言われ始めた。ぶつかられたり、押されたり、叩かれたり―― 何かをかけられたり、すれ違う際に服を切られることもあった。


 嫌がらせは少しずつエスカレートしていったけれど、そのうち飽きて止めるだろうと安易あんいに考えていたの。

 それに私は間違っていないから、どんな嫌がらせを受けても絶対に屈してやるもんか! と意地いじになっていたわ。


 まさか殺されることになるなんて思っていなかったのだけれど――刃物はものを向けられてた時点じてんで、いつか刺されることを想定そうていすべきだったわ。


 私がしていたことは、武器と防具を持たずに裸で戦地せんちに乗り込んでいたようなもの。屈強くっきょうな軍人さんでも、そんなことを続けていればいつか死んでしまうわよね。


 今更後悔しても遅いのだけれど――とはいえ、死ぬこと自体には抵抗は無かったの。もしも生まれ変わったら、どんな人生が待っているのかしら――そんなことをよく考えていた。


 ラノベが好きで、異世界転生物を好んで読んでいた。防御力に極振りして仲間と楽しい冒険をしたり、スライムに生まれ変わって国を作ったり――


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 私は新しい人生に期待を膨らませていた。


 期待以上の最高の人生が始まった。王様の長女として生を受け、何不自由無く過ごした。当たりくじを引けたと歓喜かんきしたわ。力さえあれば信念しんねんつらぬくことが出来るもの。


 でも、神様は私に苦難を与えたの――


 十一歳の誕生日にお母様は病死し、父王は新たな王妃をめとった。十二歳のとき、父王が病死――

 王位継承権を得られるのは十三歳以上。このときの私には王位継承権が無かったの。


 義母にとって私は邪魔よね。王の血族は私しか居ないのだから、私が消えれば王位継承権を手中に収められる――十二歳の私はそんなこと、全く気にもとめていなかった。


 消されることなんて考えて生きていないもの。


 翌日、私は父を殺した罪で幽閉されたわ。十三歳を迎える前に消されたの――

 義母ぎぼはすぐに再婚さいこんし、高官こうかんを務めていた義父ぎふが新王の座に就いたわ。


 せっかくめぐまれた環境を与えてもらえたのに無駄むだにしてしまうなんて――私に人が考えていることを理解する能力があれば、違う人生を歩めたのかしら――知ろうとする気持ちが欠けていたのが悪いのよね。


 また同じ過ちを繰り返した――本当バカよね。

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