第2話 能力取得

 村外むらはずれの森で倒れている少年が見つかった。


 介抱かいほうの末、ようやく目覚めたその者は記憶を失っていた。真っ白な髪、白い肌、整った顔立ち――すぐに村娘たちのアイドル的な存在となり、『卵』を意味する「l'oeufルフ」の愛称で親しまれた。


 目覚めてから二週間後の朝――

 いつも通り湖で洗濯せんたくをしていると、村の少年達に突然手足を縛られ、ボートに乗せられる。


 湖を少し進んだところで水中へ投げ込まれる。

 いくらもがいても身体を浮上させることは出来ない。ゆっくりと意識が遠ざかっていく――


(苦しい……どうしてこんな事をするのだろう……理由を知りたい)

《『読心どくしん』できたらいいのに》


 再び視界に入った光景には既視感きしかんがある。

 縄を握りしめ、迫り来る少年達――先程と同じことが起きようとしている。


 しかし、先程とは違う点がある。

(自分だけちやほやされやがって! こんな奴、消えた方がいい! 殺してやる!!)

 少年達のこじれたねたみ、鋭い悪意が直接脳に突き刺さる。


 僕が望んだとおり、読心できるようになった。でも未来は変わらなかった――考えていることを知れるだけでは無力むりょくだった。


(あんなことをするのを辞めさせられたら……思考を書き換えて無理矢理にでも辞めさせれたら……)

《『洗脳』できたらいいのに》


 意識が戻ると、再び見覚えのある光景が広がる。縄を握りしめ迫り来る少年達。


≪縄を自分の首へ掛けろ≫

 僕を殺した者達だ、どうなろうが構わない。悪意を持って少年達の思考を乗っ取る。


 ――未来は変わった。


 集団で首を吊り、動かなくなった者達を無表情で眺めるルフ。されたことを仕返ししただけ、彼らが悪い――


 首を吊っている少年達を、笑みを浮かべて見つめているルフを見た村人が『悪魔』だと叫ぶ。

 叫び声に釣られて集まる村人達――


 『読心』能力の影響で、無数の嫌悪けんおの感情が脳に直接突き刺さり続ける。


《消えてしまいたい……遠くに、遠くに逃げ出したい》

 ルフは『不可視化』と『空間結合』の能力を得て、その場から忽然こつぜんと姿を消す――


 ルフが思い描いた目的地は、何も無くただ閉じこもるためだけに存在するような閉鎖へいさ空間。


 次の瞬間、思い浮かべた通りの空間が視界を染める――暗闇くらやみに注ぐ唯一の光、陽が差し込む窓辺まどべに腰を掛け、外を眺めている者が居る。


 虚無きょむを望んだ。光も自分以外の存在も望んでいない――何故、僕が望んでいない異物いぶつが存在しているのだろうか――


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 能力を得るには『捧げるものを明示する』、もしくは『何かを捧げる』必要がある。


 ルフは代償だいしょう明示めいじせずに能力を得たため、能力を得る度に『存在しない者』の魂が生贄いけにえささげられ、その魂は適当なうつわに封入された。


 その器の人生シナリオは、能力により得られる恩恵おんけいに応じ苦心くしんを重ねるよう脚色きゃくしょくされて――

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