第137話 チェーンソー二号


「これ返すよ」


「もういいのか?」


「うん、ちゃんと倒してきたよ」


 エニグマから借りたチェーンソーを返す。エニグマが設計して僕が協力して作ったものだけど、僕のステータスに依存しない武器としてのステータスが高いからめっちゃ強かった。経験値や素材に余裕があればもう一本作りたいところだ。


「で、結局何だったんだ?」


「んー、どう説明すればいいかな……。前に『迷い人』の効果を説明したよね?」


「迷子になった時に50%の確率で特殊マップに侵入するってやつだったか」


「そう。サスティクで迷った時に行くマップでアンデッドのボスが居るんだよね。2回くらい行ってて、1回目はボスに会わずに死んじゃったんだけど2回目はボスに殺されちゃってさ」


「報告しろよ、それ。なんで言わねぇんだよ」


「だって聞かれなかったし……」


「普通聞かねぇだろそんなこと」


 特殊マップのことやネクロのことなどを話し、エニグマに追及されて正直に答えて、としばらく問答を繰り返す。そのついでで僕も気になったことを聞いておこう。


「エニグマもエニグマでなんで呪いに掛かったの?」


 これは普通に気になっていたことだ。FFを始めてからずっと赤かったエニグマの髪の色が八割ほど黒くなっているし、それが呪いの効果ならなんでそうなったのか。


「クエスト……ってか条件を達成したから手に入れた称号のせいだな」


「どんな称号?」


「『怨嗟の奔流』って称号だ。名前とか取得した状況を考えると一定数の人間を恨みを買った状態で殺すことが条件だろうな」


 僕が知らないところで何をしてるんだ。赤黒いとか黒いというのは怨念っぽい感じがするけど、エニグマの身に起きた変化が怨念となると不気味で仕方ない。


「効果は炎攻撃のエフェクト変化、威力上昇。あと外見が変わるな」


 エニグマは見ての通りな、と自分の頭を指す。


「なるほどね」


「まあいつか見れる機会があるだろ」


 見たいような、怨念は怖いから見たくないような……。









****













 チェーンソーがもう一個欲しい。先日サスティクの特殊マップで実際に使ってそう思った。

 ネクロを倒したことで、ボスだけあって大量の経験値が手に入っている。ネクロだけでなく骨や鎧の経験値もあるので、一個目と同じ性能のチェーンソーを作れるくらいにはレベルが上がってるのだ。

 ちょうどいい。しかもゴーレムだから後から性能の変更もできるから、足りなかったとしても後から追加すればいいだけだ。


「ってことでパーツちょうだい?」


「は?」


「ちょーだい?」


「……あ?」


「ください」


「……いや、何のパーツだよ」


 仕方ないのでエニグマにチェーンソーをもう一個作りたいと伝える。割と何も言わなくても察してくれるから今回も察してくれるかもと思ったけど、そうでもないらしい。


「チェーンソーか。最初からそう言えよ、俺は読心術なんか持ってねぇんだぞ」


「ごめんて」


「パーツは余裕ができた時に作ってもらうかもと想定してたからあまりがある。ほれ」


「あと組み方とステータスの分配教えて」


 設計図を読むのは得意ではない。一人でできない程ではないけど、手伝ってもらった方が圧倒的に効率はいい。それと、ゴーレムに与えるステータスは僕は言われた通りにしただけだ。作ってみて試して、とやっていたがそれぞれの正確な数値は覚えていない。だがエニグマは更新する度にメモしていた筈だから、聞いて同じ数値にするのがいいだろう。


「ラボ行くぞ」


「わーい」


 教えてくれるようだ。流石。


 錬金ラボへ移動し、適当な机の上に構築キットなどの作業道具とゴーレムを作るのに必要な素材を置く。それとエニグマから貰っていたチェーンソーの設計図も。


「経験値足りんのか?」


「わかんないけど足りなかったらレベル上げに行くよ」


「やっぱ完成できなかったらめちゃくちゃリスキーだよなそのアビリティ」


 言われてみれば確かにそうだ。経験値をつぎ込んで完成したものが全く使えない物だったら、ただレベルを下げただけだ。ステータスを頼りに戦ってきた人であれば弱くてコンテニュー状態になってしまう。僕は元々ステータス頼りではなく、毒煙玉や爆弾などのアイテムを頼って戦ってきたからそこまで関係ない。その分攻撃のバリエーションが少ないのがネックだけども。

 毒煙玉さえあればある程度までレベルを戻せる。特に誰かに手伝ってもらってサスティクのダンジョンの11階まで来れれば、もっと楽に戻せるのだ。そう考えると僕がやる分にはそこまでリスキーでない。


「ソーチェーンは最後にするか。一番経験値使うのはここだし、ソーチェーンの攻撃力を上げるだけで強化できるしな」


 エニグマが取り出したパーツを受け取り、指示通りにゴーレム化させてステータスを与え、入力と出力の設定をしていく。前と同じく所々よく分からないパーツがあるが、一個目がちゃんと作動しているなら気にしなくてもいいだろう。


 ゴーレム化に使う魔石は『測定』でコストが同じものを選んでいるし、なかったら『合成』で調整している。

 最近分かった事だが、魔石の価値は純度だけのようだ。正確には大きさも含まれるが、同じコストの魔石を使って完成するゴーレムが同じ性能なので大きさに対する純度も含んでコストが表示されてる。ゴーレム化の際に一体化するので大きさは考慮する必要はないため、同じ効果をもたらすのであればコストが同一の物をピックアップすればいい。


 そうしてパーツを一つずつ作り上げていく。完成させたパーツを使ってエニグマが組み上げてくれているため、全部のパーツをゴーレムにした頃にはチェーンソーの刃を装着するだけの状態になっていた。


「ソーチェーンの取り外しは簡単だし覚えておくべきかもな。今後も弄るだろ?」


「うん」


「そこまで考える必要はない。このブレーキハンドルと同じところを外せばソーチェーンも取り外せるようになる」


 言いながら指した部位を外して見せてくれる。


「ほれ、完成だ。お疲れ」


「ありがと」


「実戦で使うのはちゃんと試してからにしろよ」


「うん、分かった」


 訓練所で試してみよう。

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