第100話 相変わらず説明がない
「おぉ、すご…」
出てきた木箱を開けると中に黒い工具箱のような物が入っていて、若干マトリョーシカっぽさを感じた。
工具箱を取り出すと木箱は光となって消えていく。多分、配送用の外殻…段ボールみたいな扱いなんだろう。
工具箱は前面に金具があり、それを外して開く事が出来る。
中身は金槌とノコギリ、カッターナイフ、スプレー2種と小さな箱。
「…ホント説明ないよねこのゲーム」
まあ名前の通りならこれを使って分解すれば良いんだろう。
失敗しても代わりが幾らでもある素材、少し前までなら水入り瓶で良かったけど今はないので薬草を使ってみる。あんまり分解出来るイメージ湧かないけど。
説明が一切ないので手当り次第でやるしかない。
薬草を分解するのに適してるのはカッターナイフだろう。金槌やノコギリは違う気がする。
スプレーと箱が気になるので少し調べてみよう。2つあるスプレーはそれぞれ赤と青の缶だ。そこまで大きくなく、500mlのペットボトルよりちょっと小さいくらいだ。
赤い方のスプレー缶の上にあるボタンを押し、中身を噴射しようとしてみるとボゥッと炎が出てきた。
驚いて指を離してしまったが、もう一度噴射させ続けてみると炎が赤から段々と青が混ざってくる。
「あー…ガスバーナー?」
青い炎はガスを含む炎だ。形は大分違うが、ガスバーナーと呼ばれる道具もこんな感じの炎を出していたと思う。
もう1つの青いスプレー缶も中身を噴射してみると、今度は白い気体が出てくる。自分の手に気体を吹きかけてみると、あまりの冷たさにすぐに噴射を止める。
ダメージを受けた上にまだ痛く、HPも減り続けている。ステータスを確認すると『凍傷』という状態異常が追加されていた。
「なんだっけ、冷感スプレー? の強化版的な…」
これもなんか近しい物があったような。だがあれは体に直接掛けても平気だろうし、取り扱いが危険だから違うか。
冷感スプレー云々はともかく、赤と青のスプレー缶はそれぞれ加熱と冷却を行える、と考えるべきだろう。
分解キットというアイテムに含まれているのを考えると、燃やしたり冷やしたりして物を分解する場合もあると。
内容量と補充方法によっては戦闘に使えない事もないかも…。
ポーションを飲んでHPを回復させる。状態異常も消え、継続的なダメージもなくなったので少し回復しきれてないのも放っておいて平気だろう。
次に箱を調べる。手のひらより少し大きいくらいで、材質は鉄のように思える。上下を除く横の4面にはそれぞれ炎、ハンマー、雪の結晶、ノコギリの模様がある。
下の面には細い隙間があり、そこから中を覗いてみるが真っ暗で何も見えない。上の面に取っ手のような物が存在し、それを引っ張ると上の面だけ外れる。中は空洞で特に何もなさそうだ。
「隙間がない…どういう構造?」
上の面を外して下の面の隙間から覗いてみても何も見えない。この隙間が何のためにあるのか、そもそもこの箱はどう使うのかという疑問が残る。
横の面にある模様について考えてみると、炎と雪の結晶、ハンマーとノコギリが対になるような位置にある。
そしてそれぞれ加熱と冷却、打撃と切断というイメージがある。これらのイメージも含めてもう一度考えると…?
「…いや分かんないけどね」
だから何。確かにこれらの模様は分解キットに入っている道具の特徴を網羅している。だがそれだけだ。そんなので使い方が分かったら苦労しない。
知恵の輪みたいな感じの謎解きかと思ってベタベタ触ってみても上の面以外は取れそうもないし、箱の中にも仕掛けはなさそうだ。
「チュートリアルが! ない!」
僕でも怒りそうなんだからエニグマとかがやってたらとっくに怒って箱とか投げてそう。
…いやでもエニグマは知識多いしこれの使い方も分かったりするのかな。僕は分からないから怒りかけてるだけで、使い方を理解しているなら怒る理由はないし。
冷静に、落ち着くように努める。分からないことは後で師匠にでも聞けばいい。
流石に取り返しのつかない要素はない…はず。多分。
箱については使い方が分からないので放置しよう。
最初にやろうとしていた薬草の分解を試みる。詳細な手順は判明していないので、とりあえずカッターナイフで薬草を切ってみる。
何の変哲もなく2つに切断出来た。
「…で?」
切断した、それだけ。これ以上の変化はない。
……まさかこれで終わり?
「流石にそれはないはず…」
こんなのだったら分解キットを使わなくても出来そうなものだが。
切断した薬草の状態を詳しく調べるためにエニグマから貰ったゴーグルを取り出し、ポニーテールの結び目が邪魔なので解いてから装着する。
───
アイテム名:薬草 レアリティ:コモン
耐久値0/15 状態:良好
性質:回復、止血、植物
回復効果を持つ植物。そのまま食べたり、ポーションに加工して摂取するなどで回復を行える。回復量は少ない。
───
アイテムメニューから調べるのとは結構変わった説明が出てきた。
そういえばゴーグルの『鑑定』は効果を聞いただけで試してなかったな。こんな感じで普段より多くの情報を確認出来るっぽい。
アイテム名は変わらず、レアリティと耐久値、状態、性質が増えていて、説明文も少し違う。
まずレアリティ。そもそもこのゲームにアイテムのレアリティが存在していた事自体が初耳である。
薬草のレアリティはコモン。どういう順番なのかはゲームによって違ったり、あったりなかったりするレアリティがあるのでどのくらいか分かりにくかったりする事もあるが、コモンは大体下の方、1番下とかだ。
つまり薬草のレアリティはとても低い。以上。
次に耐久値と状態。
耐久値というのもこのゲームにあったのは知らなかった。まあ割と現実準拠なところもあるし、あってもおかしくはなかった。
クリスタル系を調べている時に傷付けておいたのを耐久値と呼んでいたが、あながち間違いでもなかったようだ。
状態については…よく分からない。
しかしこの表示はバグっているのか、少し変だ。耐久値がゼロになっているのが気になるし、耐久値がゼロなのに状態が良好というのも謎だ。
「というか、耐久値って消費アイテムにもあるんだ」
武具とかだけってイメージはある。
それはそうと、耐久値がゼロになっても消えないのかと気になったので別の薬草を取り出し、手でちぎって耐久値を削ってみる。
薬草の耐久値は低い方なのか、1回ちぎっただけでゼロになった。そうすると薬草は光となって消えていく。
やはり耐久値がゼロになっても残っているのはおかしい。
対照実験とかいうアレで条件を揃えてもう一度。
カッターナイフを使って薬草を切断すると、薬草の耐久値がゼロになっても消えずに残る。
「バグではない…?」
偶然発生したバグではなさそうだ。再現性のあるバグである可能性はまだ否定出来ないけども。
仮にバグではなく、これが正規の仕様だとしよう。そうすると、カッターナイフ…或いは分解キットを用いて破壊したアイテムは消失しないということになる。
つまりそれが『分解』というアビリティの仕様でもあるのだが、これで終わりとは思えない。まだ何かある筈だろう。
直感というか消去法というか。アイテムの破壊に関わっている金槌、カッターナイフ、ノコギリ、スプレー缶2種とは別に、関係ないものが混じっている。
スプレー缶2種も怪しいところではあるけど、加熱と冷却で破壊するというのも無くはない。破壊に最も関係ないのは箱だ。
先程何に使うのか分からなかった箱だが、分解キットを使ってアイテムを破壊しても消えないという事は、破壊したアイテムを箱に入れれば良いのではないだろうか。
これで間違ってたら思考がショートしてしまう。そうなったら師匠に聞きに行こう。
箱の上の面を開け、元は1つだった薬草を入れる。
…じっと見つめてみても変化はない。
「蓋閉めるとか?」
開けていた上の面を閉じてみる。すると箱がガタガタと揺れだし、少し待っていると手のひらに何かが当たる感覚が。
下の面から何か出てきたようで、横の面を持つようにすると出てきた物を手に取れる。
下の面の細い隙間から出てきたのはカードだ。最初の1枚に続いて合計3枚のカードが出てくる。カードはトランプとそう変わらない程度の大きさだ。
3枚のカードのうち、2枚は赤い十字架の絵が描かれ、上部に「回復」と表記されている。もう1枚は木が描かれ、「植物」と表記されたカード。
この「回復」と「植物」は見覚えがある。ちょうどさっき、薬草をゴーグルを通して見た時に表示された「性質」の部分だ。
薬草を鑑定した時はもう1つ、「止血」というのもあった筈だが、それはカードにはない。
もう1つカッターナイフで切断していた薬草を箱に入れて蓋を閉め、少し待ってみる。
出てきたカードは2枚。「回復」のカードと、傷口に巻かれた包帯に血が染みている絵と、「止血」と書かれたカード。
「天才」
急に勘が冴えてきた。
これらをまとめるとこうなる。分解キットを用いてアイテムの耐久値をゼロにしてもアイテムは消失せず、破壊したアイテムを箱に入れるとカードに変換出来る、と。
しかしカードに変換してどうするんだろうか。トレーディングカードゲームでも始めるつもりなのか?
それと、箱のサイズは限られているが箱よりも大きな素材をカードに変換したい場合はどうするんだろうか。
「ふぅむ…」
先程の天才というのは撤回しようかな。何も思いつかなくなった。
可能性があるとするなら合成の素材とかだろうか。『星占い』というアビリティ、及び占星盤から入手出来る「星の写真」は水と合成すると星水になったり、石と合成すると星石になったりと、『星占い』だけで完結せず『合成』にも関わりがある。
そのように、アビリティ同士に互換性みたいな物があるなら、今回の『分解』で手に入れたカードを『合成』で素材として使える…のかもしれない。
「水…水ないな?」
残念ながら合成に必要な水は使い切ってしまっている。
仕方ない、水の確保を優先しようか…。
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