第99話 凝縮


 数時間かけて色々終わらせた。

 想定していたよりもかなり長い間あっちこっち行って忙しく、終わった頃には昼過ぎになっていた。




 まず爆弾の量産に関する事だが、特に何もなく順調。

 他に使い道もないのでゼリオンクリスタルとリアダントクリスタルは全て爆弾と閃光玉に加工し、インベントリに入れてある。


 その途中でふと気になってゼリオンクリスタルとリアダントクリスタルを合成してみたら、両方の性質を持ち破壊した時に爆発と強い光を発生させる「レザリアクリスタル」という物になった。が、多分合わせてしまうと使い勝手が悪くなるんじゃないかと数個作ってみたところで気付き量産はやめた。



 次に鍛冶師についてエニグマに頼った結果、エニグマの知り合いの「鉄火」というプレイヤーを紹介された。

 鉄火さんはエニグマの紹介ならと快く引き受けてくれた。かなり大きな鍛冶クランのマスターらしく、クランの新入りとかのスキルレベルを上げるためにやらせるから失敗するかもと言われたが、やってくれるなら文句はない。


 報酬は余った鉱石だが、自分で鍛冶をやらないので大半は余る。ついでに言えば自分でやるより鉄火さんを頼った方が楽だし品質も良い。

 本人もどんどん頼れと言ってたし、フレンド登録もしたのでこれからは自分で鍛冶をやる機会も減るかもしれない。魔法陣を彫るのくらいだろうか。



 最後にアリスさんに色々作製依頼を出した。

 鉱山の探索中に欲しかったポーチや留め具、メルンタウトとその付近を探索するための防寒具など。


 依頼した後に、前に渡したワンピースと一緒に着てみてくれと服を貰った。薄くヒラヒラな白い布の上着のような物で、半袖で丈がお腹辺りまでしかない。




「なるほど…」


 クランハウスの自室に戻り、貰った上着をワンピースの上から着てみた。

 ワンピースの肩が出る部分をちょうど隠すようになっていて、一緒に着れば露出が少なくなる。多分そのためだけに作られた物だから丈も短いんだろう。


「まあ着ないけど」


 水兵服が便利。ベルトあるしスカートじゃないから動きやすいし。



 服を戻しながら次にやることを考える。時間はかかったが当面のやりたい事は終わった。


 しばらく戦力強化と称して戦闘に使えるアイテムやスキルを探していたが、弓や魔術の遠距離を基本としてインファイトも出来なくはないという方針に決めたし、爆弾や閃光玉、毒煙玉などの戦闘に使えるアイテムも増えた。

 イベント間近ではあるが初回だし、概要を聞いた感じではそこまで難易度も高くなさそうだ。これ以上の強化は……いずれ必要になるだろうけど、今はまだいいかな。


 バジトラの鉱山の幽霊についてや、モリ森の湖の底にあった遺跡ついて、メルンタウトの探索なども気にはなるがアリスさんに依頼した物を受け取ってからの方が楽になるだろうし、これも今やることではない。

 湖底遺跡に関しては一度探索を行ったが結局何なのか分からないから気になるというだけだし、おそらく1人でまた行っても意味はないしむしろ死ぬ可能性あるし。




 少し考えた結果、錬金術をやる事にした。ほぼ常にやっていると言っても過言ではないが、それは依頼された物やお金に換える用に作っている物。

 やろうと考えたのは新たな発見というあれだ。前よりもアイテムは増えているし、合成などで新しい発見が出来るかもしれない。

 ついでに、この前新しく手に入れたアビリティについても気になる。

 生産施設で生産キットを購入出来るようだし、錬金ラボへ移動。


「分解キットは8万ソル、と……たっか」


 せっかく貯めたお金が消し飛んだ。貯めるのに時間かかるのに消し飛ぶのは一瞬だ。

 購入を決定すると所持金が消えたが、肝心の生産キットはどこにもない。アイテム欄を確認しても入っていない。


「は? 不具合かな…」


 もう一度パネルを起動し、購入履歴を開く。そこには【配送まで残り00:09:27】と表示され、1番右の数字が減ってきている。

 どうやら注文してから届くまでにタイムラグがあるようで、残り9分ほど待たなければいけないらしい。



 仕方ないので分解キットは後回しにして、先に合成などをやっておこう。

 師匠に教えてもらった、同じアイテムを合成すると凝縮するとかなんとか。魔石は今後使う可能性が高いので、魔石を凝縮する。



 魔石と一括りにして言っても、様々な種類がある。


 まず属性。火、水、土、風の基本属性と属性が存在しない無属性、上位属性と呼ばれる雷や氷などもある。

 師匠から貰ったネックレスについている魔石を見ると黄色に近い白や濃い紫があるので、光とか闇とかもあるんだろう。


 そしておそらく純度。

 ネックレスの魔石と自分が持っている魔石を見比べると、ネックレスの魔石の方が綺麗だ。透き通っていたり、色が美しい。自分が持っている魔石は色が少し濁っているように思える。



 昨日、岩からクリスタル類を取り出した時に半数くらいは魔石だったが、それらを見ていても純度はバラつきがある。

 属性は主に無属性。基本属性である火、水、土、風も混じってはいるがそう多くはなく、この5種類以外の魔石は持ってない。


 試しに無属性の魔石を2つ取り出して合成してみると、合成前の2つのどちらよりも綺麗になった…気がする。


 そういえばと思い出したが、久々の合成で『計測』アビリティの存在を忘れていた。

 容量を超えると爆発してしまうし、魔石も水も消失してダメージも受けるという悪いことしかないので注意しておこう。むしろクリスタル2種を合成した時とか、今の魔石の合成で爆発しなくて良かった。


「いやコスパ悪っ…」


 『計測』で数値を確認してみると、魔石のコストが思ったより高い。

 錬金釜を起動させるのに最低限必要な量が『計測』が表す数値では5000だが、魔石のコストは低くても1500ほど。高いものでは1つで5000を超える物もある。

 …本当に運が良かった。少し間違えてたら失敗して爆発してたな。


 だがコストパフォーマンスの低さが露呈した代わりに分かった事もある。おそらくだが、表示される魔石のコストが高いほど純度も高い。


 …冷静になるとだから何だよとは思う。総合的見たらどれも純度低いんだからどうせ合成するし。

 純度は割とどうでも良いかと思ったが、ふとネックレスの魔石のコストはどのくらいなのだろうと気になった。『計測』を発動したままネックレスについている魔石の1つ、無属性の魔石を見てみると……7桁だった。100万ちょっと。


「…アホか」


 水入り瓶1本で増える量が500だから、100万は2000本は必要になる。想像出来ないし、したくもない。どれだけ面倒を重ねれば表せるだろうか。


 いずれはネックレスの魔石と同じくらいのコストになるのかなと考えながら、錬金釜に水を入れて魔石を投入後かき混ぜて合成するというのを繰り返す。

 どうせ全部合成するので純度は気にしていない。適当に取り出した2つのコストを見て5000以内ならもう1つ取り出してそれらの合計値と容量が合うように、5000を超えてたら2つの合計値と容量が合うように水を追加して混ぜる。


 ちなみに違う属性の魔石を合成すると失敗して消失する。同じ属性同士でないと合成出来ないようだ。

 だがそれだと入手量が1番多い無属性はともかく、基本属性ですら純度が高いものを準備するのが難しくなる。この場にない上位属性の氷や雷、あとどういうポジションなのか分からないけど光と闇も。

 師匠はこのネックレスの魔石をどうやって集めたんだろうか。今度会いに行った時に聞いてみるか。


「あ、本棚買ってあげないと…」


 師匠で思い出した。一通り錬金術を試したら家具屋とか行ってみよう、あるか知らないけど。




 何回も何回も魔石同士を合成させていると、水が無くなってしまった。水を瓶に入れる作業とそれが出来る場所まで行くのが面倒で、水入り瓶を買っていたがそれも全て使い切った。

 今後水をどうするか決めておかなければならない。価格が崩壊していてめちゃくちゃ安いとはいえ、追加で買ってしまうと空き瓶が有り余る。かと言って水を回収するのも面倒だ。


 ……後回しにするか。なるようになると信じよう。



 水がなくなったところで、既に数十分は経過しているはずだ。

 先程購入した分解キットが届いていてもおかしくはない…というより、届いてないとおかしいのだが。


 錬金ラボを見渡してみてもそれらしき物は無いし、変化点も思いつかない。


「毎度ながら説明が皆無!」


 購入から配送までの過程がある事も初耳だったし、時間は経ってるはずなのに届いてないし。

 パネルを起動し、また購入履歴を開く。時間の表示は全てゼロになっており、【受け取り】というボタンがある。それを押すとパネルから投影されるように木の箱が現れた。

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