第95話 同盟
「じゃあ凛を頼むよ」
「任せてください」
途中まではちゃんと聞いていたのだが、よく分からなくて聞き流している間に話は終わったようだ。
兄さんとフレンドになった後、店を出ていく兄さんと、兄さんに着いていくブランを見送り、エニグマに結局何だったのか分かりやすく説明してもらうよう求める。
「結局何?」
「クランには同盟っていう機能があるんだ。設定にもよるが、同盟相手のクランハウスに入れるようになったり、メンバーリストからメッセージを送れるようになったりする」
「へぇ。それを兄さんの所と結んだってこと?」
「そうなるな。「レジェンズ」の面々とは交流が少なかったから今回のは俺としても有難い。何よりも耕太さんがそのサブマスだって事に驚きではあるが…」
それは僕もそうだ。
FFを始めてから1回も会わなかったけど、その間に有名なクランのサブマスターになってるだなんて。マスターじゃなくてサブマスターの理由は分からないけど…。
「その「レジェンズ」ってクランはどう有名なの?」
「あー……サービス開始してから数日後に設立して、数週間でその強さで有名になったな。まず異例なのが人数。少しずつ増えてはいるが、今でも7人しか居ない」
「7人…」
パーティーの上限人数が6人で、ブランが入ったのが最近だとしたらパーティーで行動するようなクランなのかな。それこそエニグマ達みたいに、元々パーティーだったのがクランになったとか。
「んで人数が少ないにも関わらず強さが有名って時点で分かると思うが、全員が全員クソ強いらしい。加入の条件がマスターが強さを見るとかいうのだからそういう方針なんだろうな」
兄さんが戦ってる所は見たことないから一切情報がないけど、ブランはよく入れたな。
有名なのに7人しか居ないって事はかなり厳しい基準なんだろうし、ブランはそれをクリアするくらい強くなってるのか。
…どうなんだろう、妹に負けるの。
「いや、物は見ようか」
僕はここまで来たら錬金術をやるつもりだし、そんな強いならブランに護衛とかを頼むのも良いな。僕とブランが戦うような事もないだろうし、強いなら頼もしいだけだ。
「急に何言ってんだ」
「なんでもない。他に情報ある?」
「そうだな…強さが基準だから、新入りとかの概念はあっても上下関係はないらしいな。同じくらい有名な「Road of the Kingdom」ってクランは逆に、功績を上げれば昇進するって感じで上下関係がハッキリしてるな」
「何それ面倒そう」
「そう言うな、やってる奴らは真面目なんだよ」
何故そんな上下関係がある所に所属するのか。功績を上げさえすればっていうチャンスがあるからなのかな。それか上からの指示に従ってそれを完璧にこなせば自分に責任が発生しないから、とか?
前にエニグマが自分で選択した瞬間、その選択に対する責任が発生するって言ってたし、選択を他人に委ねれば他人の所為になるって思考とか…流石に無いか。
「まあそんなとこか。いや、マジであのナスが耕太さんなんだなぁ…」
「ぶっ…。あのナスって言うのやめない…?」
「プレイヤーネームがナスなんだから仕方ねぇだろ。文句があるなら俺じゃなくて耕太さんに言えよ」
なんでナスって名前なだけで笑いそうになってしまうんだろうか。
果物と野菜だから少し違うけど、似たような感じで言えばぐれーぷさんだって近いのに、ナスと違って笑いそうになることはない。
英語か否かなのかな。ナスって英語でなんて言うんだろう、聞いたことないな。
「それはそうと、あのナスって言うくらいなんだし、兄さんに関しても噂とかあるの? あとブランも」
「…まあクソ強いってくらいじゃないか」
「エニグマとどっちが強い?」
「10割負ける」
100%勝てないって事か。そんなに強いんだ、兄さんとブラン。
ブランの今のステータスがどうなってるか知らないけど、前はINT極振りだった。もしかして強いのかな、極振り。敵の攻撃が掠ったら死にそうだけど…って、僕もそうか。
「まあそこら辺も含めて「レジェンズ」なんだよな。俺みたいなのに負けてたら入れんだろうし」
「頼もしいね」
「だな」
話が終わった流れで解散となり、エニグマは水晶から転移してどこかへ行った。
僕もここに居てやりたい事もないので、店の方へ行って幾つか素材を買ってから作ったポーションを納品ボックスに入れ、クランハウスへ戻る。
ホールにある椅子に座って前に買っておいた星水のジュースを飲みながら、今日の昼に書いていたメモの内容を思い出す。
ガスマスクの開発とか書いた気がするが、まだどうやれば作れるか思いつかないので頭の片隅に置いておこう。
他にはアイテムの作製、爆弾とかの戦闘に使えるアイテムを作れないかというものだ。現実のような爆弾でも良いが、手間を考えると閃光玉を作る時に使ったリアダントクリスタルのような衝撃を与えると効果を発動する素材の爆発バージョンがあれば楽ではある。
あるか分からないのでアイテムについて詳しそうな人に聞こうとフレンド欄を開く。
フレンドの中で知ってそうな人はエニグマかぐれーぷさん。エニグマは単純に色んな事を知ってるし、ぐれーぷさんは雑貨屋をやっているから、もしかしたら知ってるかもしれない。
2人にフレンドメッセージで聞いて返事を待っていると、ほぼ同時に返信が来た。
エニグマからは、クランハウスの保管庫にそういうアイテムがあった筈だ、というもの。ぐれーぷさんからはバジトラの鉱山で採取出来るという情報。
入手先はバジトラの鉱山で、そこで手に入れた物が余っていると判断すればいいのか。
「バジトラの鉱山…」
そういえばあそこも色々謎が多い。何故か幽霊が居たし、その幽霊を視認出来る条件もよく分かってない。
幽霊について色々調べてみたいが、鉱山内部ではモンスターも出るからゆっくり調べるのは難しいかも。とはいえ求めている素材があるなら行かないという選択肢はない。
バジトラの教会から鉱山までの道は覚えているし、今回は案内を呼ばなくても1人で行けるだろう。
ただし鉱山内部の地形は覚えられる自信がないので死んで戻ってくる前提で、うさ丸は置いて行く。
転移してきてすぐにまた転移する事になるが、もう1度水晶に触れて雑貨屋ぐれ〜ぷまで戻る。
師匠の所に行ったのもあって、サスティクから行くとルグレからサスティクまでの移動費にプラスして、サスティクからバジトラまでの移動費を払う必要がある。だがルグレからならバジトラまでの移動費だけで済むので、多少手間は増えるが節約になる。
それにどうせ、サスティクから行くにしても教会まで歩かなくてはならないのだからそう変わらない。むしろ雑貨屋ぐれ〜ぷは比較的教会に近い場所にあるのでこっちの方が歩く距離は短いのだ。
バジトラの教会から鉱山までの間には店が沢山あるから、必要な物があればついでに買っていこう。
「なんか買う物あったっけな…」
ピッケルやランタンは前に鉱山に入った時に使ったものがあるから買う必要はない。
クリスタルなどは岩石の中に埋まっていて、取り出す時に力加減を間違えると破壊してしまったり起爆させてしまったりするので削り取る道具を買うべきだろうか。
鉱山は関係ないけど、掘るという行為で何故かスコップが欲しかったのを思い出した。これは買っておこう。
道中で考えた結果、スコップと岩を削るための小さいハンマーや杭などの道具セットを購入した。採掘に補正がついてより多くアイテムを入手出来るようになる、という売り文句のピッケルがあったので少し買おうか迷ったが、値段を見てやめた。15万は高い。
鉱山に入り、ランタンをズボンのベルトに引っ掛けてピッケルを肩で支えながら歩く。
入ってしばらく進まないとここのモンスターである蟻には遭遇しないのでまだ武器は取り出していない。
その蟻との戦闘なのだが、鉱山内部では見えない所から急に出てきたりする可能性があるので、そういった場合に弓では取り出してから構えて放つというフェーズを踏む必要があり、その間に攻撃されるとほぼ確実に死ぬ。というかどういった形であれ攻撃を受けたら死ぬ。
攻撃の速さを考えるなら近接武器の方が良いのだが、それはそれで問題がある。防御力の低さもそうだが蟻の攻撃手段を知らないのだ。
「酸…? いや噛んできたりするのかな?」
ブランに案内兼護衛を頼んでた時は敵が攻撃する前にブランが倒してたから一切情報がない。
思い返すと前々から強さの片鱗は見えてたのか。
蟻の攻撃手段というと酸を飛ばしてくるか噛み付いてくるかくらいしか想像出来ない。そのどちらかだとするならば、酸さえ注意していれば接近された場合は必然的に警戒するから良いだろう。
『採掘』スキルによって可視化された採取ポイントをピッケルで削り、落ちてくる素材を回収する。
採取ポイントが確認出来るようになってきたという事は、もうそろそろ蟻も出てくるだろうと魔法陣と斧を取り出しておく。
「…ホルダーみたいなの作ってもらうか」
すぐに手に取れるように、ベルトに引っ掛けられる鞘の役割を果たす物を作ってもらおう。毎回アイテムメニューを操作して取り出すのは手間だし時間もかかるし、手が塞がるのも辛い。
ベルトに引っ掛けられるのを考えるとますます便利だな、この服。
そういえばと思い出したので『探知』スキルのアクティブ効果を発動させ、周囲に敵がいないかを確認する。
範囲内にはいないようで、反応はない。レベルによって範囲が広がるとしか書いてないので明確にどれくらいなのかは分からないが、そこまで極端に短い事もないだろう。
音などもしっかり聞き、敵が来ないか警戒しながら魔法陣と交代させるようにピッケルを取り出して採取を行う。
しばらく採取を行っていると、微かに物音が聞こえたのでそちらへ向き、斧を構える。
聞き間違いではなく、薄暗い道の奥から巨大な蟻が出てきた。6本足で勢いよくこちらへ向かってくるのを避けながら斧を振るう。
すれ違いざまに足を攻撃出来たが、切断したとかなら止められたかもしれないが傷付けただけなので止まる事はなく、Uターンしてまたこちらへ向かってくる。
「当たれっ!」
今度は足の付け根の方を狙ってみるが、胴体は妙に弾力があるため力いっぱい振った斧も少し跳ね返されてしまう。HPは減っているので無駄ではないけど、やりずらい。
これを繰り返していれば勝てるというほど蟻も弱くはなさそうだ。突進を避けられた後にそのまま通り過ぎるのではなく、6本の足を生かして方向を変えて追撃してくる。
右手の斧は跳ね返された勢いが消えず、攻撃にも防御にも使えない。残った左手に握られたピッケルを、崩れかけた体勢を更に崩すように体全体を使って振りかぶって追撃してくる蟻の横から突き刺す。
それでは死なないが、蟻に突き刺さったピッケルを引っ張って体を引き戻し、その勢いを利用してまた右手の斧で攻撃する。
どれが致命傷に至ったのかは不明だが、蟻は光となって消えていく。
魔法陣と持ち替えるのを忘れていたから持っているピッケル、案外攻撃にも使えるという事が判明した。
持ち替えるのが面倒だし片側を採掘用、反対側をハンマーとか斧にした武器を作ってもらうのも良いな。鍛冶やってる人に知り合い居ないけど。
「1匹倒すのにめっちゃ疲れる…」
突進と噛み付こうとしかして来なかったので、遠距離攻撃はないと考えていいかもしれない。
避けさえすれば、弓を取り出して構える時間もある。狭所では弓は使いにくいとも思ったが、薄暗いくらいでそこまで狭くもないし使えなくはなさそうだ。
「問題は携行が難しいくらいかなぁ」
弓にしても斧にしても魔法陣にしても、戦闘と採取の道具を同時に持つのが難しい。やはりベルトに引っ掛けるか背負えるホルダーを作ってもらおう。
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