第74話 素材の素材みたいな


 師匠と同じ手順で魔法陣に勝手にMPが供給されるようにするならやるべきことはそれなりにある。


 まず魔法陣を入れる宝石。ネックレスの宝石には中に魔法陣が入っているが、魔法陣だけ描けてもこの宝石、つまり魔石がなければ意味がない。

 しかしそれと同時に、魔石がなければ魔法陣を描けても意味がない。そこら辺はどっちも揃ってようやく成り立つというか。


 そして欲を言うなら、魔石は複数欲しい。メインとなるネックレス中央の白い魔石は恐らく属性がなく、魔法陣の発動にしか関わらないが周りの属性付きの魔石は別だ。

 このネックレスは属性付きの魔石が魔力を自動で回復し、それをメインの魔石に送る事でずっと使えるようにしているらしい。

 僕が作ろうとしているガスマスク…別にガスマスクじゃなくても良いけど、毒を無効化するアイテムもそれを採用したい。1回1回メンテナンスの度に膨大な時間とMPを使って回復させたくないのだ。


「魔石、かぁ…」


 以前、毒を無効化するポーションがあるか師匠に聞いた時にそのポーションの材料になる薬の材料に、魔石が必要になると教えて貰い魔石の入手先は知っている。

 強いモンスターの体内から取れる、つまりドロップアイテムだ。それかサスティクのダンジョンに出現する宝箱の中身。

 どちらにしても、僕だけでは困難だ。エニグマ達も…今はダンジョンに挑戦中。宝箱から回収してるかもしれないし、後で聞いてみよう。


 魔石を後回しにするとなると、今やるべき事は魔法陣を作って魔石に入れられるようにしておくこと。

 手順は聞いた通りなら3つ。1、光属性の魔術で魔法陣を描く。2、描いた魔法陣に固定の概念を与える。3、投射の魔術を使って魔石に移す。

 問題の2だが、固定の概念を与えるという事は本を読めば分かると教えて貰えたので、師匠から借りた本を開いて読んでみる。


 「固定の概念を与える」って何だ、と師匠から聞いた時に考えたが、今ようやく思い出した。この本で「概念を与える」という内容があったのは、僕が読んだページにもある。

 魔法陣の中に魔法陣を描く事。「同期」の魔法陣も、同じように概念を与えると書かれている。

 つまり、「概念を与える」とは魔法陣の中に別の魔法陣を描いて変化させるということなのだろうか。


 同期の魔法陣のページの近くを読んでいると、同じような魔法陣について記されている。

 その中に、固定の魔法陣を見つけた。同期と同じ鎖の絵だ。しかし固定の魔法陣は、2本の鎖が交差するようになっている。イメージは固定というより、「束縛」っぽい絵だなと。

 そしてこの魔法陣の効果…はそのまま「固定」なのだが、応用として、鏡の絵が描かれた魔法陣に要素としてこの絵を描くと投射の魔法陣として完成するらしい。

 これで固定の概念とやらと、魔石に移す投射の魔術は分かった。残るは光属性の魔術で魔法陣を描く事と、その魔法陣を描くための魔法陣が必要になる。


 …何だろう、この遠回り感。強い武器の素材を集めるために防具を作ろうとしてそのための素材を集めに行く、みたいな。


「まあいいけどさ」


 そして色々衝撃的で聞くのを忘れていたが、光属性の魔術で魔法陣を描くってどうやるんだろう。あとついでに毒を解除する魔法陣と継続の概念を与える魔法陣があるかも聞くだけ聞いておけば良かった。

 師匠は多分寝てるから今行っても無駄だろうし、調べたり試してみたりして、それでも無理なら時間をおいてまた聞きに行こう。


 では光属性の魔術から。

 思い当たる節があるとすれば、以前鼻で笑った魔法陣。「火」と描いただけの魔法陣は、「火」の形をした火が出て終わった。それを応用出来れば、魔法陣に魔法陣を描いて空中に投影出来る…かもしれない。

 あの時は「しょーもなぁぁぁい」と思ったけど、こんな所で使えるとは。まだこれが正解かは分かってないけども。

 しかし「火」の魔法陣は属性を描いてない…し、要素もない…? いや、あれはどっちなんだろう?

 属性らしい属性は描いてないし要素も描いてない。火という文字は属性という括りに入るのか、仮に入っているとして何故「火」の文字で出てくるのか。


「んんー……。やるだけやってみようかな」


 「光」や「水」という文字のみ書いたを魔法陣を作り、起動してみるとそれぞれ「光」の形をした光、「水」の形をした水が出てくる。改めて考えると凄い馬鹿っぽい。

 火属性だけではない事が分かったし、次は「光」という文字と火の絵を描いて起動してみる。今度は「光」という文字の火が空中に浮かび上がる。


「ふむふむ…」


 文字のみの場合は属性と形と表す要素の両方として機能するけど、別の属性がある場合はそっちに属性を渡して形を表す要素として専属になる、って感じかな。

 これを文字でなく、魔法陣を描いて同じように空中に浮かび上がるのであれば成功で良いだろう。とりあえず魔法陣が空中に出せるかを試すべきだ。何の魔法陣であれ、ね。

 光属性の魔法陣をそんなに描かないので何の絵にするか迷うが、そこまで威力とかは求めてない。ここは安直に電球にしよう。そしてその電球の横に火の絵だけを描いた魔法陣を描き、MPを込めて完成。

 魔法陣として成立し、MPを込めるのも完了した。


「ん? 天才かな?」


 描いた魔法陣を起動すると、空中に光で火の絵だけが描かれた魔法陣が浮かび上がる。空中に現れた魔法陣に触れてMPを込めると、ボッと火が一瞬だけ表れ、光で出来た魔法陣と共に消えていった。


「おお…めっちゃ上手くいった……」


 やはり慣れもあるのだろうか。最近予想が良く当たるような気がする。


 まあそれはさておき、光属性の魔術で魔法陣を描くというのは可能になった。

 残りは光で魔法陣を描き、それを固定化して魔石に投射するだけ…だが、また問題が。固定化のための魔法陣は分かったが、使い方が分からない。

 あれは光で投影する魔法陣の中に描けば良いのだろうか、それとも浮かび上がった魔法陣に対して使えば良いのだろうか。

 そしてもう1つ問題はある。現状何よりも大事である事を忘れていた。


「そもそも毒を無効化する魔法陣を作れてない、と」


 多分、順序を立てるのが下手なんだな、僕。

 僕が考えていた毒を無効化する魔法陣は、毒を消す魔法陣に「継続」の概念みたいなのを与えて無効化し続ける…という物だ。難易度で言うと…まあどれも同じか。

 でもどちらかと言うと「継続」の概念を与える事が出来なければ難しいかもなので、先にあるかどうかだけ調べよう。

 概念系の魔法陣は恐らく近いページに纏められているから、あるならすぐ見つかるはず…。


「んー、ない…かな」


 生命とかはあるのだが継続は書かれてない。が、諦めるのは早い。概念を与えるとかいう意味不明な事が出来るんだ、どうせ継続も頑張ればいけるだろう。

 むしろそうであってくれ、そうじゃないとここまでの努力が無駄になる。


 何回目かの、イメージから逆算して魔法陣を描こうのコーナー。

 「継続」というと文字通り続くとか、終わりがないとか、そういうイメージ。現象というか行動だけど、リピートとかが当てはまる。

 そういえば繰り返す事についての有名な話だったかモンスターだったかを知っている。「ウロボロス」という、自身の尻尾に噛み付いている蛇の絵だ。


「ありそうだなー…」


 このゲーム、湖底遺跡の謎解きにあったブレーメンの音楽隊みたいに、割とそういう伝承とかも取り入れてあるからウロボロスで魔法陣を作るのも可能なのでは。

 ただ、ウロボロスとか熟知してる訳じゃないし、チラッと見ただけだから詳しくどんな物か、というのは忘れた。自分の尻尾を噛んでる蛇を描いてウロボロスと判定されるかが問題なのだ。


 実際に描いてみたけど…鱗も描いた方が良いのかな。デフォルメっぽいけど平気かな?

 考えるのが面倒になったのでテンプレートとして火だけ描いた魔法陣を使う。先にウロボロスの方を描いてしまったので、少し大きめになってしまうが。


「よし、出来た」


 MPを込めて起動すると、火が発生したままになる。紙に魔法陣を描いて使うと紙は消えてしまうのだが、紙が消えきるまでずっと火は消えなかった。


「あれ…なんか違うな」


 なんかガスマスクの用途としては少し外れているような。

 常に機能して欲しいという思いはあるのだが、そうするとMPの消費が激しくて魔石でもすぐに枯渇する可能性がある。ベストなのは必要になった瞬間にアクティブになる事だが、そっちは無理だろうか。


「むむむむ…疲れちゃったから今日は終わりにしよう」


 この後どうするか考えながら別のことをしよう。もうなんか状態異常じゃない頭痛がしてきた。

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