第75話 休憩は大事


 頭を使い過ぎた…というより、何か疲れたので頭を使わない事をしようという事で、また訓練所へやってきた。

 もうほぼずっとここに居るけど、結構便利なんだよね。


「ねー、うさ丸」


「キュイィ…」


 時間も操作出来るカスタムも購入されてるから昼にも夜にも出来るし、木陰もあるからゆったりするのに最適だったりする。うさ丸も自由に遊ばせておけるし。

 ちなみに他のウサギ達は庭の方に移動させた。


 唯一、ゆっくりするのにあまり適してない理由があるとすれば、それは他の人が訓練所を使っている事だろうか。


「よっこいせっ」


 最近エニグマとのエンカウント率が非常に高い。

 フレンドメッセージで魔石について聞いた時、余りがあるとの返事があり、訓練所で試したい事があるからついでに渡しに行くと言われた。

 エニグマのパーティーの他のメンバーは全員帰ってきたのに、エニグマだけ遅かった。理由は頼んでた物を受け取りに行ったとかなんとか。

 それで大人しくうさ丸と遊んだり弓の練習をしたり、ポーションを作ったりして時間を潰していたらやっと帰ってきたのだ。


 魔石はポンと渡されたが、ネックレスのと比べると随分と小さい。合成が出来るなら数を用意すれば良いのだろうと割り切ったが、それはそれでいつ完成するか…。

 エニグマから聞いた話によれば、高いけど魔石は売っている事もある。自分でダンジョンに潜ったりモンスターを倒したりしなくても、買って集めるという手もあるということだ。

 …買えるとは言ってない。


 そしてエニグマが1人だけ帰るのが遅かった理由、訓練所で試したい事というのは…また奇怪なことだ。


 まずエニグマが持ってきたのは、ほぼ棒に近い、切っ先以外ない、針とも言える武器だ。分類上は槍らしい。これだけならまだ、貫通とかがコンセプトの槍だと判断するだろう。

 そうさせないのはその槍に括りつけられた、何十メートルもありそうなロープ。


「おー…ラァイ!」


 少し離れると棒にしか見えない槍を、壁の高い位置に思い切り投擲する。槍は壁に深く、槍全体の7割くらいまで突き刺さった。


「よしよし」


 突き刺さった槍とエニグマを交互に見ていると、いつの間にか取り出した同じ槍を今度は地面に突き刺し、同じように7割くらいまで埋める。

 最初に投げた槍に繋がっているロープを地面に埋めた槍に括りつけ、ピンと張るような感じで強く固定した。


「何やってるの?」


 一段落着いたような雰囲気だったので、気になっていたけど邪魔しないように黙っていた質問をぶつける。


「移動手段の確保だ」


 移動手段。

 言われてみれば、このロープを伝って行けば高い所とか少し不安定な足場とか、谷とか川とかも移動出来るかもしれない。


「いいね」


 素直に賞賛だ。雲梯みたいに移動するなら腕の力、乗って綱渡りみたいに移動するならバランス感覚が必要になりそうだけど、STRとかがあれば問題ないんだろうか。


「メンテナンス面倒だし性質上使い捨てになりやすいが、コストもそれなりにかかるのがネックだな」


「使わないの?」


「そうは言ってないだろ。使い道は慎重に選ぶべきだって事だ」


 槍を投げて壁に突き刺すのを現実でやろうとしても、壁が豆腐じゃない限りは出来ないし、少し突き刺さっても括りつけてあるロープに体重を乗せたら外れてしまうだろう。

 むしろゲームであっても壁に槍の7割ほどが埋まるエニグマのSTR値も少しおかしいのでは。


 なんて考えつつも、プレイしている時間は同じくらいなのにステータスに大きく差がついている事を察し虚しくなるのでそれ以上の思考は放棄する。


「エニグマも一緒に昼寝しよー」


 現実はもう夜と言える時間だけど。


「もうちょいやってからなら良いぞ」


 良いんだ。

 昼寝と言えば、最近ヒュプノスさんと会ってない。あの人のふわふわな雰囲気は気持ちよく眠気を誘うから昼寝の時に呼んでみたい。


「クランってさー、上限人数何人なの?」


「人数か? 最初は10人だな。所属人数が上限の半分を超えると枠を増やせるクエストが冒険者ギルドで発生するからそれをクリアすれば10枠増える」


 案外少ない。今このクランに所属しているのは僕、エニグマ、アズマ、アクアさん、エアリスさん、クロスくんだから6人。既にそのクエストとやらが出現する条件は満たしているのか。

 ……って、クランの所属人数が「6/20」と表示されてるから既にクエストはクリアしてるのか。


「誰か誘ったりしないの? アリスさんとか、ぐれーぷさんとか」


「あー、誘ってないな。ぐれーぷはあいつに利益が無いと入らんだろうし。アリスは…まあ」


 その「まあ」には色々含まれている気がする。少なくとも、6割以上は呆れの声音だったが。

 エニグマは何かあったのかもしれないが、僕は別にアリスさんは嫌いではない。服の試着をさせられて写真を撮られるが、軍服ワンピースとか白衣を作ってくれたのもあるし、なんだかんだ服は可愛いし。

 軍服ワンピースとかならともかく、メイド服とかは動きにくいしあんまり着たくないけど。


「アリスは置いとくとして、ぐれーぷは戦力としても強いし誘う理由作らねぇとな」


 置いて良いのかな。

 でも確かに、ぐれーぷさんは僕とアリスさんが試着がどうこうって話している時に利益がないから無理なんじゃないかと言ってたし、結構打算的な所が多い。

 僕と関わりがあるのも、ポーションを安定して仕入れられる先を作りたかったからだろう。現在は良好な関係を築けているが、その切っ掛けはやはり利益を求めた結果に基づく。


 そのぐれーぷさんを、クランに入った方が利益が出ると思わせる理由を作る、或いは提示しなければ入ってくれないだろう。

 しかし僕はクランの機能をそこまで知らないので、一緒に考えるのは難しそうだ。


「なんかありそう?」


「そうだな…俺達はダンジョンとかで手に入った物で必要ないと判断した場合はクランの露店から売ってるんだが、そういう商売関係を一任させるとかだな。

 クランとして露店を出す権利を各街の冒険者ギルドで買えば、ぐれーぷが店を出してるルグレ以外の街でも露店で商売が出来るってのもそこそこ。管理も楽だしな。

 あとはクランに入る事でブランドが付くという可能性だな。俺達…いや、別に誰でも良い、誰かか全員か。兎に角それなりの功績を出せば、そりゃ勿論本人が1番話題に上がるだろうが、それと同時にクランの名前も売れる。そうした場合、そのクラン員またはクラン自体が運営している店は興味を持たれやすい。利益も少なからず上がるだろうな。

 これは現状何もしてないから将来性を見込んで、って事になるし、ブランドが付く可能性はどのクランにもあるからあんま提案するつもりはないが」


 よくもまあそんなポンポン思い付く物だ。


「頑張ってねー」


 その後もあれやこれやとブツブツ呟いているエニグマを放置し、木陰で寝転がって目を閉じる。


 木漏れ日だけでも心地良いけど、少し涼しい風とか枝が揺れて葉っぱが当たる音とかがあれば昼寝には最適だろう。

 なんかそういうシュチュエーションで昼寝するのに憧れがある。あと河原の草が生えてる所で昼寝したりするのも。

 ウチにはコタツがないから、コタツで寝るというのもやってみたくはある。けどアズマの家でコタツに入らせてもらった時は暑かったからあれで寝れるかは…どうだろうか、風邪引きそうだけど。


「スカート履いてんのにそんな足を開くなよ」


 空の流れていく雲を眺めていると、いつの間にかエニグマが近くまで来ている。


「スパッツ履いてるから平気だよ」


「そういう問題じゃねぇんだよな」


 スパッツってパンツが見えないように保護する為に履くと聞いたけど。パンツ見られるのが恥ずかしいからスパッツを履く、とか。


「良いから閉じろ」


「うぇい」


 エニグマに足首を掴まれて強制的に揃えられる。そんな気にする事でもないのに、随分細かいな。


「はしたない言動は控えた方が良いぞ。その方が上手くいくケースが多い。なんならお嬢様みたいな言動にすれば良いんじゃないか、顔も整ってるんだから違和感もそんなにないだろ」


 お嬢様みたいな言動…?「ですわ」とか「〜してましてよ」みたいな話し方で、「オホホホ」と笑うアレだろうか。

 僕の「お嬢様」に対するイメージが貧弱過ぎる。


「嫌ですわ」


「似合わねぇー…」


「キレますわよ」


「それは違うだろ、なんか。形容詞とかで怒りを表現するんじゃないか?」


 提案してきた割に文句が多い。


「もうやらないよ」


「ああ、人前でやらん方が良いぞ」


 あ、思ったよりずっと評価低いのね。エニグマがそういうならもう一生やらない方が僕の心象も良くなりそうだし、僕自身の精神的にも良いだろう。

 いや、人前でやるなっていうのは誰にも見られてない所で練習しろっていう遠回しな……違うか。


「お腹空いたからご飯食べてこよっかなー」


「…俺も一旦ログアウトするか」


 ご飯食べて少し休憩してからお風呂入って、髪を乾かして寝る準備をしてからもう少しFFで何かして寝よう。

 寝るのは遅くても23時くらいかな。エニグマ達と比べると、つくづく健康的な生活リズムをしていると思う。僕の方が早くログアウトして寝てるのに次の日の朝にログインしたらオンラインなの、ちゃんと寝てるか心配になるけど。

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