第65話 熟練の迷子


 …やはり、慣れない場所というのはあまり好きではない。こういう時にスマホがあれば地図が見れるし、FFでもマップというアイテムがあり、それはかなり高性能で便利だから持っておきたい。

 が、僕は称号によってマップを所持できないという制限があるから持てない。どうにかしたいのだが。


 まあこの前振りなら大体予想は付くだろう。



「迷った…」


 注意してても無理。そもそもサスティクに初めて来たというのもあるし、クランハウスまで連れてこられた時も抱えられてて自分の足で歩いてないから覚えてない。

 来た道も分からないし、サスティクは大通りという概念が薄そうで、どこも人通りは多少なりともあって、誰も歩いてない道、所謂裏路地的な道がない。つまり何処を通っているのか全く見当もつかないのだ。


「んー、どうしよ」


 迷う前であればエニグマとかブランとかに頼んで案内してもらったりもできたんだけど、時すでに遅し。迷った後では案内どころか合流すら難しい。

 しかも現実と違って駅も無いし、目印になりやすいコンビニチェーン店とかも無い。

 これからどうするべきか、対策が一切思いつかないため問題を後回しにして楽観的な思考に切り替える。


「ゴーグルに合う服ってなんだろなー」


 エニグマから貰ったゴーグル、軍服ワンピースとも合わないという訳ではないが、もっとベストマッチな服もあるだろう。

 ……想像力が乏しすぎて思いつかないけど。スチームパンクな服ってどんなのだっけ…?


「というかまた作製依頼出す必要あるのか…」


 そう考えるとなんかすごく面倒に思えてきた。装備の性能には困ってないし、気が向いた時に考えるようにしようかな。

 髪飾りは特に触れる点はないし、あとは弓か。レインボウって名前、最初見た時から思ってたけど虹…だよね。別に見た目が虹みたいにキラキラ光ってる訳じゃないし、なんで虹なんだろ。

 レインボウの見た目は青い…なんだこの素材。木ではないけど、軽いから金属でもなさそう…プラスチックっぽくもないな。何この…何?

 ……とにかく、青い弓だ。装飾もないシンプルなデザイン。なんか百均に置いてありそう。

 弓も練習しなきゃなぁ、せっかくの遠距離攻撃の手段だし。


《『エニグマ』からシステムメッセージが届いています》

【エニグマ:訓練所できたぞ】


 そうなんだ。

 して、ここからどう帰るかが問題なんだよね。ここ何処なんだろ。段々人も見なくなってきたし、変な所に迷い込んだとか?


「うぅーん…迷子にならないようになりたい……」


 でも来た事ない場所って普通何がどこにあるか分からないし、それが分かるマップというアイテムが便利過ぎなだけなのでは? だったらそのマップを所持できない僕が迷うのも必然で仕方の無い事では?


「…次からは誰かに着いてきてもらうかー」


 街の構造を丸暗記はしなくてもいいけど、主要な場所は覚えておいた方が良いかも。あとリセットポイントになる場所も決めて覚えた方がいい。街に入る門とか、リスポーンする場所、ルグレなら噴水みたいな所が該当する。

 街は教会から転移してくる事の方が多いだろうし門からの道より教会からの道を覚えた方がいいか。リスポーンポイントは……ルグレ以外でリスポーンした事ないから分からないけど、街の中心辺りなのかな?



 歩いていると、急に空が暗くなってくる。メニューから時間を確認してもまだ10時くらい、夜になるのは11半くらいなのでまだ夜ではない筈だ。

 …って事は、時間に干渉する特殊マップ? マップが持てなくなった原因である『迷い人』という称号に特殊マップ侵入条件緩和、と書かれていたけど…。


 ルグレの逢魔の空間といい、街中に特殊マップ多いな。もしかして全部の街にあるのかな? というか逢魔の空間の侵入条件って何なんだろう? エニグマにそれとなく聞いてみたけど知らなそうだったし、無条件で行ける事はないと思うんだよなぁ。

 逢魔って言うくらいだし、夕方なのも条件に入ってるとか? でも迷い人を取得した日は夕方じゃないのに行けたな。しかも行ったのは迷い人を取得する直前だから称号の効果は反映されてないだろうし…。

 師匠が逢魔の空間を作ったってリコが言ってたし、入れる条件は師匠が好きに変えれるのかな。

 師匠は錬金術師だし、弟子か助手かが欲しくて錬金術師見習いをおびき寄せる為に原初のフラスコを市場に流したって言ってたから、錬金術の取得の有無も関わってるのかな? あと遠くからでも逢魔の空間に行ける「黄昏の首飾り」を持ってると他の条件を無視できる、とか…?


「…分かんないなー」


 まあ考えようが考えまいが師匠の所には行けるから良いや。


 集中して考えると普段より思考の流れが早いからか、考えた量でどのくらい経過したか予想してるから時間が流れるのが遅く感じる。

 ……いや、さっきから1分も経ってないのは流石に遅くない? 今の思考本当に1分未満で完結してた?


「なんかおかしいな」


 ならば、と「1、2、3…」と1秒ずつ口に出して数えながら歩いてみる。50くらいの時に時計は1分進んだが、そのまま続けて数えてみると120まで数えても時計は変わらない。

 正確な1秒ではないけど、大体2分数えても1分しか進んでない。更に数えていると、280カウントくらいでまた1分進んだ。


「3…じゃないな、4分で1分くらい…?」


 時間加速設定が適用される特殊マップ? 時間加速は運営が決めるからそういうのもできるのかな。

 ただ、逢魔の空間に行く時みたいに道がループしている訳でもない。とうとう門まで辿り着いたが、夜なのは変わらないし人も一切見かけない。ただ、なんかさっきより薄暗く、寒くなったような気がする。


「…なんか浮いてる?」


 青い火の塊のような物が建物の上で彷徨っているように見える。青い火というとガスコンロの火は青い…じゃなくて幽霊とかそういうの? でもバジトラの鉱山でも幽霊居たし、街2つ連続で幽霊ネタってどうなんだろ。

 漂っている青い火に気を見ながら歩いていると、今度は前方で人骨が立っていた。理科準備室に立ってそうな骨だ。

 バジトラ鉱山の幽霊と同じだと思って素通りしようとしたけど、「何普通に通ろうとしてんだよ」みたいな感じで攻撃してきたので、煙玉で視界を遮りつつ逃げる。


「ふぅ、骨にも視界あるんだ…」


 そして敵対なのか、骨。モンスターだとするとゾンビとかと同系統の、確か「アンデット」だったっけ……いや、「アンデッド」か。前にエニグマがトとドの違いについて話してた。

 アンデッドは死ぬに反転だから死なない、だったかな。骨とかゾンビって死体だから死んでない? という疑問もあったけどそういうもんだって言われたし、あんまり気にしちゃいけないんだろう。


 しかし、このマップの詳細がよく分からない。青い火が漂っていて、敵対の骨が出てきて、時間加速設定がある。幽霊関係なのかな? 時間加速設定があるのはチャレンジマップみたいな扱いだからとか?

 何にせよ、マップから脱出できない不親切な設計ではないだろう。そういうのは街中にはない。…多分。


 一応やるだけやってみようと、Uターンして門まで戻り、外に出ようとしたけど門が閉まっている。押しても当然開かないし、掴む所がないので引けもしない。

 外壁の上から出れるかも試したいところだけど、登る手段がない。見渡しても階段らしき物はないし、ゴーグルの『望遠』スキルを使って見える範囲の壁の内側を調べても登れそうな所はない。


「外じゃないか。なら中央?」


 特定の場所に到達するのが脱出条件ならば街中を探索すればいい。それ以外の、例えば骨を一定数討伐すると出れるみたいなのもあるのかもしれない。死なないのに倒せるのかは分からないけど。実際どうなんだろう。

 脱出の条件が分かれば世話はないが、そう甘くはない。脱出する事を第1目標に、多くのパターンをなるべくカバーできるようにするには、骨を倒しつつ街を探索するのがいいだろう。これならば、骨のドロップアイテムを集めて特定の場所に到達するとか、設置された宝箱を全て開けるとかそういう条件だったとしても、それなりに楽だ。


「というか、こういうのって目標教えてくれるものじゃないのかな…」


 もしかしてこの特殊マップ、何かの条件を満たすと出現するクエストでのみ解放されるとかでストーリー性がある? それならストーリーの流れから何をするかは分かるけど、僕の場合は急に迷い込んだし、称号効果の不具合だろうか。脱出したら運営に問い合わせてみよ。


 で、骨を倒しつつ街を探索すると決めたは良いけど、骨って倒せるのか、という疑問が残る。

 あと出てくるのが骨だけとは限らない。害はないようだけど青い火もいるし、同じ系統の…アンデッド仲間のゾンビとかも出てくるかもしれないし。

 幸いにも骨はさっき逃げれた通り、逃げるのは楽だから攻撃してみて無理そうなら倒すのは無いと判断して走って街中を探索しよう。その場合倒すのが条件だったら詰むけどね。

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