第64話 クラン加入RTA(2)


 迷宮都市サスティク。初期の街であるルグレと同じ、穏やかな気候の街だ。間のバジトラが薄暗いのがより一層目立つ。

 馬車がサスティクに入った瞬間に、エニグマからクランの勧誘メッセージが送られてきて、入ると言っていたし迷う理由もないので加入。そのまま道を覚えてないサスティクの街を抱えられながら眺めていると、ルグレの冒険者ギルド並に大きな店に連れていかれる。


「新メンバーのリンだ! エックスは初対面か?」


 店の中にはサービス開始日にエニグマとアズマが連れてきてフレンドになり、たまにポーションを売ったりルグレで会ったりしていたアクアさんとエアリスさん、それともう1人、茶髪の少年が待っていた。

 恐らくこの少年がエックスという人だろう。しかし初対面の筈なのにこちらに指を向けて固まっている。僕はそこまで気にしないけど、人によってはキレたりするんじゃないだろうか。


「あ、あなたは…」


「ん? 知り合いか?」


「いや? 会ったことないけど。初めまして、リンっていいます。よろしく」


 少年は僕の自己紹介を聞いた後、咳払いをする。


「前に! 草原で兎に囲まれてませんでしたか?!」


 自己紹介じゃないのかよ、というツッコミは心にしまっておくとして。

 確かにルグレ付近の草原でウサギ達に囲まれて昼寝をしていた事はある。あれが雑貨屋ぐれ〜ぷにウサギが大量に住み着いた原因だ。部屋とかが割り振られるならウサギも連れてこようかな。


「囲まれてた事はあるけど…」


 別に、だからと言ってこの少年とは関係が無い気がする。もしかして遠目から見られてたとか? やべーやつと一緒のクランになったなぁ、みたいな?


「その時に1回…っ!」


「エックス」


「…ごめんなさい。僕は『X-OVERクロスオーバー』です。呼び方は…好きに呼んでくれて構いません」


 エニグマに名前を呼ばれ、少年はハッとした顔になった後、少し落ち込んだ表情を見せる。

 というか名前「エックス」じゃないんかーい。「クロスオーバー」も黒歴史になりそうな名前だけど…なんて呼ぼうか。


「じゃあクロスくんで。というか何でエックスって呼んでるの?」


「口頭でしか聞いてないから分からないよね。『クロスオーバー』は当て字なのよ」


 エニグマに聞いたつもりだったが、エアリスさんが答えてくれた。エアリスさんはメニューを操作して文字を打つと、それを僕に見せてくれる。そのウィンドウには「X-OVER」という文字が。

 オーバーはそのままだが、Xはクロスと読んでいるのか。それでクロスオーバーね。Xだからみんなエックスって呼んでたんだ。

 感想としては何かのヒーローみたいな名前だ。しかしこれは相当な黒歴史になるだろう。あまり触れてあげない方が良いかもしれない。


「エックスとリンの関係は追々って事で。先ずは加入おめでとう…ありがとう? どういたしまして」


「何言ってんの?」


「まあそれは良い。ようこそ我らがクランへ」


「名前は?」


「未定」


 決めてないのか。というかそういうのって設立時に決めるものじゃないの? 後から変更できなかったらずっと「未定」って名前のクランでやることになるけど。


「あとクランハウスはここな。訓練所はまだ作ってないからもうちょい後で。はいこれ」


 捲し立てるように色々と喋り、鍵を渡してくる。金色の、なんかこう…シルエットクイズで出てきそうな凄い簡単な鍵。


「何これ」


「クランハウスの鍵だ。それを持ってると転移ポイントから所属してるクランのクランハウスまで無料で転移できる。でも別の街から転移してきた場合はクランハウスの中でしか行動できないから注意な」


 めっちゃ便利。この鍵を持っていればルグレで活動しながら、エニグマ達に呼ばれたらクランハウスで会うことができ、しかもアイテムの交換とかもできる。


「もう1つ、これもな」


「また鍵? これは?」


「お前の部屋の鍵だ。2階、階段上がって左に3番目の部屋だ。クランハウスの見取り図は誠意作成中、簡易的な部屋割りならやるよ」


 渡された紙には恐らくこのクランハウスの、2階だけが簡易的に描かれている。階段から左右に別れ、右はエニグマ、アズマ、クロスくん。左はエアリスさん、アクアさんという風に割り振られている。アクアさんの隣の部屋が僕の部屋になるようだ。


「施設なんかは受付にある水晶にアクセスすれば行けるし、リクエストとか作成もできる。同じく受付から何かを売ることもできるな」


「へぇ、便利だね」


「おうよ。そしてこれは…加入祝いだ」


 ここに来てから色々受け取っているが、エニグマはまた別の物を取り出して渡してくる。

 エニグマの手にあるのはゴーグル。片目に三段のレンズが付いていて、一段ずつ小さくなっていってる。スチームパンクというべきか、そんなゴーグルだ。


「ありがとう…?」


「そのゴーグルは『鑑定』ってスキルが付いててな。通常のレベルじゃ調べられないアイテムを調べられたり、普段よりもアイテムを調べた時の情報量が多くなったりする」


「貰っていいの?」


「ああ」


「じゃあ私からはこれを…。よろしくね、リンちゃん」


「そうねぇ、ならあたしからはこれ」


 エニグマに続いて、アクアさんとエアリスさんからも加入祝いというのを貰う。アクアさんからは金属の花の髪飾り、エアリスさんからは弓を渡された。


「ありがとうございます」


 装備の性能は後で見てみよう。


「んじゃ解散」


「はやっ」


 それぞれ椅子に座ったりクランハウスから出て行ったりと文字通り解散。

 僕も割り振られた部屋を確認したいし、サスティクがどんな街なのかも分かってないしエニグマ達が行ってるダンジョンもどこにあるか知っておきたい。


「部屋見てくる」


「家具はベッドとテーブルしかないから必要なら買えよ」


「んー」


 こういう好きにカスタマイズできるのって1回気になったら満足するまでやっちゃうし、気になる家具とかあれば買うかも。今は特に思いつかないけど。

 クランハウスの階段を上がり、左へ曲がって3つ目の扉を開く。鍵は掛かってないようだ。僕が出る時に使えばいいのか。

 エニグマが言った通り、ベッドとテーブルしか置いてない。本当にそれだけで、椅子もクローゼットもない。なんか便利そうなアイテムを置くのもあり……そういえばプリンター、ぐれーぷさんの部屋に置かせてもらってたけどあれ僕のだし、こっちに持ってくるか。


「結構広いな…」


 ちょっと家具置いても全然スペースは余りそうだ。


 魔法陣の方は発動確認じゃなくて威力がどうか見る実験だし、ここではできないからさっき貰ったアイテムの方を確認しよう。

 先ずはゴーグル。エニグマが言っていた『鑑定』というスキルが付属している。それともう1つ、『望遠』という遠くを見やすくするスキルもあるようだ。どちらもレンズを通した時のみ使用が可能らしい。


「高性能だなぁ…高そう」


 このゴーグルは常に頭に付けておいて、使う時だけレンズを通せばいいや。

 次はアクアさんから貰った金属の花の髪飾り。「金属造花の髪飾り」といって、装備するとAGIが5上がるそうだ。付け方が分からないので装備欄に突っ込んで装備すると左耳の近くに現れる。少し髪を引っ張られる感覚があるが、そこまで気にはならないしこのままにしておこう。

 最後、エアリスさんから貰った弓。「レインボウ」という名前で、装備していると水属性の攻撃にボーナスが付くらしい。弓としての性能は…弓を初めて見るからよく分からない。


「弓…? 矢を買えば使えるかな…」


 調べた感じでは装備に必要なステータスは無いし、矢も買っておいて練習してみよう。

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