第66話 骨と鎧
乱暴に、ただ
斧が骨に食い込んでいるため、密着状態になっている。このままでは骨の攻撃に当たってしまう。
「せぇいっ!」
斧から手を離し、骨が密集していて攻撃が当てやすい肋骨辺りを蹴り飛ばす。半分ほど残っていたHPも残り3割程になり、戦闘が長引くのは好ましくないのでさっさと倒すために、木刀をアイテム欄から取り出して倒れている骨に振り下ろす。
骨のHPは0になり、光となって消えていく。肋骨に刺さっていた斧も、カランという高い音を鳴らして地面に落ちた。
「倒せなくはないけど…僕じゃ1発は無理かな」
僕のSTRは、僕が装備ボーナスを忘れてなければ1だ。STRが1で比較的簡単に倒せるのだから、普通にやっているプレイヤー…STRが10くらいまである人なら、単純計算で僕の10倍物理火力が高いので一撃で倒せるだろう。
つまり、この骨は雑魚敵っぽい。斧をもうちょっとクリティカルヒットさせれば7割くらいは削れそうだし、斧と木刀を持ってればそこまで困る事もないかな?
「…なんでインファイトしてるんだろ?」
僕のステータス魔法寄りだよね? ってこれ何回目だ。
もしかして、物理寄りのステータスの方が適正ある? レベルもまだ低いし、今からなら変えられるけど……。
…っていやいや、師匠から貰った本の中には読むのにINTの数値が条件になってるのもあったし、脳筋はやめておくべきだ。錬金術に支障が出る。
「師匠の支障…?」
支障ってそういう使い方じゃないような。
ステータスといえば、しばらくレベルは上がってもポイントを振ってなかった。骨が雑魚敵なら一撃で倒せるようにはしておきたいし、どうせ後々STRも必要になってくるだろうからSTRにも振ろう。VITとMNDは…どうしようかな。
ステータスポイントもそうだけど、スキルポイントは最初から1回も使ってないから余りまくっている。後で安全な場所で何かに振っておこう。
とりあえず、STRに1レベル分、30ポイントを振り分けておく。防御面は保留。
今までSTRに振ってなかったけど、大体の武器の装備条件に関わってきたり、結構重要なステータスだ。今回STRに30ポイント振り分けた事で、水中で装備条件が緩和される
「ふっ!」
骨と遭遇して戦闘になったが、最初の斧で攻撃する段階で倒せた。これなら街の探索も楽になりそうだ。
この特殊マップに入ってから経過した時間はなんとたったの5分程度。しかし4倍くらいの時間加速設定なので、20分は優に超えているだろう。
そしてその20分で進歩はあったのかというと、まあ無いね。
街の中心っぽい所にも行ったけど、特に何も無かった。噴水は無かったけど、同じような広場があるだけ。脱出の手掛かりにはならなそうだ。
「ん…?」
道の奥をゴーグルの『望遠』で覗いていると、後ろの方から物音が聞こえる。ガシャン、ガシャン…という、重い金属が同時に沢山ぶつかり合うような音、聞き覚えと心当たりがある物と言えば…鎧だ。
アズマが着ている鎧も、こんな音が鳴っていた気がする。
魔法陣をアイテム欄から取り出しつつ斧を構えていると、曲がり角から鎧が歩いて現れる。
肌も何もかもを一切露出しない、アズマと同じプレートアーマーだから中に誰かが入ってるかどうか分からない。バジトラからサスティクまでの道中で現れた鎧のように誰も入ってない、リビングアーマーと言われるやつかもしれないし、街を徘徊している骨が中に入ってるかもしれない。
少なくとも、友好的な雰囲気は出てない。鎧の全長と同じくらいの大きな剣を引きずりながらこちらへ向かってくる。
あの剣の攻撃を受けたら、ほぼ間違いなく死ぬ。死ぬ事自体に躊躇は無いけど、折角特殊マップに迷い込んだんだからもうちょっと楽しんでからにしたい。
リアダントクリスタルを魔法陣の描かれた紙で包んだ閃光玉と、それを遠隔起動させる為の魔法陣を彫った金属板を取り出し、閃光玉を鎧に投げつけ起動させる。もちろん僕は被害がないように腕で光を防いで。
最初に骨から逃げる時に煙玉を使ったらすぐに見失ってくれたので視界があるかもと思い閃光玉を使ったが、よく考えたら鎧と骨が同じとは限らないし、鎧って視界がかなり塞がってるから閃光玉と相性悪かったりするかも。
しかし、僕の心配は杞憂のようだ。鎧はこちらに向かってこようとしても視界が確保できないからバランスが取れないのか、フラフラなまま建物の壁にぶつかったりして、しばらくして動かなくなった。
チャンス。だが、生憎とこの小さな斧であの鎧にダメージを与えられると思うほど、僕のステータスも斧の性能も高くない。だから今回は魔術を使おう。
適当に取り出した魔法陣のうちの2つを起動する。魔法陣からそれぞれ火の槍と電撃が飛び出して、鎧に向かっていく。
電撃の方が弾速が速く、同時ヒットではなかったが両方とも当たった。火の槍が当たると、爆発じみた衝撃と共に炎を撒き散らしていった。
何か威力高くない?
「…あ、2倍の魔法陣か」
あの火の槍の魔法陣、試そうと思ってた強化の魔法陣を組み込んだ奴だ。道理で普通に描いた火の槍よりも何か速いし、パッと見の威力高いなって思ったわけだ。
「って、流石にこれじゃ倒せないよね…」
鎧は健在。HPバーは3割ほど削れているが、最低でも同じのを3回は繰り返さないと倒せないという事になる。
閃光玉の効果時間も切れたのか、鎧は再びこちらに向かって歩き出す。
手持ちの魔法陣を使って迎撃しているが、止まる気配はない。そのまま近付かれしまい、力任せに大きく振られた大剣をギリギリで避ける。攻撃の速さがSTR依存なのかAGI依存なのか、それの対処はAGIでいいのか、と色々考えてしまう。今の一瞬で対策をどうするべきか考えるくらいには速い攻撃だった。もう少し見えるのが遅かったら当たっていた程に。
煙玉で視界を遮りつつ距離を取り、煙が密集している所に毒煙玉を投げ込む。鎧とか骨に毒が効くのかはどうなんだろうか。煙玉も閃光玉も有効だから毒も効いてくれると良いんだけど。
煙が晴れる前に、鎧が居た場所と僕の間に落とし穴の魔法陣を置いておく。あの鎧は動きは鈍いし、落とし穴に入ったら出れないんじゃないか、という算段だ。
「こっちこっち!」
紫色の煙が晴れ、鎧が見えるようになる。ちゃんと毒は効くらしく、HPが半分くらいまで減っている。こちらを視認した鎧はまた歩いてきて、落とし穴の魔法陣を踏んで穴が発生し、落ちた。
あとは落とし穴の上から攻撃するだけだ。魔法陣をアイテム欄から取り出し、発動して当てていく。少しずつHPを削り、最後には鎧は光となって消えていった。
使った魔法陣は9個…。結構使ったなあ。
鎧みたいな硬い相手に有効な攻撃方法も準備しておかないと、後々困りそうだ。
街の探索を再開しようとすると、お腹に鋭い痛みと違和感を感じた。
わざわざ見ようとしなくても視界に入っている。剣が僕の体を貫いている。
「いっ…たい……!」
後ろを振り返ると、さっき倒したのと同じ鎧が僕の腹部を貫いている剣を握っている。
なんで、と思ったけど別個体か。そりゃ骨だっていっぱい居るんだから鎧が一体だけな訳ないよね。
視界が薄くなってくる。魔法陣で死んだ時は急だったから、こういう死に方は毒煙玉で自殺した時以来だ。
「リベンジしてやる…」
視界が完全に真っ暗になる。
それから数秒、足音や人が喋っている音を認識すると同時に目を開くと、クランハウスの前に立っていた。
リスポーン地点ここなのか。それかクランに所属しているとクランハウスの前がリスポーン地点になるのかも。
空を見ると、昼だ。さっきまで居た暗い夜ではなく、明るい空。時間も1分が1分だ。アホっぽいな。
「ただいまー」
課題が終わってないのに追加された気分だ。魔法陣は使っちゃったけど、訓練所は見に行こうかな。
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