第49話 湖底遺跡調査(2)
「まあいいか。これは簡単だ」
なんだかんだ説明してくれるらしい。
「まずこの国旗と紋章なんだが」
「国旗なのかそれ」
アズマがエニグマの説明に被せるように質問する。確かにそれは僕も気になる。赤と白の縞々の国旗は知らない。
「これはブレーメンの国旗と紋章だ」
「「へぇー」」
聞いた事ない国だ。
「そしてこの文字。逆説的になるがこれは恐らく問題文だな」
「音」しか読めないが、文字が掠れて消える前はしっかり問題文として機能していたということなんだろう。だが今は「音」しか読めないし棒1本しか残ってない文字から復元して予想するのも僕にはできない。
「終いにパネルの絵だ」
「動物が表示されてるあのパネル?」
エニグマが説明を始める前に触っていたパネルを指しながら聞いてみる。あれ以外にパネルがあったら驚愕物だが。
パネルに動物が表示されていたということは正解が動物の中のどれかになるのだが、ここまでのエニグマの説明をまとめても一切分からない。
「ああ。答えになる動物は全て存在するのは確認してある」
「答えは複数あるのか?」
「そうだ。分かるか?」
答えが複数? そしてブレーメンの国旗と紋章、動物……?
アズマと一緒に腕を組んで首を傾げるが、中々思いつかない。ブレーメンという国に生息する動物を全て答えろとか? でもそれだと文字の「音」に関係ないな。
「…ブレーメンの音楽隊って、知ってっか?」
「あー…。大量の子供を連れてどこかへ失踪した話だっけ?」
「いや違ぇよ。それは多分ハーメルンの笛吹き男だ」
言われてみればそんな名前だった気がする。なんかイメージ的に笛吹いてそうだったし多分それだろう。じゃあブレーメンの音楽隊って何だ?
童話とかあんまり詳しくないから知らない。ハーメルンの…じゃなくてブレーメンの音楽隊……。パネルに動物が表示されてるのを考えると動物に音楽を聞かせる話…? だとしたら観客になった動物を答えればいいのかな。
「ブレーメンの音楽隊はグリム童話の1つでな。ロバ、イヌ、ネコ、ニワトリの4匹の話だ。年老いたロバが仕事ができなくなり虐待されていて、逃げ出してブレーメンで音楽隊をやろうと……って、これはいいか」
納得。
童話というとファンタジーな内容が多いから、人間だけでなく動物が人間と同じことをしたり主人公になる話もあった筈。とは言うものの、最近の子供は童話とかより絵本を読むしそれは僕もそうだったので童話は知らない。ハーメルンの笛吹き男はエニグマが語ってたのを聞いたんだと思う。
エニグマはブレーメンの音楽隊のあらすじを話しながらパネルを操作し、話を無理やり区切った所で閉まっていた扉がゆっくりと開く。
「じゃあそのロバとイヌ、ネコ、ニワトリを選択すれば正解だったの?」
「そういうことだ」
大前提としてブレーメンの音楽隊を知っていて、更に国旗と紋章がブレーメンの物と分からないと解けないのでは? 説明されると簡単に思えるが実は難易度か高い。特にブレーメンというのが分からないと。
エニグマの説明を聞いている間に暗視効果が切れてしまったので暗視ポーションをもう1度飲む。アズマとエニグマにも渡したのだが、エニグマはそのポーションをインベントリにしまって飲まなかった。
代わりにスクリーンショット機能のカメラを取り出し、それを覗いて歩き出した。
「何してるのさ」
「このカメラ、補正で明るく見えるからな」
「戦闘になったらどうするの」
「あー……フラッシュ使うか」
そう言いつつも無理だと判断したのか、渡した暗視ポーションを飲んだ。
エニグマが正解を選択し開いた扉を進んでいく。これまで通ってきた水中の通路には骨や鎧が結構な数あったが、この通路は全然ない。時々鎧や剣を装備した骨があるが、エニグマとアズマが装備を回収しているため動き出してもそこまで強くはなさそうだ。
ただ、2人が何の容赦もなく装備を剥ぎ取っていくのでもしこの骨が動き出すギミックなんかがあるとしたら相当可哀想だ。
「お、宝箱ある」
先頭を歩いていたアズマが宝箱を発見したようで、エニグマとアズマの隙間を覗いてみると確かに木箱のような物が通路に置いてあるのが見える。
「下がれ」
宝箱を開けようとすると、エニグマが剣を取り出す。何故? と思いつつ言われた通りにエニグマの後ろへ下がると、エニグマが剣で木箱の前の方を斬りつけ破壊した。
「これもダンジョン攻略の技術なんだ。宝箱に擬態するモンスターがいるから、ちゃんと開けるよりも壊して開ける方が安全だからな」
アズマの説明を聞いてなるほど、と頷く。
確かに、宝箱に擬態するようなモンスターがいるのならわざわざ丁寧に開けて襲われるよりも、壊して開けた方がモンスターだった場合に先制攻撃ができるし、攻撃されたモンスターが擬態を続けることもないと思うので見破る事ができる。
壊れた木箱の中には、スキルオーブらしき水晶と片手で持てるようなサイズの斧が入っていた。
「なになに?」
「んー、『エナジーヒール』ってスキルのオーブだな」
ふむ、効果が分かりにくいがヒールと付いているのだから何かを回復するスキルなのだろう。エナジーというと…?
「オレは要らないなら貰う程度でいい」
「HPかMPの回復スキルか?」
何を回復させるのか分からない以上、誰が使うべきか判断に困ってしまう。
僕は自分優先でいいのだが、パーティーを組んでダンジョンを攻略しているエニグマはスキルの内容次第でエアリスさんやアクアさん、それに新しく増えたエックスという人に覚えさせたいというのもあるかもしれない。
「じゃあリンで。俺はもう1つ手に入ったら貰おう。あと効果教えてくれ」
「わかった」
エニグマから水晶を受け取り、力を込めて握るとオーブが砕け、僕の体へと入っていく。
《スキル:『エナジーヒール』を取得しました》
──
『エナジーヒール』
パッシブ:HPとMPの回復速度が10%上昇し、太陽光を浴びていると更に10%上昇する。
アクティブ:HP、またはMPを回復する。代償にMP、HPの消費または倦怠感もしくは苦痛を伴う。
──
おお、結構使えるのでは?
パッシブ効果では常にHPとMPが10%早く回復し、太陽光を浴びてる間は更に10%。つまり20%早くなる。
アクティブは使ってみないと分からないが、HPを回復する場合はMPを消費か倦怠感、苦痛のどれか。MPを回復する場合はHPを消費か倦怠感、苦痛のどれかという事だろう。代償は選べるのか、変換率や倦怠感、苦痛がどれ程の物なのかによって使い勝手は変わってくる。
耐えられる程度の物であれば魔法陣の生産効率が上がる。そうでなくても、今までよりもMPの回復を待つ時間が1.1倍早く終わる。
エナジーヒールの説明をそのまま全部口に出してエニグマに伝えると、渋そうな顔をした。まあ気持ちは分かる。そこまで使えるスキルなら確保したいんだろう。
「もう1個見つかるといいね」
「だな。で、この斧だが…」
エニグマが手に持って見せてきた斧。普通の斧は遠心力を利用するためか持ち手から刃まで長さがあるが、この斧はすぐ近くにある。
こっちから聞いてもないのにいつものように語り始めたエニグマの説明を聞くと、この斧はトマホークと呼ばれる種類の物らしい。
サイズが小さいというのもあり、装備条件は存在しない。エニグマもアズマも自分の武器の方が強いということでこのトマホークも貰った。STRが初期値な僕からすると、金属バットや短剣よりも攻撃力が格段に強いトマホークは有難い。
「総取りってやつか」
「なんかイメージ違うような…?」
総取りってなんか勝って全て取るみたいなイメージがある。しかし宝箱の中身を全て僕が貰ったので、本質的な意味は間違ってないと思う。
壊れた宝箱を見ながらそういえば、とある事を思い出す。
「エニグマと別れて行った通路にあった宝箱は何が入ってたの?」
水中通路で聞こうと思ったが後回しにした。さっきは限られた時間の中、しかも喋れない空間で聞くのは時間を消費してしまうから後回しにしたが、今は空気がある空間で呼吸もできるし喋れるので聞いておこう。
「ん? これだな」
そう言って取り出したのは僕も見覚えがある物、フラスコ2種とアルコールランプ、スタンド、金網のセット。つまり「原初のフラスコ」だった。
「最近お前が作ったポーションが出回って錬金術が再評価されてるんだ。が、生産キットがないから何も進んでねぇ。だからオークションでクソ高く売ろうと思ったが……要るか?」
オークションとかあるのか。というか悪徳だ。
貰おうか迷う。錬金術仲間が欲しいとは思っていたけど、僕の知り合いに「錬金術やりたぁい!」って人は居ない。エニグマがオークションで売った場合と僕が貰った場合、どちらも錬金術をやる人が増えるのは変わらないが、僕が貰えば僕が誰にあげるかを選べる。
…そもそも、1番最初の生産キットがオークションで高く売れるような状況がおかしいのだが。
「どうしようかなぁ…」
散々悩んだが、僕の知り合いに錬金術をやる人が居ないこと、新しく知り合う可能性もなくはないが薄いことを考慮すると、僕が錬金術をやりたいという人に出会うのがかなり先になるかもしれない。
そうなるとこの原初のフラスコはずっと僕が持っているということになり、今すぐ錬金術を始めたい見知らぬ誰かは生産キットを探し続けることになる。
それは可哀想というか申し訳ないというか…。
「エニグマが持ってていいよ」
結論、エニグマに任せよう。
宝箱を通り過ぎてまた進んでいくと、また別の部屋に辿り着いた。そこに今までの通路に転がっていたような、人が装備していた形跡がある地面に転がっている鎧とは明らかに違う鎧があった。
しっかりと立っていて、剣を顔の前で垂直に持っている。鎧はアズマが持っているような肌を露出しないプレートアーマーといわれる種類だが、アズマのとは違い、所々に彫刻がある。
「豪華な鎧だね」
「ああ」
相槌を打ったエニグマが、何事も無かったかのような顔で鎧を蹴り飛ばす。中に人が入ってない鎧は蹴られてバラバラになって地面に落ちた。
「えぇ…」
蹴った鎧を全て回収したエニグマは、そのまま部屋を調べ始める。
あの鎧、もしかして動き出すギミックとかあったのでは? と考えるが、もう遅い。何かの条件で動き出したとしても、鎧は既にエニグマのアイテム欄に入ってる。
なら鎧についてはもう考えなくて良いかと区切りを付け、僕も部屋を調べるのに参加する。
「また文字読めないし…」
壁に何か書いてあるのが見えるが、今回は絵やパネルもなく文字らしきものだけ。しかもどれも読めない。
「エニグマ先生、この場合はどうすれば?」
「あ?」
鎧が立っていた場所の地面を見ていたエニグマがこっちへ向かってくる。アズマも部屋をぐるっと1周してきて、最終的に3人集まった。
「まあ、多分こうだな」
エニグマは閉まっている扉へ向き直し、走り出して飛んだ。その勢いのまま扉を蹴る。所謂ドロップキックだ。足が扉に当たった瞬間、大きな音を立てながら扉が壊れエニグマが突き抜けていく。
「力技が過ぎるよ」
パラパラと扉の破片が飛び散り、砂埃が舞う。砂埃で見えなくなっている間も、ガンガンと扉を蹴っている音は大きく鳴り続ける。
アズマがモンスターは居るかどうかを大声で聞いたが、居ないという返事が来た。声から焦っている様子もないので数十秒待機し、砂埃が晴れるのを待つとエニグマが扉の残っている部分を蹴り、通れるスペースを広げているのが見えてくる。
「謎解きは?」
「結果オーライだ」
それで良いのかなぁ…? 強引に突破して難易度上がったりしない?
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