第36話 星占い研究者
朝です。
昨日はスパッツ云々の後、現実でご飯食べてお風呂入って寝た。体は動いてなくてもやっぱり頭が疲れるのか、それともVRゲーム内で寝たから変な影響が出たのかすごい眠くて、午後10時とかいう子供かってくらい早く寝た。
早く寝たから早く起き、現在は午前5時。現実は日は見えるが外はまだ少し夜に近い気温だ、多分。外出てないから正確には分かんないけど。
FFWにログインするといつもの雑貨屋ぐれ〜ぷの店主さんの部屋。ベッドの上で寝ていて、僕の上にブランが乗っかっているのを頑張って退かす。
「おはよう、うさ丸」
「キュイッ!」
沢山いるウサギ達の中からうさ丸を呼び、頭に乗せて店の方に行く。
昨日作った星水を材料にした、煌めくシロのポーションのこと、星水に味を付ければ売れるんじゃないかという考えをまだ店主さんに話していないので今から話したい。
歩きながらフレンドリストを開くとブランを除くフレンド全員がオンライン。やっぱり廃人しかいない。いつ寝ているんだろうか。
「店主さん」
「あ、リンちゃんおはよ〜」
「おはようございます」
いつものゆったりお姉さんである店主さんがカウンターで座っている。対面ではアリスさんがカウンターに体を預けてぐてーっとしている。
「……おはよう」
やたらテンションが低い。いつもなら既にアリスさんの体は空中にあり、そのまま僕へ向かってきてもおかしくはないのだが。
「おはようございます。寝起きですか?」
「そうじゃな……」
アリスさんの隣に立ち、カウンターの上に煌めくシロのポーションや星水を出し、店主さんとこれらのアイテムについて相談する。
煌めくシロのポーションはいつも通り買い取ってくれるようで、効果が高いのもあってかなり高額だった。1本で2500ソルで、前にポーションを売った時のレシートを見る限りでは回復量が65のポーションは950ソルなので2.5倍くらいで売れた。今後も金策として有用そうだが、ガチャガチャがある分、回復量が少ないのも継続して作る必要があるだろう。そう考えると煌めくシロのポーションは排出率がとても低いシークレット枠になるのかもしれない。
星水は店主さんにも1度飲んでもらい、食感を体験してもらった。料理人で店を持っている人が知り合いにいるらしく、その人と話してから決めたいとの事なので、色々試したりできるように20本くらい渡しておいた。店主さんからも人気が出そう、との言葉を貰ったので期待していいだろう。
エニグマとかアリスさんとか店主さんとか、なんだかんだ皆人脈凄いよね。
「アリスさん元気ないですね」
「低血圧なんじゃよ……朝は弱いんじゃ」
「この間は元気だったじゃないですか」
「あの時は寝てなかっただけじゃし…」
それはそれで心配なんだけど。体を壊したりしないように注意しておこう。
「リンは優しいんじゃな〜。ブランとは大違いじゃ」
「ブランも優しいですよ」
なんだかんだ女の子になった僕に色々教えてくれるしね。
「そういえばリンよ、お主とブランって姉妹なのか?」
「はい」
「どっちが姉なんじゃ? ブランは姉と言っておるがリンの方が小さいじゃろ。あと最初にブランと会った時に妹がどうとか言っておったが、また別にもう1人おるのか?」
ああ、やっぱり僕の方が小さいから姉と呼ばれてるのは違和感あるのか……。いや僕は姉じゃなくて兄なんだけどね?
それを言ってもアリスさんには分からないと思うので僕の方が姉だということ、身長はブランの方が大きいから僕のことを妹だと言ったかもしれないということ、ブランが末っ子だということを話す。
「そうか。その妹が我のことを呼び捨てにしてるんじゃからリンも呼び捨てで良いんじゃぞ」
「考えときます」
説明に時間がかかるとも思ったが、案外あっさり信じてくれた。
話が一段落ついたのでこれからどうするか、昨日やろうと思っていたけどできなかった事と、やりたい事を頭の中で纏めていると、アリスさんが僕が着ている軍服ワンピースのスカートを捲ってきた。
「やめてください!」
「今のは殴られてもおかしくはないんじゃがな…」
理解しているならやめてほしい。前までは別にいいやって思ってたんだろうけど最近ずっとスカートだからか恥ずかしいし。
「スパッツを履いているのは何よりじゃ。これでもっと短いスカートも…」
「嫌です」
それは断固拒否する。この軍服ワンピースでさえパンツが見えてしまうらしいのに、もっと短いスカートなんて履いてられない。スパッツでパンツは見えないけど、これだってパンツとそう変わらないし。
徐々に普段のテンションに戻りつつあるアリスさんと話し、区切りがついたところでやりたい事があると適当に言って店を出てきた。
星水の味に関しては店主さんに任せればいいので、僕は師匠に占星盤について報告しに行く。ついでに星の写真を使ったレシピが他にあるのかとかも聞けたらいいな。
「師匠ー」
師匠の家へやってきたが返事がないし師匠の姿が見えない。
「……師匠ー?」
「レト様は出掛けてるよ」
庭の方から声が聴こえたから振り向くと、師匠のペットのリコが地面に立っていた。リスだからすごい小さい。気づかなかったら踏んでしまいそうなくらい。
視線を合わせるためにリコに手のひらに乗せて持ち上げる。
「いつ帰ってくる?」
リコの話を聞くと、師匠は今街へ薬などを売りに行ってる。定期的に物を作って売ることでお金を得て食料などを買っているらしい。
もう夕方なのでそろそろ帰ってくるだろうとのこと。朝方なのにゲーム内はもうすぐ日が沈むので少し感覚が狂うね。
帰ってくるまでの間、暇なので星水を作っておく。星の写真が残り60枚くらいなので半分くらい残しておこう。
「……助手?」
「あ、師匠」
頭に乗せたうさ丸の上にリコを乗せながら錬金釜をぐるぐるかき混ぜていると師匠が帰ってきた。
「見てください師匠!」
「ふむ、これは?」
星の写真と星水を師匠に見せながら説明する。
そのまま流れで師匠が言っていた文献の事とかを聞こうとしたけど、師匠が話を聞いてくれなくなった。
「この絵を占星盤に挿入することで素材となるのか? 何故? そのままの絵では駄目なのか?」
「質問が多いです」
まあまあ、とジェスチャーをしながら落ち着かせる。
「すまない、1つずつ聞こう。まず、何故占星盤にこの絵を挿入すると素材になる?」
「それは知らないです。ただ星空の写真を入れると写真の星の光が強くなります」
「原理は不明か。次、助手はどうやってそれを発見した?」
「友人が当てずっぽうで言ったら当たりました」
「おかしいぞ……絵を入れるなんて今まで試行した者がいないとは思えん……」
これは多分、NPCがカメラを知らないからなんだろう。
ゲーム内の、FFWの世界の中でこれまで星空を描いた絵を挿入したことがあっても写真は存在しなかったんだからないと思われる。
なんだかこの世界が本物で、師匠達NPCもAIではなく本当に生きているかのように感じる。気にしたことはなかったが僕って感受性豊かなのだろうか。
「……よし、助手よ。恐らくその絵は私では描けない。よって助手を『星占い研究者』に任命する!」
「いえーい」
喜んではみたものの、僕だって星占いに関しては全然知らないし、師匠が何か知ってないか頼りに来たんだけど。
「師匠が前に言ってた過去の文献って、もう無いんですか?」
「む? あー……? どうだったか。ここに来る際に置いてきたかもしれないな……。探しておくよ」
ここに来る際というのを察するに、この逢魔の空間に来る前に、別のところに住んでいたんだろう。
その文献に星の写真を使ったレシピが書かれているか確証はないが、現状は頼れるのがそれくらいしかない。
師匠への報告と雑談を済ませ、黄昏の首飾りを使って店主さんの部屋に戻る。
毎回ここに戻ってくるけど、どういう設定なんだろうか。前に死んだ時は街の中心、噴水広場にリスポーンしたからリスポーン地点に戻るわけではなさそう。でもここ、店主さんからの部屋に居候してるだけだから僕のものではないんだよね。
となると、最後にログアウトした場所とかだろうか? そうだったら師匠の家でログアウトしてしまうと戻ってくるのが面倒そうだ。
「ん? リン、お主さっき出ていかなかったか?」
それなりの間師匠と話していたが、まだアリスさんは帰ってなかった。
「裏口があるからね〜」
「そういえばそうじゃったな」
僕が話すより先に店主さんが答えてくれた。裏口から入ったわけではないけど説明するのが面倒……難しそうだからそういうことにしておこう。
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