第37話 そうだ、バジトラに行こう(1)


 ブランからの逃亡計画その1。バジトラへ行こう。


 逃亡というのは冗談として、迷宮都市サスティクへ行くためにバジトラへ行きたい。

 理由としては、サスティクにあるダンジョンでは魔石を手に入れられるかもしれないというのと、サスティクの更に北にあるらしい雪の大地へ行きたい。雪好きだし。

 あと、エニグマやアズマ達がダンジョン攻略のためにサスティクで活動しているらしいので、そこに合わせられたらいいなとも思う。


 風ドームの魔法陣を作ったから毒煙玉の自傷対策は一応できてるけど、毒耐性ポーションが要らないかと聞かれるとそうでもない。だから魔石も欲しいし、雪山にいるらしいモンスターの体液も欲しい。何も使い道は毒耐性ポーションだけじゃないだろうし。



 バジトラに向かうにあたって、やるべき事は戦力の増強。魔術によって落とし穴とか、火属性の槍とか氷属性の針とか、それこそ風ドームで毒煙玉が使えるようになったりと、戦力自体は増えている。

 だが強くはないし、どちらかというと弱い。

 それを踏まえたうえで、これから具体的にやることはステータスの分配。レベルアップによって手に入るステータスポイント30と、スキルポイント5。

 今のレベルは7で、ステータスポイントはレベル3の時に師匠から貰った錬金教科書を読むためにINTに90振ってから使ってない。スキルポイントはレベル2の時に錬金術に振ったのが最後。

 つまり、ステータスポイントはレベル4から7の間に増えた120ポイント、スキルポイントはレベル3から7までに増えた25ポイント余っている。


 もちろん、ポイントを振っていないのは理由がある。



 ……完全に忘れてた。

 だってステータス振らなくても戦闘に支障なかったし…。



 理由は置いておいて、ステータスを何に割り振るべきか。

 今のままINTに全部突っ込んでもいいのだが、こういった所謂極振りというのは弊害がある。それは1つに特化しすぎるせいで、振ったステータス以外のステータスが弱点になること。

 例えばブランのように、INTにのみステータスポイントをつぎ込んだとしても、魔法防御力が高くて一撃で倒せない敵なんてポンポン出てくるだろう。それくらいの敵だと攻撃力も当然高いので、攻撃が掠りでもしたら1発で死ぬ。あと敵は大体強くなれば速くもなるのでAGIが初期値の1の場合、攻撃に対応できないかもしれない。


「回避も考えるとAGIにも振るべきか…」


 攻撃力を錬金術で作ったアイテムや魔術で代用するとしたら、必要になるのは防御面。しかし物理防御と魔法防御を上げないと全ての攻撃に対応できない。なら今まで同様、攻撃を全て回避すれば良いのではないか。

 ……回避できる前提の話にはなるけど。まあ詰んだら詰んだでエニグマやアズマを頼ろう。

 とりあえずINTとAGIに振る。120ポイントあるから、INTに30、AGIに90くらい振っておく。


 スキルポイントは……錬金術に振るべきか、別のスキルを取得した時のために取っておくべきか…。


「うーん、錬金術に25ポイントも使ったらほぼ確実に新しいアビリティ増えるよなぁ…」


 悩んだけど、まだ『星占い』を取得したばかりだし、新しいアビリティは見送ろう。かと言って他に振るスキルもないのでスキルポイントは保留にする。



──


プレイヤーネーム:リン

Lv 7

HP 120

MP 133

STR 1

VIT 1

INT 121

MND 1

AGI 91

スキル

「錬金術Lv16」「魔術」

称号

「動物に愛されし少女」

残りステータスポイント:0

残りスキルポイント:25


──



 HPやMPも多くなってきた。……が、なんかMPの数値がおかしい気がする。

 VITが2上がる毎にHPが1、INTが2上がる毎にMPが1増えるらしい。

 僕の今のINTが121だから、2で割って端数切り捨てで60、初期値が30でレベルアップで5ずつ増えるから、初期値とレベルアップ上昇分で60。133から120を引いて残る13は何処から……?


 ポクポクポク、チーン。


 木魚を叩くようなイメージが脳裏を過ぎった。

 そういえば、師匠から貰った黄昏の首飾りの装備ボーナスがINTに+26だった。2で割ればちょうど謎の13。ステータスに表示されないだけで、装備ボーナスの分もHPやMPに影響するらしい。

 というかHPはレベルアップ上昇分だけだと110なはずだが、軍服ワンピースを調べると装備ボーナスでVITが+20だから120になっているのか。


「なるほど、疑問解消」


 AGIが上がったからと言って、世界が遅く見えるだとかそういうのはない。

 試しに部屋の中で走ってみると、いつもと感覚は同じだけどいつもより速い気がする。


 ステータスに関してはこの辺にしておこう。

 次に攻撃手段。攻撃をアイテムや魔術で代用するとしても、攻撃可能なアイテムはほとんどない。魔術は魔法攻撃なので、物理攻撃の手段も確保しておいた方がいい。

 アイテムはまだレシピを知らないので作製できないとして、他にある物理攻撃手段は毒煙玉……毒煙玉って物理? ……違うか。物理攻撃手段は装備品の金属バットしかない。これでも今まで十分戦えてはいるのだが、なんとなく刃物が欲しい。


 実際のところ、手段がどうとかより刃物が欲しいというのが本音であり、それ以外は全部建前である。



 武器を手に入れるなら武具屋か鍛冶屋だろう、ということで寄り道しながら武具屋にやってきた。


 STRが1とかいう雑魚雑魚の雑魚の数値でも金属バットのように装備できる武器は幾つか存在する。

 エニグマやアズマが使っているようなロングソードとかバスターソードは流石に使えないが、短剣や短刀といった小さな剣は使える。

 あと、刀は力ではなく速さが必要になるからSTRが低くてもAGIが高ければ使えるらしい。初期の街であるルグレにはないし、鍛冶が盛んなバジトラで依頼してやっと手に入るので今の僕には入手できないが。


 刃物かつ僕が装備できる武器、その上で気に入ったものを探す。

 店の中を行ったり来たりと色々見て悩んだが、手頃な短剣を購入した。ずっと使うわけでもないし、バジトラへ行くんだからそこでまた製作依頼を出そう、という魂胆だ。


 短剣とは別に、店の中を回って気になったものがある。

 投擲武器、投げナイフとかチャクラムとか呼ばれるやつ。別にナイフやチャクラムである必要はないが……例えば石ころなんかでもいい。投げる物に魔法陣を描いた紙を巻き付けたりして投擲すれば強いのではないか。爆発魔術とか。

 という思考には至ったものの、現段階で爆発魔術は作れていない。いつか開発してみて、作れたならもう一度武具屋に…。


「……いや、石ころで良いか」


 よく考えたら石ころを投げればよかった。ナイフやチャクラムの投げ方なんて知らないし、どうせ爆発するならコストが低い石ころで十分だろう。

 作れたらの話だけども。


 武具屋から雑貨屋ぐれ〜ぷへ帰る道中。

 空を見ると日が登り始め、街道にNPCも増えてきた。時間を確認すると、現実時間で8時32分。寄り道で露店とかアリスさんの店とかに行った上に、武具屋でかなりの時間武器を物色していたのでもうゲーム内で朝になってしまった。


「おかえり〜」


「ただいまです」


 カウンターに座っている店主さんと話しながら部屋へ向かうと、部屋の方から物音が聴こえる。流石にブランも8時半を過ぎているから起きているようだ。


「おはようブラン」


「んー…」


 まだ寝起きらしい。

 寝惚けてるほど寝起きの状態でFFを起動している事に関しては、兄として心配だ。まあ僕もあんまり人の事言えないけど。


「ちょっといい?」


「なに……?」


「バジトラに行こうと思うんだけど、ブランも一緒に行かない?」


「行く…」


 来てくれるらしい。

 ブランは僕と同じでルークスまでしか行ってないらしく、ルークスの先のメイズや、ルークスの逆方向のバジトラに行く時はほぼ確実に戦闘が起きる。

 極振りが賢いとは言えないが、INTに極振りして様々な魔法を取得しているブランは単純に戦力が高い。それに、僕がゲーム内でブランと初めて会った時からブランはレベルも上がり魔法も増えているらしい。そこは期待していいだろう。


「ちょっとゆっくりしてから行こうか」


「うん…」


 椅子に座って眠そうにしているブランと向き合うように座って、原初のフラスコを取り出してポーションを作る。

 暇な時間にこうしてポーションを作っておいて、店主さんに売れば金策になる。取引機能を使って契約しているから違う街へ行っても納品できるし、専用の売却ボックスを設置してもらったので店主さんが店にいなくてもお金は貰える。


 ポーションを売り出してから結構時間が経ったからか、味についての意見もあったらしい。味は好みだけど回復ポーションという事もあって値段がネックであるとか、回復効果は良いけど味があまり好きじゃないからどうにかならないか、とか。

 正直、味については素材の味そのまま…というか、完成したポーションのまま加工してないので、そもそも味を変更できるかを知らないし、できたとしても何を材料にして加工すればいいかとかを一切知らない。店主さんと星水の話をした時に言ってた、料理人に頼めば可能かもしれないけど、そうだとしても「僕→料理人→店主さん」という流通ルートより「僕→店主さん→料理人」の方がいい気がする。

 料理人のところで売られるポーションの金額が高くなるけど、味が好みじゃないから変えろなんて意見の人はそんないないし、味が好きなら高くても買うと思うし。


 なんてボーッと考えつつ、適当にポーションを量産する。人によってお財布事情が異なるので回復量がバラバラの方が有難いとのことなので、割と適当だ。


「いつ行くのー…」


「ブランが良いなら僕はいつでも」


「私もいつでもー」


「じゃあ行こうか。ほら、立って」


 フラスコをしまい、作ったポーションのうちで自分やブランが使いそうな分を除いて納品する。


 向かうはルグレ北東門。新たな旅立ちが僕らを待っている! なんてね。

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