第35話 星の水とスパッツ
久々に妹に対して恐怖心を覚え、迷宮都市サスティクと呼ばれるところへ逃亡しようか悩みながら写真の現像が終わるまで待った。
約100枚の写真をインベントリに突っ込んでアリスさんにお礼を言い、雑貨屋ぐれ~ぷへ戻る。アリスさんとは店で別れると思ったけど着いてきているのでそうでもないらしい。暇なのかな。
「ここからなんだよね」
100枚もあるし、多少無駄にしても平気だろう。なくなったらまた撮りに行けばいいし。そんなわけで合成で何か作れないか試してみることにする。
占星盤に写真を入れ、「星の写真」というアイテム名に変化した写真と水を錬金釜に投げ込む。次に入れるのは……関連性とか全く思いつかないから水入り瓶でも入れておこう。容量はオーバーしてないから失敗しても爆発はしないだろうし。
水入り瓶を選択してアイテム欄を閉じると、錬金釜に変化が起きていた。
混ぜてもいないのに、錬金釜の中の水が黒く、煌めいている。まるで星空のように。
「星空…?」
原因は写真を入れたからだろう。だが、今まで錬金釜の中が星空のようになるのは混ぜる時だけだった。単純に写真を入れたエフェクトのようなものなのか、これだけで完成しているとでもいうのか…。
まあ、写真は大量にあるし、今回は水入り瓶を出してしまったので水入り瓶と合成させよう。
ヘラで混ぜていると、いつもと同じように光りだす。これ毎回防ぐの面倒だしどうにかしたい。サングラスとかで防げるかな? でもサングラスって作れるのかな。
光が収まり、錬金釜の上には液体の入った瓶が浮いている。
≪『合成』に成功しました≫
≪『星水』を作製しました≫
いつもの合成成功のログ。作製したアイテムの名前は『星水』。
――
『星水』
天の河を流れているとされている星の水。
薬の素材にすると効果が上がると言われいる。
――
なるほど。つまりポーションの材料になって、作るポーションの効果を上げることができると。
久々に失敗せずにできた気がする。こういうのって毎回毎回最初は失敗して、一生懸命考えてようやく成功の道筋が見えて、とやっていた。何も考えず憶測だけで成功したのはかなり久々…むしろ初めてまであるかもしれない。多分。
この星水はさっきの錬金釜の中と同じように黒い液体で、キラキラと光っている粒がある。まるで合成時の錬金釜の中身をそのまま取り出したかのような。
「師匠に聞きに行く必要なくなっちゃったな」
レシピを聞ければよかったけど、自分で見つけちゃったし…いや、星の写真を使ったレシピが1つとは限らないし、あとでちゃんと聞きに行こう。
他のレシピがあるかどうかは一旦置いておいて、今はこの星水について考えよう。ポーションの素材にすると効果が上がるというならその通りにしてみるべきだろう。
原初のフラスコを取り出し、星水と薬草、シロの実をフラスコに入れて加熱する。
真っ黒な星水は薬草やシロの実と混ざっていく途中で段々透明になっていき、薬草とシロの実から抽出された色になる。完全に混ざると、普段と同じ抹茶色のポーションになった。いつもと違う点は、少し振ってみると煌めいて見えること。
完成したポーションを調べてみると「煌めくシロのポーション」という名前で、回復量は驚きの125。これまで作ってきた中で一番回復量が多かったのは65だったので、あと5多ければダブルスコアだった。
結論。素材としてめっちゃ優秀。
しかもコストが安い。夜の間に星空を撮り、それを現像して水入り瓶と合成するだけ。問題があるとすれば、現像ができるプリンターを僕が持ってないということくらいだろうか。毎回アリスさんに借りに行かないといけないというのが少し面倒なくらい。
「…パチパチする」
星水を合成で10個作り、1本飲んでみた。パチパチした食感、炭酸飲料よりも刺激が強い感じ。味付けすれば飲料として売れば稼げそうな予感がする。店主さんに相談してみるか。
「私も飲んでみたい」
「いいよ。アリスさんも飲んでみます?」
「貰おう」
二人に星水を1本ずつ渡す。ブランはちびちびと少量ずつ、アリスさんは一気に飲んだ。刺激が強いから一気に飲み干したアリスさんは咽ている。
「レモンとかの爽やか系が合いそうじゃな」
「甘くてもいいと思う」
どっちも分かる。
というか星水自体がパチパチするなら、さっき作った煌めくシロのポーションもパチパチするのだろうか。元の味は確かヨーグルト味だったので、ヨーグルト味のパチパチになっているかもしれない。
レモンはどうかは知らないけど、リンゴはモリ森になっていたのを持っていたはずなので混ぜて味を付けてみるのもいいかも。
アイテム欄からリンゴを……無いな、リンゴ。
おかしい。リンゴは前に一回食べたことがあるし、それも取っといたはずだ。なのに無いのは何故なんだ。
「あれぇ?」
リンゴが無い。おかしいな。
……。
…。
そういえば、このゲームのリンゴってリンゴじゃなかった。
味も見た目も食感もリンゴなのに名前が「ラルーク」だった。
「ラルークってなに…?」
リンゴでよくない? タンポポも「タポポン」って名前になってたけど変える必要あるのかな。
閑話休題。星水をリンゴ味にするには合成するか果汁を混ぜるか。この場合は恐らく後者だろう。ただしリンゴの果汁を抽出するのは固いから難しいので今はできない。テーブルの上に星水とリンゴを置いておいて忘れないようにしよう。
味付けを後回しにするなら別のことをするべきか。
星水をポーションの材料にすると効果が上がるというのは、回復系のポーションだけでなく毒ポーションや力のポーションにも適用されているのか調べる、とか。
そうと決まれば早速試してみよう。フラスコに星水と毒草を入れて加熱。星水の色が消えていくのと入れ替わるように毒草の紫に染まっていく。
「おお、煌めく毒ポーション…」
ガラス瓶に入った紫色の煌めく液体。紫のキラキラが宝石のようで綺麗だ。
完成した煌めく毒ポーションを調べてみるが、回復ポーションのように正確な数値で表示されないので効果がどれほどのものかは分からない。だが毒草を1本しか入れていないのに『強い毒』と説明されているので、いつものように10本も入れて作ったら相当強いんじゃないだろうか。
そしてこの煌めく毒ポーションを使って毒煙玉を作ると、名前は毒煙玉のままだけど強い毒の毒煙玉ができた。
星水、単純な素材としての有用性も良いけどコストパフォーマンスがよくなる。普段は強い毒ポーションを作るのには毒草を10本も使うのに1本だけで済む。強い毒で範囲が広い毒煙玉を作るとしても、普段必要な毒草は100本のところを10本で済むということだ。
なんかセールスみたいになってるような。
それはそうと、必要な材料が10分の1になるというのはかなり凄い。手間が減るし手間が減るし手間が減る。つまり楽になる。強さを抑えられないというのが難点でもあるけど。
毒ポーションの強さが10倍になるなら回復ポーションの回復量も10倍になってもおかしくはないけど、シロのポーションの平均回復量が60なので10倍だと600になってしまうし、妥当なバランスなんだろう。
「今試したいのはこのくらいかな…」
星水以外の星の写真を使ったレシピがあるかどうかとか、星水にリンゴの味付けができるかとか色々気になることはあるけど、今できることはない。星水ができたのは偶然だし。リンゴの果汁ってどうやって取るんだ…?
「リンよ、これをやろう」
原初のフラスコを片付けていると、また唐突にアリスさんから黒くて丈が極端に短いズボンのようなものを手渡された。
「なんですかこれ。ハーフパンツ?」
「どう見てもスパッツじゃろ」
そんなこと言われても女の子の服装とか知らないし…。
ブランにこっそり聞くと、なんかパンツが見えないように上から履くものらしい。これを渡してくるということは僕は普段からパンツが丸見えということだろうか。
「ブランがな、リンは危なっかしいからスパッツを履かせた方がいいって言うんじゃよ。我はそうは思わんしリンは割と容易にパンチラするがそれが良いんじゃ。じゃがよく考えたらスパッツ履いてるリンというのも中々可愛くてそそるというか」
何を言っているんじゃ。
頭の上に疑問符を浮かべている僕を尻目にアリスさんは延々と喋っている。流石に長く喋りすぎたのか、ブランがアリスさんの口を塞いだ。
「アリスはもう黙ってて」
「むふふぁむふぁふぁふぁふぃふぁふぁ…にゃめるんにゃぶにゃん」
口を塞がれても喋るのをやめようとしないアリスさんのほっぺをブランが引っ張っている。
「とにかく、凛姉はそれ履いて」
「…はい」
なんとも言えない威圧感が…。
まあ、パンツが見えてブランに一々注意されたりエニグマやアズマにからかわれるのも嫌だし、ここは素直に従っておこう。
大きく動かなければスカートが捲れないからパンツも見えないと思って気にしてなかったけど、パンツって見えないように努力しないと見えてしまうようなものなのだろうか。戦闘なんかは激しく動くから仕方ないとしても、普段からパンツが見えるような行動はしてない…はずなんだけどなぁ。
「そんなにパンツ見えてる?」
「見えてる」
じゃあ今まで街中とか草原とか色んな場所でパンツを見せてきてたってこと? なんか恥ずかしくなってきた。しばらく店に引きこもろうかな…。
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