第29話 雑談


 ガスマスクを作る、または依頼するにあたって。

 僕が知る限りではプラスチックやゴムを扱う生産職はない。ついでに、自分で作ろうとしてもそれらの素材すら作り方を知らない。


 そこで登場、いつものエニグマ先生だ。


「で、何だって?」


「ガスマスクの作り方及びそれらの素材であるプラスチックやゴムの作製方法または入手先」


「多い多い。一気に聞きすぎだろ。

 あー、まずプラスチックからか。プラスチックは合成樹脂って言ってな、主に原油を蒸留して分離させたナフサってのから作られる。だがまあ原油、つまり石油があるか分からんしこれは難しいだろうな。

 そんで他にもプラスチックはある。バイオプラスチックっつー、デンプンや糖を多く含む物、例えばトウモロコシとかサトウキビ、米や木なんかから作られるのがな。

 …こんなもんだ。製法自体は俺でも知らん。数万個の物質を結合させて作るとかそんな感じだった気がするが詳しくは覚えてないな。

 次はゴムか。ちょっと待て……OK。

 ゴムにも色々種類や歴史があって…なんだその顔。分かったよ、そこら辺は省略する。

 種類は天然ゴムと呼ばれる物、それと合成ゴム。天然ゴムはゴムノキって名前の木の樹液に含まれる物質を主成分とする。成分の名前は忘れた。合成ゴムは…知らね」


「それだけ?」


「こんだけ覚えてるだけでも褒めて欲しいもんだが」


「えらいねぇ」


 どちらも難しそうだ。

 プラスチックの方はバイオプラスチックがどうのこうの。植物から作れるなら木材をどうにかすれば作れるかもしれないが、具体的に何をしたらいいのかはエニグマでも知らないのだから僕が知ってる訳ないし、ゲーム内で作れるかも分からない。

 ゴムもゴムで情報が少ないからどうにも言えない。望みがあるとすれば、天然ゴムの材料になるゴムノキの樹液だろうか。何処にあるのか、そもそも存在するかは不明だが。


「あとはガスマスクか…。あれは種類が大まかに2つある。

 1つは濾過式。吸い込んだ有害な空気を専用の缶で濾過して清浄な空気に変えるものだ。物質ごとに缶が異なるから全てに対応できるわけじゃないが、比較的軽いって利点があるな。

 もう1つは供給式。ダイバーが使うような感じで圧縮した空気をタンクに詰め、そこから空気を供給して呼吸する型だ。これはタンクが重いせいで敏捷性で濾過式に劣るが有害物質がなんであれ呼吸を続けられるぞ。

 あとは吸う時だけガスマスクの外の空気を通すようにできてる穴とか逆に吐いた空気だけ外に出す穴とかもあるんだが…構造は流石に覚えてないな」


 話を聞いた限りでは、濾過する缶を作るよりもタンクに空気を詰めた方が良さそうだ。できるかは別として。

 ガスマスク1つ作るだけでも莫大な労力が必要そうだ。

 そして知識が足りなさすぎる。生産スキルがメニューで選択してポンと完成するのではなく、1から作り上げる必要があるゲームというのは自由度は高くても難易度が跳ね上がるものだ。特に今のような場面では。


 知識という点で言えば、エニグマが生産職をやっていれば色んな物を作れるのではないだろうか。本人は全くその気がなさそうだけども…。


「道のりなっがぁ…」


 このゲーム始めてから壁に当たりすぎな気がする。僕の不注意とかもあるけどもうちょっと思い通りにならないかなぁ…?


「ガスマスクっつー事は毒ガスでも作ったのか? でも気を付けろよ、毒ガスは呼吸だけじゃなくて目の網膜とか肌からも影響するのもあるぞ」


 壁を高くするな。









****









「報われたい」


「そうかい」


 冷たいね。


 エニグマにガスマスクについて教えて貰ったあと、近況報告を兼ねて雑談をすることにした。アズマはどこかのダンジョンに居るらしく、来れないそうだ。


「頑張ってるんだから報われても良くない?」


「まあお前は頑張ってるよ」


 そう言って頭を撫でてくる。この体になってから子供扱いされる事が多い……いや、体は子供なんだけど精神は高校生だし、それを知ってるエニグマも子供扱いしてくるのは複雑だ。


「毒煙玉だと多分パーティーメンバーも死ぬしさぁ…」


「ああ、煙。ガスマスク欲しがってたのはそれか」


「毒の強さ見たいからエニグマとアズマ被験者になってくれない?」


「嫌だよ」


 このゲームのデスペナルティは所持金と経験値のロスト。所持金は預金とかで回避できるが、経験値は死にすぎればレベルが下がってしまう。

 そんなペナルティを背負ってまで被験者になってくれる人はそうそう居ないだろう。居たとしたら相当のマゾヒストか馬鹿か。


「だよね」


「でもお前が食った草の感じだとそんな強くないだろ」


「強いよ。呼吸困難と頭痛、胸痛、体に力が入らなくなるし体の中から壊される感じだった」


「なんで体験してんだよ」


 それは聞かないでほしい。


「つか毒ならポーションとかで良いんじゃねぇの?」


 ポーション? 毒を吸ったら体が動けなくなって回復できないというのに?


「毒耐性のポーションとかあるだろ」


「あるの!?」


「知らん」


 君は何を言っているんだ…。一瞬で跳ね上がった期待を返してほしい。

 ポーションといえば、ルークスにある薬屋に状態異常を打ち消すポーションが売られていた。あれは飽くまで状態異常を打ち消すだけだったが。

 …麻痺の状態異常って体動かないのにどうやって飲むんだろう。


「対毒ポーションの素材集めるかぁ…素材集めてばっかだなぁ」


「見つけたら教えてやるから元気出せよ」


 薬屋さんと師匠に対毒ポーションがあるかどうか聞いてみよう。

 あったとしてもガスマスクはファッションとして欲しいけどね。


「で、最近そっちはどうなのさ」


「どう…か。やってるのは次の街への移動とかダンジョンの攻略とかだな。ルークスの南とバジトラの北にまた街があるんだが、そこまでは行った」


 この街、ルグレから南西にあるルークスから南というと、ここから南南西くらいだろうか。

 …別に方角関係なかった。


「噂によるとサスティクから更に北方に行くと雪が降る大地があるらしい」


「興味あるね。ところでサスティクって何」


「バジトラの北の街。ルークス南はメイズ」


「へぇ」


 街の名前ってどうやって決められてるんだろ、規則性とかないのかな。

 ルグレから南西と北東、そこから更に南と北、その先にもまだ街がある。どこまで続くのだろうか。そしてファンタジーでありがちな王様が住む都市はあるのか。


「そのメイズとサスティクの特徴は?」


「サスティクは都市の名前が『迷宮都市サスティク』と言われる。都市の地下に超大型の迷宮ダンジョンがあって、宝があったりモンスターがいたり。冒険者ギルドが出入りの管理をしてるがプレイヤーは問題ないな」


 面白そうだなぁ。バジトラにすら行けてないけど迷宮ダンジョンは実に楽しそうだ。風が吹かなそうだから毒煙玉の効果も高そう。


「メイズは『開拓都市メイズ』だな。あそこは都市自体は普通なんだが周りの環境がちょっとな。都市の西には火山地帯があるし、逆の東は一面ずっと森が続いてる」


「なんか素材あった?」


「行ってねぇ」


 あ、はい。

 エニグマは暑いのが苦手だから火山に嫌気が差して行ってない、とかだろうか。暑さを軽減するアイテムとかあれば良いんだけどね。


「ずっと続いてる森を抜けると海があるらしい。掲示板に書いてあった情報だから確証はねぇけど」


「掲示板ねぇ…」


「見てるか?」


「錬金術に関してあるなら見るかも」


「ないな」


「じゃあいいや」


 最前線の情報とか要らないしわざわざ掲示板を見なくてもエニグマかアズマに聞けば大体分かる。


「火山と森かぁ…」


 錬金術に使えそうな素材がいっぱいありそうだ。こっちも行けるなら行きたいところだ。ルークスには行けるからそこからメイズまでの馬車で戦うモンスターに勝てれば行ける。そのレベルがどのくらいかは知らないけどね。


 火山には鉱石とかありそうだし、マグマとかも回収できたら面白そうだ。…まあこれもできるできないは別としてね。

 森も森で、さっき話に出ていた、ゴムの材料になるゴムノキがあるかもしれない。それ以前にモリ森やルークスの近くの森にもある可能性も無きにしも非ず。


「戦えるようになったらレベル上げてサスティクとメイズに行こう」


「今からでも行けるぞ」


「いやー…今はいいかな」


 レベル低いし、まだこのルグレですら楽しめてないのに別の街へ活動拠点を移したりするのは勿体ない。あとレベルも低いしレベルも低い。つまりレベルが足りない。


「はいよ」


「必要になったら頼むかも。…そういえば、エアリスさん達とはまだパーティー組んでるの?」


「ああ。ヒーラーが居なくても案外なんとかなってるしな」


 エニグマはともかく、アズマが助けた人と仲良くなるのは珍しい。これもMMO…というよりゲームだからだろうか。


「ヒーラーもスカウトしたらもっと楽なんじゃない?」


「いい感じの人材がなぁ。知り合いには居ねぇしゲーム始めたばっかの奴は大手のクランとかに入るし」


「ソロでやってる人は?」


「ヒーラーやるやつはソロでやってないんだよな」


 スキルは確か魔法系だった気がする。魔法使ってる人、例えばエニグマのパーティーだとアクアさんかな? INTが高めなら回復も効果高いだろうし魔法使いに回復覚えさせればいいんじゃないのかな。

 ……いや、魔法火力と回復要員は別カウントなのか。


「まあ運良くヒーラーの人が入ったりしてくれるといいね」


「そうだな」


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