第28話 念願の(2)


──


『毒煙玉+10』

ケムリの実と火魔術を用いて発生する煙幕に毒を付与した玉。

一定の衝撃で起爆する。

発生する煙を吸うと『毒』の状態異常を発現する。

通常の毒煙玉よりも範囲が広く継続時間が長い。


──


 毒ポーション10個と煙玉を合成して完成した毒煙玉は範囲と時間が強化されるようだ。

 +6毒ポーションは毒自体の強化、数を入れると範囲と時間の強化ならば、強い毒ポーションを大量に入れれば強くて範囲が広く長く継続する毒煙玉が完成するはず。



 『調薬』で毒草を煮込みながら、『合成』でも水入り瓶と大量の毒草を入れて毒ポーションを作る。

 手間で言えば合成した方が楽なんだけど、毒草を大量に入れるからコスト高くて水の消費が辛い。MP回復速度が上がるスキルとかMPが増えるスキルがあれば取得も視野に入れておこう。


「よいしょ、よいしょ…」


 錬金釜の中に入っている物が多いからかいつもよりヘラが重い。

 中々疲れるが頑張って10個作製。これを煙玉と合成する。



 混ぜ混ぜして完成した毒煙玉は予想通り強い毒と、広い範囲、長い継続時間を持ち合わせていた。


「うーん天っ才!」


 思わず自賛してしまった。

 だが、これで戦闘に参加できる。錬金術師なりの戦いができるのだ!



 ……とは言いつつも、問題点はある。


 アイテムである以上使い捨てなこと。この手間の毒ポーションを10個作ってやっと毒煙玉1個なのでこの品質の量産は現時点では難しい。

 飽くまで状態異常であること。直接ダメージではないし、継続して蝕む状態異常だから回復される事もある。更に状態異常に耐性を付けるスキルなんかを所持されていたら効き目は薄くなる。


「麻痺も付けたいなぁ…」


 やはり、麻痺も付ければ吸った時点で逃げられなくなるし、動けないのであれば回復もオートリジェネ以外は不可だ。何としても付けたい。

 サービス開始からそれなりに時間が経ってるし、もうそろそろ麻痺草とかそんな感じの物が発見され、売られていてもおかしくはない。


 久しく行っていなかった雑貨屋ぐれ〜ぷの素材コーナー。

 相変わらず価格が崩壊しているガラス瓶と水入り瓶。他には薬草や毒草、シロの実なども大量に在庫があり、レアなヨルメタケなんかもそれなりに数がある。

 数種類あった新しい素材も含めて買うが、麻痺の状態異常を発現しそうな素材はなかった。


 現状ではどうしようもなさそうだ。強化は後回しにして、毒煙玉の試用にモリ森へ行くついでに露店も少し覗いていこうかな。

 モリ森では狼に試すつもりだが、失敗したり倒せなかったら普通に死んでしまうのでうさ丸は留守番だ。うさ丸が死んでしまったら復活するか不明な以上、危険に付け合わせる訳にはいかない。




 現在、ゲーム内は昼。快晴といえる程ではないけど曇ってもない、曇り寄りの晴れといった天気である。

 露店を覗いては目新しい素材がないのを確認し、次の露店へ…と繰り返しているうちに南西門まで来てしまった。


「まあ、分かってたし…」


 南西門から街を出て、草原を通ってモリ森へ向かう。昼だからというのもあり、プレイヤーが多くモンスターは倒されていて少ないので戦闘がなくて助かる。

 モリ森にもプレイヤーはいるが、草原に比べるとそう多くはない。それも深く行けば行くほど、見かけるプレイヤーは少なくなる。


「お、いたいた」


 木々の奥に狼を見つけた。珍しくこちらが先に発見して、狼には気付かれていない。

 狼の数は3匹。群れと言えるほど多くはないが真正面から戦えば貧弱な僕では苦戦、もしくは死ぬような数だ。

 だが、真正面から戦わない。むしろ数が多く、それを倒せたならばその実績は大きい。すぐに実戦投入してレベル上げを進める段階まで行ける。


「さあ、苦しむがいい…」


 3匹が集まったところで最も弱い、毒ポーションと煙玉の比率が1:1の毒煙玉を山なりに投げる。

 空中へ放られた毒煙玉は、3匹の狼の真ん中へ着弾すると同時に紫の煙を巻き上げた。煙は一気に広がり10mほど離れている僕にも届きそうだ。


 狼達は驚いたような声を上げる。少しすると苦しそうな鳴き声と共に、1匹だけ煙の中から飛び出してきた。

 他2匹の苦しんでいる鳴き声は未だに煙の中、狼がいたはずの場所から聴こえてくる。


 なんとか出てきた勘のいい1匹も少なからず毒を吸っているからか、伏せて苦しそうにしていて動かない。

 金属バットを手に狼に近付くと、フラフラなまま辛うじて立ち上がったがその程度なら余裕で倒せる。バットを狼の脳天に振り下ろすと、グシァッという音と共に光の粒となって消えていく。


 残り2匹の呻きも、時間が経つにつれて弱々しくなっていきやがて聴こえなくなった。


「強いね。流石」


 最も毒性も継続時間も範囲も少ない毒煙玉でこれだ。


 範囲を増やした毒煙玉は今の10倍の数の毒ポーションを使っている。そのまま範囲が10倍とまではいかなくても、少なくとも倍以上はあるだろう。

 毒性が強いポーションを使った毒煙玉は、今のよりも強い毒を持つ。毒で苦しんで動けなかったのか、鳴き声はずっと同じ場所から聴こえていた。毒が強くなれば苦しみも強くなり、更に強いモンスターも動けなくなるのではないか。

 そしてその2つの要素を合わせた毒煙玉。毒も強く、範囲も広い。コストパフォーマンスは悪いがそれでも余りある強さになりそうだ。


「グルルルル……」


 唸り声に振り返ってみれば、煙に反応して来たのか、5匹の狼と対峙していた。いや、左右に展開しているのも含めると8匹。先程の約3倍の狼に囲まれている。


「実験体がこんなにも……」


 次は毒ポーションと煙玉の比率が10:1の、範囲が広い毒煙玉を使う。

 地面に叩きつけた毒煙玉は先程と同じように紫色の煙を大量に吹き上げ、狼達を僕ごと包んでいく。


「耐えれるなら耐えてみるが……ごほっ!」


 体中に力が入らなくて地面に倒れ込んでしまう。



 苦しい。息ができない。



 頭が痛い。胸が痛い。



 まるで吸い込んだ空気が僕を蝕むように……。


 まさか、これ……







****






「はぁー……」


 ルグレの中心、噴水広場で深い溜め息をつく。


 リスポーンした。つまり死んでしまったのだ。

 所持金が幾らか減っている。経験値のロストも存在しているようだが前の経験値を覚えてないので狼を倒した収支がマイナスかは不明。少なくともレベルは下がってない。


 死んだ原因は狼ではない。間違いなく、僕自身が撒いた毒煙玉。ゲームで1番最初の死因が自殺とか不名誉すぎる。

 自分が使ったアイテムなのだから自分には効かない、なんて考えていたのは甘かった。

 毒ガスを使おうが使用者もガスマスクなどの防護装備をしてなければ有害なのだ。生物に備わっている毒じゃないので、自分も対策をしないと死んでしまう。


「はぁぁぁぁー……」


 もう一度、深い溜め息。


 今考えるべき事、それは毒煙玉の扱いについて。


 自分ですら死ぬくらいなんだからパーティーを組んでいたとしても無効になるはずがない。誰かとやるのであれば、これを敵に投げつけて使ってしまうとその敵の付近で戦えなくなる。

 ならばどうすればいいか。答えは明白で、使わないか、パーティーを組まない。またはその両方のパーティーを組んでる時は使わない。


 だが唯一の戦力と言っても過言ではない毒煙玉を僕から取り上げてしまったら貧弱な本体しか残らない。

 相手側からすれば戦力がないのであればパーティーを組む必要がなくなるので、結局組まない方針でしばらく活動するしかない。


「本格的に魔術を戦闘に組み込むべきか…」


 戦闘には使ってないので使えるかは微妙だが、もう毒煙玉以外で僕に戦力があるとすればそれだ。

 だが魔術は魔法と違い、重要なのは知識。属性や要素の表現方法、魔法陣の組み方などを更に勉強しなければ戦闘には使えないだろう。


 魔術にはMP先込めという技術があり、暇な時にMPを使って魔法陣を描いておけば魔法をストックできる。魔法陣を先に描いておいてストックできるというのは逆を言えば想定して準備しておかないと対応できず、予想外のものには弱いのだが、そのような事態である場合魔術じゃなくても対応できないだろうからそこまで関係ない。

 幸いにも時間はある。戦闘中に敵の攻撃を避けながら描くのではなく、安全な場所でゆっくり描けるのだ。


 ならば、師匠から貰った魔術教科書にあった事よりも更に多くの情報を集める必要がある。師匠に聞くのもそうだし、図書館なんかがあれば本を読むのも良い。

 魔術も進める方針でいこう。



 …しかしそれにしても、毒煙玉の強さは身をもって証明できた。

 範囲が広い物を使ったが、あれは強さは通常の物と同じだ。僕のHPが少ないのもあり、数秒で死んでしまった。まだあれより毒が強い物が控えていると考えると頼もしくも恐ろしい。


 毒の力は毒草と比にならなかった。毒草はポーションを使って回復して生き長らえたが、毒煙玉は回復しようにも力が抜けて体が動かず苦しさを感じている間に死んだ。この分であれば麻痺は不要かもしれない。


 1人の時だけ使うにしても自分がしんでしまうなら意味がない。が、対処法は一応ある。毒を吸わないようにガスマスクを作ればいい。白衣にガスマスクはマッドサイエンティスト感が増すので、是非とも付けてみたい。



 ……。



 ガスマスクって、どうやって作るんだろうか。


 いや、僕は作らないにしても、誰を頼ればいいんだろうか。


 ガスマスクってプラスチックとゴム…だったかな?

 金属部分があるとしても鍛冶師って感じではないし……。かといってアリスさんみたいな裁縫師も違う。木工も、ガラス細工でもない。

 プラスチックって、そもそもこのゲームに存在してるのだろうか。


 …うーん、分からぬい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る