第23話 軍服ワンピース
師匠から貰ったネックレスの白い宝石に指で触れ、戻りたいと念じると足元に魔法陣が出現し、視界が白く染まっていった。
視界が戻り、周りを見渡すと雑貨屋ぐれ〜ぷの店主さんの部屋だった。足元の魔法陣は少しすると薄れていって消えた。
帰ってきたタイミングで大量のシステムメッセージが届いた。
1つずつ内容を確認すると、木工職人の雷電さんに頼んでたヘラの納品や、エニグマやアズマ、アリスさんや店主さんからのフレンドメッセージ。
エニグマとアズマからはルグレの北東にある街のバジトラへ向かうから一緒に来ないかというものだった。
師匠の家へ繋がる裏路地ではフレンドメッセージの送受信ができず、届いていなかったので今気付いたが、時間を見るとちょうど裏路地を歩いていた時に送られてきている。
返事がないから何かしてる途中だと思ったのか、あの2人はアクアさんとエアリスさんと共にバジトラへ向かったらしい。
僕が行く時はまた一緒に来てくれるんだと。優しいね。
アリスさんからは服ができたから渡したいので暇な時に教えてくれ、というもの。やりたい事はあるけど急ぎの用事はないので今は暇で雑貨屋ぐれ〜ぷに居る、というメッセージを送っておく。
店主さんからは全然帰ってこないので心配してメッセージを送ってきてくれたらしい。心配までしてくれるとは、どこまで優しいんだ…。
「さて、と」
システムメッセージを確認し終えて一息。
アリスさんが今から来るらしいので、それまでやりたい事をやろう。
まず師匠から貰った指南書と教科書。
教科書を読むのには115のINTが必要なので今のうちに振れる分は振っておこうとステータスを開くと、あることに気付いた。
指南書と教科書の二つと同じく師匠からもらったネックレス、これを装備した時、INTに補正がかかりINTが+26される。
余りのステータスポイントは90で、初期からある1、装備ボーナスの26を合わせれば117。つまり教科書を読めるステータスに達するのだ。
INT極振りみたいなステータスになるけど、必要になれば他のステータスにも振ればいいだろう。幸い、僕のレベルはまだ低く上がりやすいのでレベリングを頑張ればどうにでもなる。
ステータスをINTに全て振り、教科書を開く。
《『レトの錬金教科書』》
アイテム名を復唱するシステムメッセージ。
教科書を開くと勝手にページが捲られ、あるページで止まった。
止まったページには大きな四角の中にブロック状に線が描かれたものと、形が違うブロックが何個か映し出されている。
《『Stage1 ブロックを全て使い、スペースを埋めよ』》
新しく出てきたメッセージには、やるべき事が書かれている。
あれやこれやとブロックを置いて戻してまた置いて……とやっていると、ようやく正解に辿り着いた。
それなりに時間を使ってしまったが、時間制限なんかはないようで失敗したり爆発したりはなかった。
《『Stage2 一筆で全ての点を繋げよ』》
教科書はまたもや勝手にページが捲られる。
次に出てきたページには、網目状のように四角形に描かれた太い線と、その線上に存在する点。
スタート地点から線を引いて、一筆で全ての点を繋いでゴールすればクリア。しかし1度通った道は2回目は使えなく、線にぶつかってそれ以上進めないっぽい。
こういったパズルの解き方なんて知らないし、だからといって頭を使って全力で考えて解く気にはならなかった。
ダラダラと試行錯誤を繰り返し、なんとか全ての点を通ってゴールに着く。
《『Stage3 合成を完了させよ』》
やっと錬金術らしいものが出てきた。
新しく開かれたページには鍋の中に草、実、粉、水晶の絵が入っていた。その鍋の横には水や別の草などの素材が描かれている。
どれも見たことがない素材なのでどうすれば良いのか、そもそも何を作ればいいのかが分からない。
「とりあえず草と実だし水で合成させておこう」
鍋の中から水晶の絵を出し、代わりに水が入ってる瓶の絵を入れると合わさって赤色の液体が入った瓶に変化した。
問題はここから。水晶とこの赤色の液体を合成するにはどうしたらいいのか。
師匠から教わった事を思い返す。
共通点を持たない物同士の合成は、その2つに共通点を持つ物を加える事で成功する。
この場合は、水晶と赤い液体の共通点を持つ物を探せばいい。
液体はいいとしても、水晶の特徴が中々思いつかない。
素材側から考えるとしても、水晶と液体が共通する素材というのは無いように思える。
「ん……これは…」
数ある素材の中でたまたま目に止まった、瓶の中に入った銀色の液体。
長押しして詳細を調べると、水銀と書かれている。水晶を鉱物と捉えるならば、銀という点が共通し、赤い液体とは液状で共通する。先程師匠が言っていた、相性のいい素材というのに合致する。
水銀を鍋の中に入れる。すると3つの素材が合わさり、表面が銀で彩られ、その中で薄く赤に光っている水晶が完成した。
《『レトの錬金教科書』を読破しました》
《アビリティ:『計測』を取得しました》
合成が完了し、水晶が完成したと同時にページが捲られていき、裏表紙まで行って閉じてしまった。
それと一緒に流れたシステムメッセージには、新たなアビリティの名前が出ている。
「ふぅ…」
師匠から貰った教科書を読破してまた一息。
集中して解いたというよりも、時間をかけ過ぎた事による疲れを抜くために座っていた椅子から立ち上がってグイーっと伸びをする。
「んーーっ」
「艶かしい声じゃなあ」
声に反応して振り向くとカメラを片手に持ったアリスさんが座っていた。
「いつからそこに?」
「リンが本を読んでる時からじゃ」
それって一体いつなんだ……。
時間を見ていなかったのでどれくらい経ったかは分からないが、体感ではかなり時間が経っている。来たなら来たと言ってくれれば良かったのに。
「ほれ、作ってきたぞ」
頼んだり作ると言ってから完成するまでが早い。服って数時間で完成するものなのだろうか。
手渡された服を見ると、セーラー服と同じ白ベースで、前面にはメダルボタンで留められている箇所が複数。上下の概念はなく、スカートまでセットになっていて、腰にはベルト、首には緋色のネクタイが巻かれている。
制服のような服装、いわゆる……軍服ワンピースという物だろうか。
装備欄から装備を変更して着る。裾が膝下まであるのでセーラー服より安心感がある……ような。
「よいぞよいぞ!」
撮った写真を見せてもらい、自分の姿を客観的に確認する。
銀髪の少女が堅い服装をしているが、似合わないという事はなく、可愛らしくも凛々しい姿をしている。表情や背景次第で可愛い写真も凛々しい写真も撮れそうだ。
「次はこれをじゃな」
まだあるんだ。
次に手渡された物は、大きな上着。内側の布地が赤、外側は黒で、左右の襟が金色の細い綱のようなもので留められている。袖部分にはフラスコから煙が出ている絵の刺繍がある。
「かっこよ…」
「じゃろぉー?」
渡された上着を装備すると着るのではなく、羽織るように出現した。
アリスさんが説明を始めたので聞くと、このゲームの服は装備から変更できるけど、直接着ることでも変更できるらしい。直接着た方が自由度が高く、この上着も羽織ったり着たりが可能だそうだ。
あと下着は脱げないけど変更可能らしい。だから最初にセーラー服を着た時に下着姿がどうとか言ってたのか。
「着ても羽織ってもかっこいいなぁ…」
ポーズを取ったりして写真を撮ってもらい、それを見せてもらうとやはり可愛くもかっこいい。
そう思うと男性は可愛さに振れないのに女性は可愛さにもかっこよさにも振れるからずるいなー、なんて。
まあそれはさておき、このかっこよさであれば普段からこの軍服ワンピースを着ていても良さそうだ。
今のところマッドサイエンティストらしい要素もないし、白衣は毒煙玉が実用化するまで取っておいて……いや、気分で変えればいいのか。別に1つに拘る必要もないし。
「これ貰っていいんですか?」
「今後も我の作った服を着て写真を撮らせてくれるならよいぞ」
アリスさんが作った服を着るというのは朝に了承したし、写真に関しては既に許可している。
「ありがとうございます」
僕にそこまでしてくれる理由が分からないが、くれると言うなら貰っておこう。でもかっこいい服を思い付いた時は依頼料をちょっと多めにしよう。
かっこいい服を着てテンションが上がってきたので、折角だしということでアリスさんと一緒に写真を撮りに行く。
被写体は僕。僕はかっこいいのだけ撮りたかったが、アリスさんが可愛いのも、と言うのでそのつもりで覚悟しておこう。
ゲーム内は夜中で、月も出ている。満月っぽくまんまるの月だ。
「草原で月を背景に撮りたいですね」
月を背景に、というのは厨二心がくすぐられるものだ。月だけでなく、星も出ているのであればなお良し。
ルグレを出てすぐそこの草原で、うさ丸をアリスさんに預けてから月に背を向け、少し下からのアングルで撮ってもらう。
横顔とか、斜めの顔を無表情とか少しだけ口角を上げて微笑んだりとか、目つきを鋭くしたりだとか色んな表情で撮ったが、どれもかなり良い出来だ。
やはり可愛くて凛々しいな僕……と言いかけたがナルシストっぽいのでやめた。
「こんなもんじゃろう。次は可愛いのを撮るぞ! 雑貨屋ぐれ〜ぷに戻るのじゃ!」
先に可愛いのを撮る選択肢もあったのだが、心の準備が必要だったから、月や夜空を背景にするなら夜のうちしか撮れないのでそれを言い訳に時間を確保した。
撮ってるうちに自信も付いたので大丈夫!
「照れてる顔も可愛いぞ!」
やっぱり恥ずかしかった。
手をハートにして全力の笑顔を、とか手を後ろに組んでカメラから視線を逸らしつつ恥ずかしそうな表情を、という指示をされてポーズを取るが、指示が的確すぎる。
撮ってる時にかっこいいと言われたら嬉しいけど、可愛いって言われるのは恥ずかしい。女の子なら可愛いと言われたら嬉しいものなのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます