第21話 ウサギと昼寝
「ぼやぁ〜」
ルグレを出てすぐの草原で何をするでもなく寝転がっている。
暖かい日差しの下で昼寝、というのは中々心地良い。うさ丸がお腹の上で丸まっていて、その体温が伝わってくる。
時々野良のウサギが寄ってくるがこちらが全く動こうとしないからか無視してどこかに行くか集まって一緒に寝るかになっている。おかげで今はウサギに囲まれモフモフパラダイス。
何故こんなまったりしてるかというと、エニグマ達はレベル上げへ向かい、依頼した大きなヘラもまだ納品されずにいるからだ。
エニグマからケムリの実を貰ったが、どうせなら煙玉はヘラができてから作りたい。話している中でそれとなくケムリの実を譲ってくれないかと聞いた結果、見つけたら取ってきてくれるとのことなのでそれにも期待はしている。
自分ではルークスの近くの森に行ったらレベル低くて死ぬ気しかしないので譲ってくれるだけでもありがたいのだが、積極的に取ってきてくれるという。適当に作った物と交換してくれるらしいのでお財布にも優しい。
「モフモフ〜」
ウサギ達は撫でると最初はビクッと震えるがすぐに落ち着いて撫でられるのを受け入れる。これもモリ森でクマさんと触れ合った後に入手した『動物に愛されし少女』という称号の効果なんだろう、きっと。
この草原でレベル上げをしている始めたてのプレイヤーなんかもいるが、ウサギが集まっているので寄って来ても僕の事を見て避けてくれてる。
協調性……ではないか。やべーやつだから近寄らないでおこう、みたいな感じなんだろう。
それよりも心配すべき事は、ウサギ達についてだ。うさ丸がそうだったようにこのウサギ達も僕に懐いてしまうんじゃないだろうか。うさ丸だけなら頭に乗せて移動できたし、食べ物も持っている薬草を少しあげればそれで済んでいたがこの大量のウサギは飼えない。薬草は沢山生えてたり売ってたりするから餌は平気だが、場所がない。
「いや……?」
猫カフェがあるならウサギカフェがあっても良いんじゃないか。
否定に持っていこうとした議題は僕の手から零れ落ちてあらぬ方向へと向かっていった。
ウサギカフェを作るとするなら、まず必要なのは店だ。
「詰んでるじゃん」
店を買えるお金はない。稼ぐにしても今からでは遅い。
逃げ出した議題が階段で転んで死ぬような感覚だ。殺そうとしたのが逃げても結局死んでしまった。
……いや、その表現はおかしいか。
短絡的な性格なりにも深く考えようとする無駄な癖がついてしまっているので、いつまでも「もし」の話を考えてしまう。ゲームでくらい問題に直面した時はその時で考えるように心掛けよう。
なんて考えても癖だから直すのは難しいんだよね。となると癖より先に性格を矯正する方が早い気がする。飽き性ですぐに結論を出したがるのは……無理かな。どうにもならないや。
「大丈夫ですか!? 今助けます!」
草原に響く焦燥感が表に出た声。
誰かが死にかけてるのかなーと上半身を起こして周りを見るが特にそういう人は居ない。どういう事なのか気になって声がした方を向くと、1人の少年がこっちへ走って来ていた。
……僕か?
少年の手に握られた剣を視認して咄嗟に立ち上がり、金属バットを取り出して構える。
急に立ち上がったことで寝ていたウサギが飛び起き、ぴょんぴょん跳ねてから僕の元へ集まってくる。うさ丸らしきウサギだけが僕の頭に飛び乗ってきた。
「……あれ?」
「少年、僕は襲われていたわけではない。昼寝していただけだ」
「すいませんっ!」
一通り事情……事情と言えるほどでもないが、何をしていたか説明すると少年は腰を110度くらいに曲げて謝ってきた。バランスを崩したら顔から地面にめり込みそうな角度である。
「良いよ別に。次からちゃんと見てから……っていうのは難しいか」
この手のタイプの人間はピンチそうだったら考える前に動くだろうし。それは何年もアズマを見ていれば分かる。行動原理は違えどやろうとしていることは同じなんだし、アズマと同じと考えればいい。
「やって損はないんだし、間違えたら謝れば許してもらえるよ。善意であるっていうのも分かってもらえるだろうし……そもそも、こんなことしてるの僕くらいだからね」
だからこれからも頑張ってね、と励ます。
少年は落ち込みながら歩いて去っていったので、僕もお昼寝再開……。
やはりお腹の上で丸くなるうさ丸を撫でながら、このウサギ達をどうするべきか考える。
飛び起きた時に跳ねていたウサギ達が落ち着いたら僕の元に戻ってきたというのを考慮すると、やはり懐かれてしまっている。このまま帰ろうとしても、うさ丸を拾った時みたいに街まで着いてきてしまうだろう。
「……実験体としてはいいか」
あまりそういった扱いは好きではないが、そうでもしないと飼う理由にこじつけられない。飼うにしても常に一緒には居られないのでどちらにせよ家か何らかの施設は必要そうだが。
施設というと、まあ小屋みたいなの。できれば広い空間で放し飼いにしておきたい……となると、大きい家に付属するらしい庭か。そこに薬草とか植えて育てておけばそれを勝手に食べてくれるだろう。
「そしてお金」
当然だが家は買う必要がある。しかしそんな安いわけもなく、グレードも存在する。高い家はそれだけ敷地や設備がある。ウサギ達を飼うのであれば最低限庭は欲しいので高い家を買わなければならない。
現状お金を稼ぐ方法は作ったアイテムを売ること。店主さんに回復ポーションに加えて力のポーションとかも売ればそれなりに稼げる。が、やはりそれでも家を買える金額には到達できる気がしない。
長期的に見るならそれでいいのだが、必要になるのは今だ。しばらくの間お金を稼ぐことに専念するとしても、その間にこのウサギ達は何処に置いていけばいいのか。
パッと数えて20匹くらい。草原に放置していればプレイヤーに倒されてしまうし、かといって店主さんの所では……スペースは足りるだろうが頼りっぱなしで申し訳ない。
「エニグマなら問答無用で使うだろうなぁ……」
あいつもアズマと同じくらい自己中だ。自分が楽しいから僕やアズマと一緒にいる、そう言っていた。自分の為に誰かを利用するし、自分に不利益な結果に繋がる行動は介入して思い通りに結果を作る。
遠慮のない性格が、羨ましいとは少し思う。
「そう言ってても仕方ないんだけども……どうするかなぁ」
結局、それしか方法がないのであればプライドは捨てるべきか。
店主さんには悪いけど、その分店の利益になるようなアイテムを沢山売ることで貢献しよう。
「ウサギを店に連れて行ってもいいですか、っと」
許可は取っておく。これで無理なら大変不本意だがアリスさんにも頼ってみよう。それでもダメなら……その時はその時。
返事が返ってくるまでの間、暇なのでメニューからアイテム欄を表示させたままにしておき、合成できそうなアイテムを考えておく。
まず僕自身が作りたい目標としていた毒煙玉ともいうべきアイテム。
毒ポーションとケムリの実を合わせたらできるだろう。以上。
他はキノコ類。マウタケは食べたら力が上がり、合成で水やポーションと合わせると力が上がる飲み物が完成する。なら他のキノコもそうだろう。手持ちのキノコはマウタケとヒノコ、ヨルメタケの3つ。
ヒノコは食べると暑さを緩和する、という説明文があるので砂漠とか火山とか行く時に飲む用のアイテムができるかもしれない。
ヨルメタケは名の通り暗視効果が発現するので夜や洞窟内などの暗所で活躍するアイテムになるだろう。
しかしヒノコは需要がなさそうだしヨルメタケは店主さんの店で偶然売られていたのを買っただけなので2個しかない。よってキノコ類はパス。
となると有用なアイテムはほぼない。毒関係で作りたい物はあるがその素材になるものがないのがなんとも。
「求めるものは殺傷力…」
僕の戦闘力は毒の殺傷力によって決まると言っても過言ではない。未だに錬金術への道が見えてこない僕はいつまでも貧弱ステータスのままで、そんなステータスで接近戦なんてやったら光の速さで死ぬ。
毒とは言うものの、元が毒草である以上現状は殺傷力が高くない。毒草を食べた時も、回復を続けていたら毒の状態異常は消えた。
それに、毒煙玉を作っても煙が毒と見抜かれたら呼吸を止めるか、煙から離れるように動いて毒のダメージが与えられなくなる。
望ましいのは、煙の危険性に気付く前に死を確定させる要素。例えば麻痺毒。吸ってしまえば体が動かずに死を待つのみになる。
このゲームの状態異常は何があるのかにもよるが、睡眠や麻痺など体が動かなくなるような状態異常を同じ煙で発生させれば戦闘は楽になる。
最終的には麻痺毒が目標になる。麻痺ポーションみたいなのを作り、毒ポーションと合成してそれをケムリの実と合わせれば麻痺と毒の状態異常を付与できる煙玉の完成だ。
などとできるかも分からない予定を立てながらニヤニヤしている店主さんから返事が来る。2つ返事で、「良いよ〜」と。
優しい。詐欺電話に対応したら優しさに充てられて犯人が詐欺やめるくらい優しい。
「行きますか……」
うさ丸を頭に乗せて歩くことの何倍も目立つだろうなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます