第20話 新論



 待っていた時間で作った物のレシピは一応記録してある。



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合成レシピ


薬草×毒草=毒薬草

薬草×薬草=薬草

薬草×シロの実=ハーブ

薬草×マウタケ=紛失(多分失敗?)

マウタケ×水入り瓶=力のポーション

ガラス瓶×水入り瓶=水入り瓶

ウサギの肉×イノシシの肉=肉塊

回復ポーション×イノシシの牙=癒しの牙

回復ポーション×マウタケ=力の回復ポーション

毒ポーション×マウタケ=毒・力のポーション

毒ポーション×力のポーション=毒・力のポーション

力のポーション×イノシシの牙=力の牙

マウタケ×イノシシの牙=紛失

薬草×イノシシの牙=紛失


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 といった感じである。思いついた順に実行しているのでごちゃごちゃしてるが他人に見せる訳でもないしそのままだ。



 研究していて気になった点は薬草とマウタケ、マウタケとイノシシの牙、薬草とイノシシの牙の結果だ。

 紛失というのはそういう名前のアイテムではなく、文字通り紛失したのだ。成功の予兆はあり、光が止んだら何も無かった。

 この紛失という結果が、爆発とは別の形の失敗なのではないかと考えている。


 他に気になるのは回復ポーションや毒ポーション、力のポーションをイノシシの牙と合成してできた三種類の牙。

 癒しの牙は防具に使うと自動回復力が上がり、毒の牙は武器に使えば毒属性が付与される。力の牙は武器に使うと攻撃力が上がる。

 3つのポーションの共通点は液体であることと、プレイヤーに直接影響すること。

 だがプレイヤーに直接影響するという点は薬草とマウタケにもある。この2つは固体。

 同じような影響をもあらす薬草と回復ポーション、マウタケと力のポーションの違いは「完成品か素材か」、もしくは「液体か固体か」である。


 素材同士の合成は不可、というのは他の合成の結果から違うと分かる。薬草とシロの実も素材の分類だろう。

 液体か固体かというのも、固体同士、液体同士、固体と液体で成功している例があるのだから違うと思われる。それに、物質の三態というのは些か括りが大きい。



 他の結果を1つずつ考える。

 薬草と毒草は合わさって回復と毒、2つの効力を持つ草になった。これは草という共通点はある。

 薬草と薬草。2つが1つになっただけだが紛失はしなかった。共通点は草であること。1つになった事に関してはよくわからない。

 薬草とシロの実。合成されて回復力が強い素材となった。共通点は、植物であること。それと回復効果を持つこと。

 ウサギの肉とイノシシの肉は……まあ、肉であることだろうか。


 これらの結果を統合すると、少なからず共通点はある。そこで薬草とマウタケについて考えるとどうか。

 薬草とマウタケは回復と力アップという関わりのない効果を持つ。マウタケはキノコ、つまり菌類であり、植物ではない。


 薬草を使った完成品である回復ポーションとマウタケの合成は成功した事から、ある仮定を立てることができる。


「共通点を持たない素材同士は合成できない…?」


 この論で行けば、力アップの効果を持つ草と薬草を合わせたら合成は成功し、力アップの草と回復のキノコは失敗となる。

 現状の手持ちなら、毒草とマウタケを合成しても紛失という結果になるだろうか。


 思い立ったので実行。錬金釜を起動し、毒草とマウタケを入れる。混ぜると光り、目を開けると……何も無い。


「結論」


 完全に正しいとは言い切れないけど、性質の共通点を持たない素材は合成できない。

 これが今のところの結論だ。もう考えるの疲れてきたし集中力もない。


「適当になんか作ろう」


 何も考えずに作ってもメモしておけば後からでも考えられるし――


「――じゃない、作りたいものがあるんだった」


 そうじゃなかった。アイテムを作るという目的は間違ってないが、主に攻撃できる、戦闘用のアイテムが欲しいのだ。


「毒ポーションと……なんだろ…」


 今持っているアイテムの中で敵に攻撃できる物といえば毒ポーション。

 しかし液体では相手に飲ませるのが難しい。かと言って固体では尚更難しいだろう。高望みをするなら、気体がいい。気体なら呼吸で勝手に摂取する。


 『合成』によって気体の毒を作るなら。

 毒の成分は毒ポーションがあるから十分だ。だとすると必要になるのは「気体」の成分。

 直ぐに思いつく案としては、煙だろうか。煙といっても火災で発生するやつではなく、ゲームではよくある、白煙を発生させるアイテム。目くらましとかに使われるような、忍者が使ってそうな煙玉だ。


「でもなぁ…」


 しかし煙玉はないし、その素材になりそうなアイテムも……ない、かな。


 詰み。

 疲れた頭で考えてるからか1回行き詰まったら思考を放棄してしまう。頭が悪いのではない。慣れてないだけだ。


「煙かぁー、煙ね〜……煙…」


 ぼんやりと煙、煙と呟いてはいるが良い案は思い浮かんでこない。


「仕方ない…」


 最終手段、エニグマを頼る。

 爆発とか、粉塵爆発とか、他にも聞き流しているけど色んな知識を持っている。困った時のエニグマ先生だ。


 フレンドリストでは、エニグマはオンラインの表示になっている。

 僕もあまり人の事言えないけど、廃人多くない……?

 ログインした時点でアリスさんと店主さんは既に居たし、まだ7時半くらいなのにエニグマもアズマも、ついでにアクアさんとエアリスさんもオンライン。フレンド全員がオンラインだ。


「いや、僕は廃人じゃないか」


 プレイ時間長くてもまだレベル3だし。











****










「朝早くから呼び出しかよ」


「文句良いながら来てくれる辺り優しいね」


「だろ」


 謙遜という言葉を知らなそうなエニグマ先生がやってきた。


 店に呼び出し、待っている間は店主さんが座っているカウンターの内側の席で待っていた。

 来ていた客からは物珍しげな目で見られていたが、視線にはうさ丸の事とかで慣れたから無視。


「つかなんだあの列」


「ポーションガチャ」


「あぁ…商魂たくましいというかなんというか」


 それには同意する。


「で、何の用だ?」


「煙玉みたいなアイテムない? またはそれの素材になりそうな物」


 エニグマは少し考えるような素振りを見せた後に話を始める。


「……煙ってのは気体中に固体か液体の微粒子が浮いている状態だ。その多くは熱分解や燃焼によって発生する。

 最も手軽に煙を発生させる方法は狼煙と同じように物を燃やせばいい。土煙で良いんなら埃や砂を巻き上げりゃいい。

 発煙筒と呼ばれる道具は火薬を使って点火して大量の煙を吹き上げる事で連絡を取る物だ。それを目指すなら火薬を手に入れるのが早いかもな。

 あとは…航空機のショーとかで使われるのはパラフィンっつー物質とか油とかを燃やしてるな。パラフィンは和名だと……石蝋だったか? ロウソクとかクレヨンに使われるらしいな。

 煙と言うとスモークマシンなんかも思い付くな。あれは液体を粘度の高い霧状にして排出する装置だがスモークってつくくらいだしまあ煙に近いんだろ。それに似てるのだとドライアイスとかだな。これらはテレビで演出として使われたりするぞ」


 そんな長ったらしい説明をしたあと、一拍置いて。


「ま、昨日ルークスの近くの森でこのケムリの実を拾ったんだけどな」


 最初からそれ出せや。


「ポーションと交換しよ」


「欲しいならやるよ。要らんし」


「じゃあこれあげる」


 合成で作った力のポーション。戦闘に出ない僕にとっては無用の長物だし、在庫しょぶ……じゃない、サービスだ。


「…これ何処で手に入れたんだ? STRにバフ付けるポーションとか聞いた事ないが」


「作った」


「あぁ……そう、か」


 ケムリの実を受け取る。これは実の中に綿が詰まっていて、実を割ると綿が飛び出るからケムリの実、という説明がある。


「…用はそんだけか?」


「ん、こんだけ。アズマ達とレベル上げ中だった?」


「いや、それは昼辺りから。今は…どいつも廃人だからログインしてるだけだ」


「さいですか」


 昼辺りからはやるんだ。


「なんかやることあるの?」


「ねぇな。バジトラに行こうとも考えたけどメンバーと約束したの昼からだし」


「じゃあ話し相手になってよ。頭使って疲れてるからなのか寝起きだからなのかあんま考え事できる思考じゃないし」


「いいぞ」


 手持ち無沙汰なので「原初のフラスコ」をカウンターの上に出して店主さんから依頼されてたポーションを作る。


「いやさー、今日起きてから昨日のこと思い出したらめっちゃ濃い1日だったなーって思ってさ」


「何してたんだ昨日」


「まずFF始めたじゃん? それでうさ丸捕まえて、錬金術取得して、エニグマとアズマに会って、ここで「原初のフラスコ」を買って、ポーション作ったけどゲロ不味くて、素材集め行って」


 フラスコを振りながら昨日の事をポツポツと。


「アリスさんの好感度がバグって、アズマと合流して、クマさんにエンカウントして背中に乗せてもらって、アリスさんからセーラー服と白衣貰って、初日なのに馬車で次の街のルークスに行って」


「長ぇな」


「ルークスの錬金術師から道具を買って、合成のチュートリアルがないことにキレて、教会に行って子供と遊んで、ルグレに帰ろうと思ったらアクアさんとエアリスさんと知り合った」


 1日とは思えない出来事の量だ。細かくしすぎなのかもしれない。だが1日で初対面の人と4人もフレンドになったし、どちらにしても濃い。


「そうなんだが……お前もうちょい慌てろよ。体の変化で戸惑う事ねぇの?」


「無い、というと嘘になるかな…。でもエニグマやアズマは受け入れてくれたし、信じてよかったよ」


 一拍置いて。


「とか言ってたらそれっぽくない?」


「ぽいな」


 正直、体の変化なんて性別か変わった日とその次の日に真白に嫌というほど思い知らされたし、今更どうってことない。


 いや、1つあるとすれば…


「戸惑う、ではないけど。身長が縮んだのが辛いかな」


「あぁ、超ちっさいもんな。今何センチよ」


「妹より小さいから155もないかな。目線的に150より下かも」


 正確に測ってはないから分からないけど身長は小学生レベルなのだ。小さい小さい。元々170cmもなかったけど20cmくらい縮んで落ち込む。戻る時に身長そのままとかだったら病むね。こうなった原因が分からないから戻るか分からないけど。


「…つか何でTSしたんだお前」


「知らないよ」


「戻りたい、か?」


「どうかな。元々男である事に執着はないって前にも言ったし、それにこっちの姿の方が色々お得じゃない?」


 可愛いは正義。アリスさんみたいな変人に狙われる事もあるけど。

 騙してるようで悪い気もするがこの姿は可愛いし、女の子ということもあって何かした時に都合の良い方に解釈してくれるかもしれない。


「やっぱお前どっかおかしいよな」


「それ言ったらエニグマもアズマもおかしいよ。エニグマは普段の生活で絶対使わないであろう知識とか知ってるし、アズマは自己中が極まりすぎて一周まわってヒーローみたいな性格してるし」


「錬金術についても知ってるぞ」


 なんでさ。


「錬金術は卑金属を貴金属に変えることを目的とした試みだな。卑金属ってのは貴金属以外の金属な」


 聞いてないのに語り出したし。


「金属以外にも肉体などの錬成にも試みはあったらしい。それに、錬金術は化学の土台となってる。肉体の錬成じゃない方だけどな。今の化学は昔の錬金術があったおかげであるようなものだ。錬金術を試みる中で様々な発見があり、それが最終的に化学へと繋がった。そういう点で言えば王水とかお前でも作れるんじゃないか?」


「おうすいとは」


「王の水と書いて王水。濃い塩酸と硝酸を3:1だったか? 逆かもしれんが、そんくらいの割合で混ぜた液体だな。それぞれ役割が違くて単体では無理だが合わせて王水にする事で金属を溶かせる。タンタルとかイリジウムは密度が高いとかで無理だった気がするが」


 それ現実に存在するんだ。ファンタジーみたいな性能してるけど。ゲームだと蟻のモンスターとかが使ってきてもおかしくなさそうだ。


「ちなみに腐食性が高いから人が被ると焦げて死ぬ」


「こわっ…」


 普段の生活どころか、人によっては一生関わりのないような物のような気がする。何故そんな物を知ってるか本当に気になってくる。

 だが、その王水とやらは強そうだ。人にかけると焦げて死ぬなら大体どの生物にかけても死ぬだろう。それどころかゴーレムなんかの生物ではないモンスターも倒せるかも。


 でも塩酸と硝酸……手に入るのかな…。まさか生成するとか? 流石に無理な気がするけど。


「どうやって作るの」


「知らね」


 おい。

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