第19話 レシピ開発?
さて、また実験なのだ。
昨日散々実験したが、あれは『合成』の仕様を確認するために、チュートリアルがなかったから自力で理解するために仕方なくやった事だ。
次にやる実験はいわばレシピの開発。今までの経験から、作製時に「~と~を合成すると~ができます」みたいなのは教えてくれないこのゲームでも材料や手順が同じなら同じ物が完成するというのは解っている。
何と何を合成すれば何ができるか、それを調べよう。
「頑張って〜」
アリスさんが帰っても部屋に残ってる店主さんが応援してくれる。両手には「リンちゃんファイト〜!」と書かれた
僕を応援するためだけにわざわざ作ったのかな……いやそうだよね、リンって僕しかいないから僕のためだけだよね……。
「ありがとう…ございます?」
嬉しいような恥ずかしいような。
気を取り直して、錬金釜の前に立つ。
先に何と何を合わせるか考えておいた。失敗前提になるけど、毒ポーションと回復ポーションを入れる。ダメージを与える薬と回復する薬、相反する性質を持つ2つを合わせる。アイテム同士の相性が存在するのであればこの2つは恐らく合成できずに爆発する。
合成できてしまったら、この『合成』というアビリティはその名の通りアイテムを合成させる物で、相性なんて関係ないという事になる…かもしれない。
「まずは起動っと…」
毎回瓶10本開けて水入れるの面倒だなぁ。鍛冶師の人に依頼してバケツとか作ってもらおうかな……。
水を入れ、沸騰してきたのを確認。椅子から降りて錬金釜から離れ、毒ポーションと回復ポーションを投げ入れる。店主さんにも安全面を考慮して離れてもらった。
「……爆発しない…?」
投げるのが下手で錬金釜に入ってないとかはない。釜の中では2つの瓶がプカプカ浮いている。
この段階で爆発しないなら、合成は成功するという事だろうか。木の枝を取り出して釜の中をぐるぐるとかき混ぜる。
混ぜ始めたタイミングで、成功する時の予兆である水の色の変化とキラキラが発生した。そのまま続けているとキラキラが光り始める。
「店主さん、眩しくなるんで備えてください」
「は〜い」
そう言うと店主さんは両手を顔に当てて顔全体を隠した。僕も光に備えて腕で顔を覆う。
光が止むと錬金釜の上に瓶が浮いている。いつもと違う点は中身の液体の色。今回のは黒に近い紫色の液体、毒ポーションの色が強く出ているようだ。
――
『回復毒のポーション』
体を癒す効果と蝕む効果、真逆の性質をかけ合わせたポーション。
回復量30。
飲むと『毒』の状態異常を発現する。
――
「えぇ…? 成功するんだ……」
しっかり合わさってしまった。
絶対失敗するという自信があったのに成功するのか。僕の予想である相反する性質を持つ物は合成が失敗する、というのが間違っていたとするなら、全てのアイテムを合成できるのか……?
そんなの何万とかいうレベルじゃないレシピが存在することになってしまう。単位は億とか兆、もしかしたら京とかの数のレシピが…?
あまりにも信じられない話だ。錬金術だけにそんな力を入れるか…? 全アイテム数の2倍どころじゃない、3つ目の素材を入れて合成できるんだから、もっと数が多いはず。
失敗しないのは全くの予想外だった。なら何をすれば失敗するのか。
「毒ポーションと牙…」
もし、ポーション同士が「液体」という共通点で合成できたとするなら決して交わる事の無い、共通点が存在しない2つのアイテムを合成してみたらどうなるか。
次に試すアイテムは毒ポーションとイノシシの牙。考えても共通点は思い浮かばない。
錬金釜を起動し、離れて毒ポーションとイノシシ牙を投げ入れる。
……爆発しない。
混ぜるとやはり成功の予兆が発生し、光る。
――
『毒の牙』
毒属性を持つイノシシの牙。
武器の素材に使用した場合、武器に『毒属性』を付与する。
――
否定は、できなかった。
「馬鹿じゃん…」
もし、もし全てのアイテムが合成できるとしたら。
武器の素材、金属のインゴットとかと毒ポーションを合成して、完成したインゴットを使った武器は毒属性になる、ということだ。
属性が違う、火属性や水属性を付与するアイテムを発見すれば、素材の属性は好きに決められる事になる。
「はぁ…」
バランス調整下手か?
思わず口から漏れる言葉。
属性武器の強さや価値は分からないけど、こんな事してたら錬金術は生産において必須のスキルとなる可能性は十分にある。
それに、この『合成』でしか生み出せないアイテムだって存在するだろう。そんなアイテムをまた別のアイテムと合成させられるとしたら、『合成』で作れるアイテムの数は想像しきれないくらいになるし、錬金術の需要が過多になる。
もし、の話ではあるけど、全ての水準がこのレベルだとすればこの合成の結果にも納得が行く。
他の生産職にもありとあらゆるパターンのレシピが登録されていて、錬金術もその1つに過ぎないとか。
鍛冶にも属性を付与する方法はあり、『合成』で生み出したアイテムを素材にするより強い、とか。そうすると錬金術は劣るが、逆に言えばそうでもしないとバランスは取れない。
或いは、運営の想定では錬金術の人口はもっと多かったのかもしれない。合成で生み出した素材を他の生産職と取引して、交流を盛んにさせようとした、という線も考えられる。
「考えるの疲れた…」
憶測では永遠に結論に近付かない。旅行に行きもしないのに雑誌を読んでプランを考えてるようなものだ。全くの無駄。証明する手立てがないのなら仮定にすらならない。
「これどうしようか…」
毒の牙はアイテム欄に所有制限とかはないし封印しておこうかな。
…切実な願いとして、錬金術をやる人の数は増えて欲しい。僕だけじゃ思いつかない事もあるし、面倒な検証は他の人がやってくれたりするかもしれない。
しかしそうなっていない理由は、偏見と生産キットがないからだ。偏見はどうにもできないが、生産キットは見つけた場合に店主さんに流して欲しい人の元に届かせることができるかもしれない。
だが、今すぐどうにかできる問題ではない。頭の片隅にでも置いておこう。
まだ完全にそうとは決まったわけじゃないけど、何を合成しても昨日発見した容量の原理を守っていれば成功するのなら、色々試してみるべきだろう。
「メモ用紙欲しいかも……」
研究ノートみたいなのゲーム内に売ってないかな…。
****
木工職人の人が来るまでしばらくの間、合成のレシピを研究した。内容は店主さんに紙と羽ペンを売ってもらったのでそれにメモしてある。
あとついでに作ったのとストックのポーションを店主さんに売ってお金を作っておいた。
「初めましてッスね、俺は雷電ッス」
ッスって語尾の人実際に居るんだ。
店に来た木工職人の人、雷電さんは金髪の男性で、顔はなんか外国人っぽい顔だ。彫りが深いというのかな。
「リンです、よろしくお願いします」
「ぐれーぷさんから呼ばれただけで何も分かってないんスけど…」
「作製依頼です」
雷電さんに錬金釜を見せ、このサイズの釜の中身をかき回せるような大きなヘラを作ってほしい、というのを伝える。
「了解ッス。料金は後払い…にしたかったんスけど、こっちもカツカツで素材すら買えないんで前払いでも良いッスか?」
「金額に寄りますけど…」
「そうッスね……1万5000ほどで…」
「高いよ〜?」
僕は別に文句はないのだが店主さんが威圧してる。相場より高いとかなのだろうか。
「こっちも色々厳しいんスけどね…。じゃあぐれーぷさんからの紹介ってことで5000ソル引きの1万でどうッスか」
「え? 1万5000でも大丈夫ですけど…」
「その値段だと最悪ぐれーぷさんとの繋がりが絶たれちゃうんスよ。それは将来的に困りそうなんで、先行投資ッス。同情してくれるなら今後とも御贔屓に、ッスね」
店主さんに聞かれないようになのか、耳打ちして教えてくれる。
生産職にも色々あるらしい。
《『雷電』から取引を持ちかけられています》
――
プレイヤー:リン、雷電
取引内容
リン:1万ソルの前払い
雷電:巨大ヘラの作製
――
おかしい所はない。
この取引の内容、プレイヤーが決められるのでアリスさんは余計な事書いてた。いつも持ちかけられる側だし、機会があれば持ちかける側になりたい。
「この内容で良いッスか?」
「大丈夫です」
「じゃあ作ってくるッス。納品はシステムで」
「はい」
雷電さんは手をヒラヒラと振りながら店を出て行った。
適当に返事してしまったけど、どういう意味だろうか。システムで納品…? つまり、アイテムを送れるシステムがある?
「どうしたの〜?」
「あ、いえ。システムで納品ってどういう意味なのかなって」
「ああ〜、それはね〜…」
店主さんの話によると、取引をした相手に納品する場合は、その取引を通して遠くからでもアイテムを送れるらしい。フレンドにはメッセージにアイテムを同封して贈れるが、フレンド登録をしなくてもその機能を一時的に使えるものだと思っていいらしい。
フレンドメッセージでアイテムを贈れるのも初耳だった。
…エニグマとアズマに回復毒送りつけよ。間違って飲んだら面白いし。
取引の話も終え、店主さんは用があるらしく店を空けるとの事で、1人になってましった。
「さて、また整理しますかぁ〜…」
雷電さんが来るまでに作ったアイテムについて、気になることもあるし。
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