第17話 教会


 現在時刻は20時52分。ゲーム内は太陽が出てるから昼。


 教会で発生するクエストをクリアするとファストトラベル機能にその街の教会が追加され、移動できるようになる。

 そういう話をエニグマから聞き、実際に教会まで来て発生したクエストは教会で保護している孤児の遊び相手になること。

 掲示板のスクリーンショットをエニグマから送られてきた時に書かれていたクエストの内容はモンスターを倒してくるというものだったので、人によって違うのだろうか。


 などと考えながら走っている。今は絶賛鬼ごっこ中だ。


 傍から見たら、僕も孤児とそう変わらない年齢だ。孤児の一人と勘違いされてもおかしくないが、セーラー服に白衣、それにウサギを頭に乗せているので1人だけ浮いて見えるかもしれない。


「まてまて〜!」


 この子達、なんだかんだ結構速いが未だにステータスオール1の僕でも逃げれるんだからAGIが高ければもっと楽に逃げれるんだろう。


 男子と鬼ごっこをしたら次は女子とおままごとを、その次はお絵描き、絵本の朗読と引っ張りだこで中々疲れる。



「わたしリンすき!」


 親戚の子もこんな感じだったなぁ。

 昨日まで「お父さんと結婚する!」って言ってた子と1日一緒にいたら「凛と結婚する!」って言い出すみたいな。



 そんな感じで遊んでいたら、色んなことをして疲れたのか、大体の子はお昼寝に入ってしまった。

 何人かは僕の腕とか太腿やお腹を枕にしている。うさ丸は外で草食べてるからいない。


「すみません、こんな事頼んでしまって…」


 頭の上から声が聞こえてくる。体を動かさずに首を伸ばして声の方を向くと、孤児達と遊んでくれと頼んできたシスターさんが立っていた。


「楽しいし大丈夫です。困ってる人は放っておけませんし」


 主にアズマの影響で。


「まあ。小さいのに立派なんですね」


「この見た目でもそれなりに歳なんで…」


 確かに、16歳が小学生みたいな見た目してるとは思えないよね。少なくとも僕ならその考えには至らないね。


「それよりお仕事はもう平気なんですか?」


「ええ。お陰様で…それに、この子達も楽しそうでしたし」


 だから、ありがとうございます。という感謝の言葉を受け取る。


 …それよりこの体勢キツイんですけど。


《ファストトラベル:ルークスが開放されました》

《ファストトラベルは教会へ一定以上の金額を寄付し、祈りを捧げる事で使用できます》


 いや、ファストトラベルのチュートリアルあるんだったら錬金術のも作れや。

 なんであんな分かりにくくしておきながら一切チュートリアルないのにファストトラベルにはあるのかなぁ!

 ファストトラベルが分かりやすいとかじゃなくて錬金術が分かりにくいって話だけど、同じくらい分かりにくいんだから錬金術のも作っておいて欲しかったな!


 チュートリアルが出てきたことで運営への不満がタラタラ流れてくるが、これは仕方のないことだ。錬金術とかゲームやってる人でも少し知識があるかなってくらいなんだし、全く知らない人がやろうとしてたらどうするつもりだったんだろうか。


「私達はあなたを歓迎します。ぜひいつでもいらしてくださいね」


「はい…あの、ちょっと苦しいんで助けてください」


 そろそろ腕が痺れてきた。




 その後、子供達の昼寝の枕として寝転がっていると子供達が起き、シスターに忙しいだろうからそろそろお別れをしましょう、と言われて教会の前で子供達に抱きつかれている。


「行っちゃやだ!」


 すっごい懐かれたせいで別れられない。というか離してくれない。


「また来るから、その時にまた遊ぼうね?」


「…やくそくだよ?」


「うん。良い子だね」


 皆と指切りして頭を撫でると笑顔で手を振ってくれた。子供は可愛くていいね。


 もうこの街に用はない…というのは言葉が悪いか。特段用があるわけでもないのは本当だけど素材の補充のために最初の街、ルグレへ帰ろう。



 エニグマとアズマにフレンドチャットで帰る事を伝えると、あの2人も休憩中との事で一緒に帰ることになった。





「よっ」


 駐車場のベンチで空を眺めてボーッとしてるとエニグマの声が聞こえる。


「遅かった…ね?」


 エニグマとアズマの後ろに2人の女の子がいる。片方は軽装で茶髪ショートの人と、もう1人はローブを着ている青髪ストレートロングの人。


「誰…?」


「紹介しよう。アクアとエアリスだ」


「私がエアリスよ。よろしく」


「アクアです…えっと、初めまして…?」


 茶髪ショートの人がエアリスさんで青髪ロングの人がアクアさんらしい。いや、それは分かったけどなんでこの人達がエニグマとアズマと一緒に居るんだろう。


「アズマの悪い癖だ」


「またぁ…?」


 そう、アズマの悪い癖。困ってる人を放っておけないという何処ぞの主人公かって性格。

 僕も影響されてるから強くは言えないんだけど、僕のとは行動原理が全く違う。


 僕はいわゆる善意、または偽善というので動いているが、アズマは自分の為だけに動く。「周りが笑ってないとオレが嫌なんだ」と言って、アズマは自分が届く範囲の人を助けようとする。

 今回もそれなんだろう。この2人が何かの理由で死にかけていた所を見かけたから勝手に助けた、とかそんな感じ。


「リンです。来たということは2人もルグレへ?」


「ええそうよ。ファストトラベル機能の開放にね」


「この街のは?」


 エアリスさんとアクアさんは既に開放していて、エニグマとアズマも僕と別れた後すぐ教会へ行ってたらしい。


 色々と話しているとエニグマが馬車を確保してくれていた。


「ありがと」


「はいはい」


 早速乗り込んで出発。

 エニグマとアズマから僕と別れた後の行動を聞きながらうさ丸を撫でる。


 先ず、2人は僕と別れた後はパーティを組んで近くの森でレベル上げをしていたらしい。

 ここではモリ森で後ろで腕を組んで見てるだけだったエニグマも戦闘に参加し、アズマが防御、エニグマが攻撃という風に役割を分けて狩っていたらしい。

 敵は大きい蟻と蛇と熊。何処かで聞いたセレクトだ。主に僕の兄から聞いてそう。


 モンスターが強いだけあって経験値も多く手に入り、今の2人のレベルは16だそうだ。別れてからぶっ続けでやってたらしい。


 ご飯食べろと言っておいた。



 それでレベル上げ中に大勢の蟻に囲まれてジリ貧だったエアリスさんとアクアさんを見つけて、アズマがエニグマに言う間もなく助けに入ったとさ。これは予想通り。

 2人だけだと若干厳しいと感じてたエニグマが、エアリスさんとアクアさんに一緒にパーティを組まないかと提案して、現状に至る…とのこと。


「そうなんだ」


「ああ、結構バランスは取れてるぞ。アズマがタンク、俺とエアリスが物理火力、アクアが魔法火力ってな」


「ヒーラーが居ないのよね」


 このゲームのヒーラーって何のスキルが該当するんだろうか。錬金術以外のスキルを全くと言っていいほど知らないからこういう時困る。


「頑張ってね」


「…リンさんは一緒にやらないの…ですか?」


「僕はまだレベル3だしステータスオール1だしね。戦闘はあんまりやるつもりないし」


 そういえば結局錬金術に関わるステータスが判明してないな。合成も特に問題なくできたし、もしかしてそういうのは存在しないのかな…?

 まあ、どっちにしても憶測でしかないしまだステータスは振らないんだけど。



「それはそうとエニグマ先生」


「なんだね」


「ステータス不定の僕でも手軽にダメージ出せる方法ないですか」


「レベルを上げて物理で殴る」


 それが嫌だから聞いてるんだけど。

 STRに振って平気か分からないからエニグマが言うようなことは出来ない。錬金術に必要なステータスが判明するまでレベルが上がってもステータスポイントは貯まるだけだ。


「嘘に決まってんだろ。そうだな…このゲームがどこまで現実に寄ってるか分からんからできるかは不明だが、粉塵爆発とかどうだ」



 粉塵爆発。英語だとダストエクスプロージョン。

 ある一定の濃度の可燃性の粉塵が大気などの気体中に浮遊した状態で、火花などにより引火して爆発を起こす現象。

 やるだけなら石炭の粉末とか小麦粉などをばら撒いて火打石とかで発火させれば爆発する。

 危険性で言うと金属粉末の粉塵爆発が負傷者や死傷者が多く、その金属粉末の中でもアルミニウム粉末は第2類危険物? というのに定められるほど。


 …らしい。



 要は石炭粉末を散布して発火させれば爆発するということ。石炭はルグレ北東にあるバジトラは鉱山によって石炭が採れるらしいので、そっちへ行くのも手だろう。

 このゲームにアルミニウムがあるか分からないので現状だと石炭がいいだろうと教えてもらった。



「…毎回思うけど、なんでそんな知識あるのさ」


「ゲームやってたら興味出て調べた」


 粉塵爆発に興味が出るゲームって何?


「リンちゃんとエニグマ君達ってどういう関係なの?」


 いつの間にかエアリスさんからちゃん付けで呼ばれるようになっている。

 嫌ではないんだけど、今までちゃんを付けて呼んでくる人ってお母さんとかおばあちゃんとか、近所のおばさんとかしか居なかったからなんか恥ずかしい。


「リア友」


「えっ…本当?」


 まあ小学生くらいの女の子と高校生の男子がリア友で一緒にゲームやるってあんまり無いだろう。僕もない。


「本当だよ。エニグマは僕の友達さ」


「言わされてる感あるからそれやめろ」



 エニグマ イズ マイフレンド。


 …そういえばこの4人、ア行で始まる名前多い…というか全員そうだな。アズマとアクアさんはアだし、エニグマとエアリスさんはエ。何かに合わせてるみたいに同じだ。偶然なんだろうけども。



「皆は教会のクエストで何やった?」


「俺とエニグマはアイテムの納品だった。何だっけ」


「フォレストウルフの毛皮だ」


「そう、それ」


 フォレストウルフってルグレの近くのモリ森にいる狼だよね。それ毛皮持ってなかったらルグレ行って戻ってこないといけないのか。この2人は持ってたのかな?


「私とエアリスちゃんは…お使い、です……」


「お使い?」


 子供の頃に親から夕飯の材料買ってきて、と言われてスーパーに買いに行くあれ?


「カレーの材料を買ってきたらクリアだったわ」


 あれだった。

 カレーの材料ということはカレー作れるのか。別に食べたいとは思わないけども…今日の夜ご飯カレーだっけ…?



「そういうリンは?」


「うぇっ? あぁ、僕は教会の子達と遊んだよ」


「へぇー…え? それで終わりなの?」


「うん、終わり」


 遊んで昼寝の枕になってたら終わってたし。そう考えると街の外のモンスターを倒してこいみたいなクエストだったらクリアするのに時間かかりそうだし、あれで良かった。


 そんなこんなで会話に花を咲かせ…咲いてたかな…? まあ話しながらルグレへと向かっていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る