第14話 ルークス
主にエニグマとアズマがボスモンスターの狼を倒し、襲われた馬をポーションを飲ませて回復させ、最初の街から南西にあるルークスに到着した。
「でかーい!」
街の周辺に生息するモンスターが最初の街であるルグレよりも強いというだけあって、街を囲う壁も大きく厚くなっている。
そして馬車の中にはゲロまずミントポーションを飲まされて亡くなったエニグマが! 一体誰がこんな酷い事を…。
まあそんなことはさておき、ルグレにあったのと同じような馬車を停める広場で降り、御者さんにお礼を言いながらエニグマを引き摺り出す。
御者さんには馬の事で逆に感謝されたので、情報収集ついでにこの街に錬金術師がいるかどうかを聞いてみた。御者さん自体はこの街に住んでるわけではないから客から聞いた噂でしかないが、どうやらこの街に1人だけいるらしい。
「いい加減起きなよー」
アズマに駐車場のベンチにエニグマを置いてもらいそこで水入り瓶をエニグマの顔の上で逆さにして水をかける。
「ぐっぶふぉぁっ! 今のは一体…」
「やっと起きた?」
「俺は確か…あのクソ不味い水を、うぷっ……思い出したら気持ち悪く…ってか口の中でまだうえぇぇ」
吐いた。このゲーム嘔吐まで再現されてるのか。エニグマもゲーム内で気絶してたし、凄いなこのゲーム。
しかし現実とは違い、吐瀉物は地面に広がって直ぐに消えていった。
「口直しにヨーグルト味飲む?」
「…貰おう」
シロのポーションの1番回復量が少ない物を渡す。
このポーションは『朝に飲むと健康に良い味がするポーション』と遠回しな説明だが、要はヨーグルト味だ。抹茶みたいな色をしているが、味はちゃんとヨーグルトなので色と味のギャップも含めて人気が出そうな気がする。
「アズマのレベル上げだっけ。僕も参加した方がいい?」
「あー…正直後から手伝うのが面倒で誘っただけだし、好きにしていいぞ」
来るなら俺が保護者役だ、という優しくても嬉しいか微妙なラインの申し出を断り、街の散策に行くことにする。
理由は1つ。NPCの錬金術師に会いたい。もしかしたら生産キットがどこで手に入るか分かるかもしれないし、有益な情報が手に入るかもしれない。
打算でしかないが接触せず決めつけるよりかはいい。
というのを伝えると、武器や防具を一通り見てからレベル上げに行くらしいのでそれだけ一緒に行くことになった。
「なんか見られてるような…」
「ウサギ頭に乗っけてる銀髪幼女がセーラー服と白衣着てるっていう属性盛りすぎな奴がいたら誰でも見るだろ」
確かに。ジーッと見るのはないにしても2度見するくらいは僕でもすると思う。
「はぁ…もうちょい自分のこと理解してた方がいいぞ。だからアリスみたいなやつに目を付けられんだよ」
「うい」
とは言ってもね。姿を隠すような装備もスキルも無いし、キャラリメイクはできないしできてもやるつもりはない。銀髪好きだし顔は弄ったら変になる。
2人と並んで街を歩く。夕暮れ時の空を見るに、NPCの店はそろそろ閉まってしまうので少し急いだ方が良いかもしれない。
「必要な物だけピックアップで買いに行くか」
「何買うの?」
「アズマの装備と俺は…まあ特に何も。ポーションとか買おうとも思ってたけどお前から貰ったし」
「装備更新したのにまた買うんだ」
「防具ないからな」
なんて会話をしつつ、NPCの武具屋に入る。
アズマが真剣に、エニグマが物珍しそうにそれぞれが自分に合いそうな武器や防具を探しているのと同じように、僕も店の中を物色する。
剣だけでも長剣、大剣、短剣、双剣、曲剣など色々ある。あとレイピアとかも。買わなくてもアイテムステータスは見えるので目に入ったものを確認していくが、欲しいと思うものはない。
しかしずっと木刀を使い続けるのは戴けない。しかし軽い武器でないと、STRをそこまで上げるつもりは今のところない僕では装備できなくなる。というかいい加減ステータスを決めたい。
要求ステータスがそこまで高くなくて攻撃力がそれなりにある武器を探して1つずつ確認していくと、僕の要求に合う武器が1つだけあった。
──金属バットが。
金属バット。このゲーム内で野球が存在するかは不確定なのでなんとも言えないが、武具屋の武器と並んで置いてあるなら打撃武器としての使用が正しいとされているのだろう。
実際、アイテムステータスには武器と書いてある。
装備に条件はなく、攻撃力+17のボーナスが付いている。つまりこれはSTRが1だろうと装備できて木刀よりも遥かに攻撃力が高い武器だ。
勿論即買い。店員のNPCに心配されたがステータスをどうするか未だに決められない僕にとってはこれ以上ない武器だ。
「バット買ったのか」
「強いよバット。攻撃力+17もあるし」
「打撃武器だからな」
防具を選んでいるアズマを暇そうに眺めているエニグマの横で一緒に壁に寄りかかると、うさ丸が頭の上から組んだ腕に降りてくる。
…ふと思ったが、金属製の装備を買うのであれば、このルークスよりもルグレ北西にあるバジトラの方が良い気がする。鉱山があることで鍛冶師が多い街であれば腕が確かな鍛冶師も多いはずだし、そこへ装備を求めてくる者達に強い武具をより高く売ろうと商人とかが集まってもおかしくはない。
それをエニグマに話したがちゃんと理解しているようで、自分とアズマのレベル上げを終えてちゃんと装備を整えるためにバジトラへ向かうまでの繋ぎだそうだ。
流石に僕が思いつく程度のことは考慮してあるらしい。
「買ったみたいだぞ」
歩いてこっちへ向かってくるアズマを見る。
胸や肩、肘など急所であろう所のみを的確に守っているが、動きは阻害しないような防具。所謂軽鎧と呼ばれるような物を身につけている。
「タワーシールドは?」
「なかった。オーダーメイドじゃないと無理そうだ」
それは残念。
これ以上用事もないので武具屋を出て、2人はレベル上げのために街の外へ、僕は錬金術師に会いたいので街の散策。それぞれの目的が違うので別れて1人で歩いていく。
武具屋にそれなりの時間いたという事と、このゲーム内では現実の4倍の速さで1日が過ぎる事もあり、空はすっかり暗くなっている。しかし深夜にはなってないからか、NPCはまだ沢山いる。それも直にいなくなるが。
錬金術師に会いに行こうにも僕はその錬金術師の情報を一切持ってないので、この場合はNPCに聞くのが1番手っ取り早い。
近くにいた女性のNPCに聞くと快く教えてくれた。あと簡易的な地図も貰った。案外知名度あるんだね、この街の錬金術師。
「ここかな…?」
貰った地図に従って進んでいくと薬屋に着いた。
明かりがあるし「開店中」という看板もかかっている。中に入ってみると、椅子とカウンターがあり、カウンターの上には売っているポーションの種類と値段をまとめた紙が置いてある。
「お、いらっしゃい」
店の奥から眼鏡をかけた青年が出てきた。世間話から入るのはおかしいし、そんな間柄でもないのでさっさと本題に入ってしまおう。
「錬金術師の方ですか?」
「うん? …んー、どうかなぁ?まあ座ってよ」
話が長くなるのを察したのかお茶を出してくれる。そしてカウンターを挟んで対面に座ってきた。
「えっと、お嬢さんは錬金術師を探しているのかな?」
「はい」
「それは何で?」
「僕も錬金術師だからです。でも錬金術の道具がなくて」
なんか補導されてるみたいな雰囲気だ。
「そっか、でもごめんね。僕は一応錬金術をやってるけど錬金術師といえる程ではないんだ」
話を聞くと、彼のこの薬屋は親から継いだもので薬屋だからポーション類しか作ったことがないらしい。
売っているポーションには毒や麻痺などの状態異常を打ち消す物もあるので、ポーション作製の知識や技術は僕より遥かに高いだろう。
「あ、でも御先祖様は錬金術師で世代を重ねる毎に薬屋として落ち着いたって母さんが言ってたし、家に何かあるかもね」
「ほんとですか!? って、人のもの貰う訳には…」
「いやー良いよ。どうせ使わないんだし、お嬢さんが使ってくれるなら売ってあげる」
手持ちのお金で足りるかなぁ。
結局、薬屋さんの家にあった錬金術の道具である『錬金釜』『錬金小樽』『占星盤』の3つ全て買い取った。
合計4万近くで買い取ったため、手持ちのお金の大半が消し飛んだ。
「ありがとうございます」
「うん、頑張ってね」
錬金術のキット3つをインベントリにしまって薬屋を出る。
この3つの生産キットを調べたいし、使い道が確定している『錬金釜』を使って『合成』を試したい。
しかし道端でやるわけにもいかないので宿を取ろう。この街はプレイヤーが少ないし空いてるだろうし。
「出費が痛い…」
この街に来る前にポーション沢山売ってお金いっぱい持ってたのにもう1万程度しかない。4万近くは先行投資を含めて有意義な買い物だったが、もう少し消費を抑えた方が良いかも…。
「さて、早速調べる──の前にログアウトしよ」
メニューの時間表示には18時12分とある。夕飯にはちょっと早いけどお腹空いたし兄さんに作ってもらうか自分で作るかしよう。
あとトイレ行きたい。
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