第5話 錬金術の取得
スキルオーブを売ってると思われる店、名前は「ぶたごや」と書かれている。だがスキルオーブを売っているという割にはあまりにも閑散としている。
「入って、みるか?」
「キュイッ」
ドアチャイムを鳴らしながら、店の中に入ってみる。
店の中にはガラスケースの中にスキルオーブと思われる水晶のような物が飾られている。なんだか宝石店に来たみたいな雰囲気が漂っている。
「いらっしゃいませ、レディ」
金髪で髪の長い、店の人と思わしき男の人がウィンクしながら何か言ってくる。
まあそういうロールプレイなんだろうと無視して錬金術のスキルオーブを探す。
「何をお探しでしょうか」
「錬金術のスキルオーブってありますか」
「錬金術…ですか。まさかあなたもマゾヒストの気が…?」
「そういうのいいんで」
いくら何でも不遇だからってマゾだと思うのはよくない。
というか「も」って何だ。もしかしてこの人マゾヒストなのかな。店の名前からある程度察してたけど本当にそうだとは思わなんだ。
「ええ、ではこちらを」
「いくらですか?」
「在庫処…ではなくて需要がほぼないので。そうですね……500ソルでいかがでしょう」
「わかりました」
店に並んでいるスキルオーブの値札は0が何個も付くような値段のものもある。それに比べたら破格の値段だろう。
というか今在庫処分って言わなかったかこの人。
≪『錬金術のスキルオーブ』は500ソルで販売されています。購入しますか?≫
『はい』を押すと所持金から500ソルが引かれ、店の人が水晶を手渡してくれる。
「どうやって使えばいいんですか?」
「握り潰すような感じで力を入れていただければ使用できます」
「ふっ!」
言われて早速握り潰してみる。少し力を入れただけで砕け、光になって僕の体に入っていく。破片とかもないし、全てが僕の体の中に入っていった。
《スキル:『錬金術』を獲得しました》
ステータスを開いて確認してみると、確かにスキル欄に『錬金術』が増えていた。
「ありがとうございます。ではまた機会があれば…」
「ええ。またのご来店をお待ちしております」
店を出て噴水広場のベンチに座る。
会話の中で明らかにマゾっぽいと感じることはなかったけど、言動の節々にそういう雰囲気があった。あれでただ店に雇われてる人だったら可哀そうだけど。
まあそれは置いておいて、今は念願の錬金術を手に入れたのだからそれを調べよう。
ステータスを開き、スキル欄にある『錬金術』をタップすると詳細が出てくる。
──
『錬金術-Lv1』
取得アビリティ
・『調薬』
──
なんとも簡素な詳細だ。もっと、『世界の理に逆らう、法則さえも無視する神秘の力』みたいな説明とかがあるのかと期待していたけど…そういったのはなさそうだ。
過度に期待していた僕が悪いのかもしれない。『調薬』も調べてみよう。
──
『調薬』
錬金術アイテム『原初のフラスコ』を用いて薬品系のアイテムを作製できる。
──
別途アイテムが必要なのかこれ。この『原初のフラスコ』も街のどこかで売ってるのだろうか?
というか、『原初のフラスコ』というのは中々気になる名前をしている。厨二心が疼くとでもいうべきか。
いやしかし、さっきから過度に期待しては落ち込んでいる気がするのであまり期待はしないでおこう。きっと錬金術として最初に使うから原初なのだ。
名前については後回しにしよう。今はさっさとフラスコを買いに行くべきだ。早くしないと裕哉や智樹と待ち合わせの時間になってしまう。
「お主、面白いのぉ」
開いていたメニューを閉じ、立ち上がろうすると隣から声をかけられる。
いつの間にか隣に誰か座っていたようだ。
口調だとおじいさんみたいに思えるが、褐色の肌に金色の長い髪に膨らんだ胸、可愛らしい顔立ちを見る限り女性だ。僕より大きいから目を合わせると少し見上げる形になる。
「…誰ですか?」
返事せずにそのまま立ち去るというわけにもいかないので、当たり障りない事を聞いておこう。
「おお、そうじゃな、我はアリス。不思議の国のアリスから取った名じゃ。お主は?」
最初に声をかけてきた時の一言で老人っぽい喋り方だと感じたが、気のせいではなかったらしい。
やたらと「じゃ」が多い。おそらくそういうロールプレイなのだろうが、そういう口調って少女がやるようなものではないのだろうか。
ロールプレイじゃなかったら…うん、申し訳ない。
「…リンです」
「そうか、リンか。良い名じゃ。あ、そうそう、この口調なんじゃが、まあロールプレイの一環というか、こういう楽しみ方もあるじゃろうと思ってやってるんじゃ」
「はあ、そうですか。僕に何か用ですか?」
「…ボクっ娘? 唆るな」
「は?」
「いや、なんでもない。お主に特別用があるってわけじゃないんじゃが、気になったからじゃなぁ…。色々と」
アリスさんはそう言って視線を僕の頭に向ける。なるほど、うさ丸の事か。
でもうさ丸は飛んできたのをキャッチして撫でてただけだから特に有益な情報を渡せるわけでもないんだよね。
「我は裁縫スキルを取っておる。一応店もあるし、仲良くしておいて損はないぞ?」
「それ自分で言うんですか?」
「アドバンテージじゃからな。それなりに財力があることも示せてるじゃろ?」
「…確かに」
アリスさんの言う通り、店を持っているということを伝えるだけで結構な財力や立場を持っているというのを示せる。
交友関係を広げるにあたってそういった力の誇示は重要になってくるだろうし、アドバンテージというのも間違いではないように思える。
「そういうわけじゃ。…なんじゃその顔。何か聞きたいことでも?」
「裁縫スキルって何ができるんですか?」
「そうじゃな…基本的には鍛冶屋のプレイヤーの委託じゃな。金属鎧の内側に衝撃を吸収する素材を使うんじゃが、鍛冶スキルでは作れないから裁縫スキルを持つ者が作って取引するんじゃ」
言われてみれば、金属の鎧でダメージを防ごうにも鎧越しに衝撃が伝わったら中の人にダメージ入っちゃって意味ないからそうなるのか。
「あとは、まあ…収集癖のある奴とかゲーム内でオシャレする奴に服を売ることじゃな。こっちは人が少ないからあんまり売れてないんじゃが」
「…という事は服を作れると?」
「ああ。お主もオシャレしたい系女子か?」
「オシャレしたいというよりか…欲しい格好があるというだけですけど」
錬金術の『調薬』を読んで脳裏に過ぎったイメージ。
薬品系統のアイテムを作製できるならポーションとかだけでなく、敵にダメージ与える毒みたいなのも作れるかもしれない。
つまりマッドサイエンティスト的なロールプレイが可能になるかもしれないのだ。そして僕が思うに、マッドサイエンティストは白衣を着ている。
「じゃあ仲良くしてて悪くはないじゃろ。フレンド登録するか?」
「え? あ、はい」
《『アリス』からフレンド申請が届いています。受諾しますか?》
『はい』を選択すると、メニューのフレンド欄にアリスさんが追加されていた。詳細を開くと『フレンドメッセージ送信』と『ステータス確認』がある。あと右上に小さく『フレンド破棄』もあるので、やべー人だったら破棄しよう。
「ん? お主錬金術をやるのか?」
「はい」
「そうか……我も不遇と呼ばれるスキルの道を行ってるくらいじゃから応援するぞ。あとステータスの表示は設定から制限できるぞ。フレンドでも情報を開示したくない相手には使える」
フレンドはあまり増やす予定もないが、あーだこーだ言われるのは嫌なので全て不許可にしておく。いつでも変えられるし今はこれでいいだろう。
「で、オシャレしたいんじゃろ? どんな格好じゃ? 対価があれば仕事はちゃんとやるぞ。我の練習でもあるのだからな」
対価。要はお金だろう。
しかし、僕は初期所持金の1万ソルしか持っていない。先程手に入れたウサギの皮や肉を売れば少しはお金になるかもしれないが、あの弱さだ。高が知れている。
「いくらですか?」
「オーダーメイドで装備としての性能を求めないなら安くても2万くらいかの。我と仲良くなればサービスで安くなるかもしれんが」
「詐欺みたいですね」
「リピーターを増やすのにも苦労が要るんじゃよ」
「お金が足りないので今はいいです。貯まったら頼むのでその時にフレンドメッセージで呼べばいいですか?」
「そうか。じゃあ連絡待ってるぞ」
「では僕はやりたい事があるのでこの辺で」
座っていたベンチからそそくさと退散する。
アリスさんは変人っぽいが話した感じは良い人そうだし、白衣を頼むにしても伝手ができたのはいいことだ。
そういえばうさ丸は途中から喋らなくなったな。
「うさ丸?」
返事がない。頭に乗ってるうさ丸を持ち上げて抱えてみるが目を閉じている。呼吸も一定なので寝ているのだろうか。
「マイペースだなうさ丸…」
しかしいつから寝てたんだろうかこの子。アリスさんと話し始めた時は頭の上で動いていたから起きてたんだろうけど、いつの間にか寝ていた。
「あ、時間…」
メニューを開いて時間を確認すると10時56分。裕哉と智樹に会う約束をしている11時まで5分もない。
結局アリスさんと話していたら時間がなくなってしまった。仕方ないし、原初のフラスコとやらを買うのは後回しにしようか。
「噴水広場か…」
アリスさんと話を終えて離れていったのにまた戻る必要がある。
会ったら気まずいが、約束をすっぽかすのは良くないのでUターンして噴水広場へ向かおう。
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