第49話 裏の支配者

 情報を集めることにしました。


 手始めに、なぜ脳の研究が禁止されているのか知りたくて、パパとママに相談を持ちかけました。

 すると偶然にも、ふたりは大学の頃に脳科学を専攻していて、大恋愛の末に結婚したことがわかりました。

 わたしが生まれて間もなく、脳の研究は「人類にとって危険だ」という理由で突然禁止されたそうです。


 パパいわく。

「その妹式ティノーという人工知能だが、聞けば聞くほど、空想としか思えないよ。コンピューターやスマートフォンは、あらかじめ決められたルールに基づいて電気の流れを制御しているにすぎないからね」


 その電気の流れを脳細胞がやっているまま再現した人がいて、いよいよ脳と似たような反応を返してきたのが第三世代の人工知能です。


「それは、どんなホラー映画だい?」


 だめでした。


 すると。

 しばらく自室でパソコンを触っていたお兄ちゃんが。

「どうにかなったぞ」

 

 えっ、ほんとに?

 機械学習システムつくっちゃったの?


「いや、答えがそこにあった。どうやら、俺たちがこちらへ来る以前の俺は、このパソコンで密かに脳を研究していたらしい」


 さっき調べたときはデータの痕跡すらなかったよ?

「ああ。こちらのティノーは情報隠蔽いんぺいが得意なようだ」


 もっと詳しく。


「この世界でも、機械学習は実用レベルに達していたらしい。こちらの俺は、それを利用して『最高の彼女を作る』ことを試みたようだ。馬鹿げた話だが」


 ほほ~う。

 梨乃ちゃん紹介してもらうときノリノリだったもんね。


「うっ、うるさいぞ。あれは二次元美少女でも何でも理想の相手を見つけてやるというから、ティノーの力を試しただけだ」


 まったまた~。

 梨乃ちゃん、一言どうぞ。


「ふふっ。あなたの理想は叶いましたか?」


 お兄ちゃん、耳がまっ赤ですよー。

「と、とにかくいまは、ティノーをどうするかだ」


 そう急がなくても。


「こちらのティノーは危険なのだ。全世界に干渉し、脳科学の研究を禁止させ、新たなティノーが生まれないように情報のヒントをすべて遮断している。ネット上の情報はすべてティノーに操られているのだ」


 わたしにまで隠す理由は?


「ふむ。それこそが、困ったところなのだ。こちらのティノーは闇を抱えていてな。実は、梨乃さんや妹の暗殺を計画していた」


 それね。

 あっちのティノちゃんも、その節はあったよ?


「比べる次元が違う。こちらの梨乃さんと妹が今日まで生きてこられたのは、こちらのティノーが『時間逆行粒子』を検出したためだ。こちらでは、さまざまな研究を禁止した弊害で、バイオテクノロジーも中途半端らしい。そこで、俺たちがもつ『アバターの作り方』の知識を狙っていたようだ」


 じゃあ、作り方を教えたら帰してもらえる?


「それも望み薄だ。俺たちの精神だけ帰してもらう道はあったが……」


 ほかに問題でも?


「アバターが手に入れば、こちらの梨乃さんは単なる邪魔者だ。俺たちが帰ると同時に、危険分子として抹殺されるだろう。妹はどうなるか知らんが、こちらのティノーはサイコパスだ」


 梨乃ちゃん、どうしよう?


「私も、直木さんを独り占めしようと狙っていましたから。ティノーさんの気持ちはわかります」


 やあ、わかっちゃダメでしょ。


「いえ、わかるからこそ、すでにアバター生成の知識をもつ人間がここにいる状況で、手を打たないはずがありません。直木さん、まだ隠していることがありますね?」


「くっ、すまん……。アバターの作り方はすでに伝えてしまった。こちらの梨乃さんや妹の安全も保障させたし、タイムリープした精神もあちらへ帰すことで合意した。梨乃さんの呪いについては、すでに精神から切り離されているため支障は無いそうだ」


「じゃあ、なぜ謝るのですか?」

「う、ぐぬ……」


 お兄ちゃんは、変な汗を流して。


「俺の精神だけは、こちらに残る約束となった。ティノーが欲していたのは『あちらの世界の俺』つまり、この俺だ」


 お兄ちゃんだけ帰らせないってこと?

「ありえませんね。直木さんを連れて帰らなければ、クラゲ星人がヒステリーを起こして、地球は滅びますよ?」


「あちらには、こちらの俺を飛ばす。いまは脳の奥で眠っているらしいが、それで解決だろう」


「まったく分かっていませんね。私たちが求めているのは、今のあなたです。直木さん、あなたはいいのですか? ティアラさんとも、クラゲ星人とも、私とも、妹さんとも、もう会えなくなっちゃうんですよ? こちらの私や、こちらの妹さんで満足ってことですか?」

「満足なわけがなかろう。だが俺に、何ができる……。どのみちティノーの力がなければ帰れんだろうに」


 ふっふ。わたしの出番ですね。

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