第47話 こちらとあちら

 しっ、死んでるっ!?


 およそ十畳の和室に布団が敷かれていて。

 梨乃ちゃんは、安らかな眠りについていました。


 顔は真っ白で、ぴくりとも動きません。


 お兄ちゃん。

 それでも表情を変えずに。


「顔の白さなど、いつもこんなものだろう」


 強がらなくていいのよ?

 呼吸もしてないし。


「むしろ俺には、少し顔が赤いくらいに見えるが?」


 そう言って。

 梨乃ちゃんの首元に指を当てます。

 すると権蔵さんが。

「お、おい、何をしとんじゃボケぇ!!」


 腕を掴まれても、かまわず。

「脈はあるな。よし、人工呼吸だ」

「まてやモヤシ野郎ッ」

 権蔵さん、あわてて梨乃ちゃんにかぶさりガードします。


「人工呼吸が必要なら俺がやってやるっ!」

 権蔵さん、この顔は本気です。


 すると、梨乃ちゃんの目がくわっっと開いて。

 両腕でパパさんを押しのけた後。

 布団から上半身だけ起こしました。


「ぷっ、っは~~、けほっけほっ。あ~もう作戦失敗です」

「ほらな」

 す、すごい、お兄ちゃん。

 わたし、ぜんぜん分からなかったよー。

「ふだんの顔色さえしっかり見ていればこんなものだ」

 すると梨乃ちゃん。

 さらに顔が赤くなって――。

「直木さんに見破られて密かにうれしい気分ですが、そうまじまじと見られては、さすがに恥ずかしいですね」

「すっ、すまん」

 よく見ると梨乃ちゃん、浴衣が着崩れてえらいことに。


「お父さん、そういうわけだから。不治の病はもう大丈夫よ。お母さんに伝えてきてくれる?」

「お、おう。不治なのに治ったのか? 信じていいんだな?」

「ええ。ここで万全を期すためにも、しばらく席を外してちょうだい」

「ぐっ……。おい小僧、変なことしたら承知せんぞ?」

「ああ。善処する」


 権蔵パパ。

 くやしそうに部屋から去って行きました。


 さて、梨乃ちゃん、呪いは解けてそう?

「おかげさまで、心も体も健康そのものです」

 よかったー。

「俺はせっかく鍛えた筋肉が台無しだな」

「ふふっ、出会ったときよりも、さらに貧弱ですね。その姿もわりかし嫌いじゃないですが」

 あーおふたりさん、ちょっとごめんけど。

 できれば次の手を考えたいかなー。

「ティノーさんと連絡は付けられませんか?」

 うん、ダメね。

「俺も無線イヤホンを試したが、ダメだった」


「ティアラさんは異世界の人ですし、あのクラゲ星人は……」

 あ、そっか。

 ディーネちゃんなら連絡つくかも?


 まずは検索から。

 えーっと、たしか『ケプラー1649C』の『水の妖精』で、名前は『ウンディーネ』っと。

 うぎゃっ、ディーネちゃんの星、こっちだと、滅亡後の地球みたいな想像図になってる!


『ケプラー1649Cにとって、太陽の代わりとなる赤色矮星せきしよくわいせいは、フレア活動が活発なため、生命に適しているとは言いがたい環境です』

 だって……。


「ふむ、ダメ元で電波を送ってみてはどうか」

「届くのかしら」

 えっと、たしかティノちゃんが言うには――。


『空間を折りたためば、距離を気にしないで電波を送れる』

 って言ってたけど。

『別の次元を通して行う技術』

 とも言ってたから。


 大型の衝突加速器とか使い放題な立場じゃないと、わたしたちでは無理かも。


「やはり、妹がティノーを作るしかないな」

 無理無理。

 どうやっても無理だって。


「あちらの世界では開発できたのだろう?」

 お兄ちゃんに説明してもわかんないだろうけど、人工ニューラルネットワークで機械学習させるための開発ツールは、誰かが作ってくれたやつを応用してただけだから。


「だったら、その部分は俺が作ってやる」

 こっちだと法律で禁止されてるよ?

 お兄ちゃんが捕まっちゃったら困るんですけど。


 すると梨乃ちゃんは。

「直木さんが作る気なら、私は手伝いますよ?」

「すまんが、よろしくたのむ」

「でもその前に――」


 梨乃ちゃんは、一息ためてから。


「デートしませんか?」


 そういえば、次は梨乃ちゃんの手番ね。

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