第32話 世紀末デート

 まずは、ティアラさんから。

 お兄ちゃんとデートすることになりました。


 梨乃ちゃん、ディーネちゃんは、自分たちのデートをよりよくするために下準備をするそうです。

 なお、ライバルが一線を越えてしまわないよう、わたしとティノちゃんが、健全なデートをサポートすることになりました。

 あくまでブレーキ役なので、それとなく距離を保つ予定です。


 現在、ティアラさんの初デートは、荒くれ者どもが集まる世紀末シティ、ギュムナで行われています。

 道行く人の多くは半裸マッチョで、タトゥーや化粧やモヒカンが爆発した感じの、とっても個性豊かな男性ばかりです。

 あ、バンダナを巻いた女の子や、眼帯をつけたお姉さんもみつけました。

 みんな衣服は薄汚れていて、まるで砂漠を渡ってきたかのような、ひっ迫感が伝わってきます。

 今日のお兄ちゃんは、ティアラさんのお願いで、旅の剣士みたいな格好をしています。

 鎖かたびら、ふさふさマント、そして片手剣を腰に収めた、なかなかの冒険者スタイルです。

 ティアラさんも、出会ったときの衣装とそれほど違いはありませんが、金属パーツはピカピカで、青色マントも穴はなく、つやつやです。

 それぞれにルイス家の紋章が描かれていて、品位は高く、荒廃した街並みのなかでは、かなり浮いています。

「よう、ティアラちゃん、お母ちゃん助かったんだって? オレらチョー安心したぜぇ~」

「ひゅ~、あんたら、あの空島から戻ったんだろ? すげぇじゃねーか。まじ、べらぼう有名人だぜぃ?」

 話は地方にまで広がっていました。

 冒険者ギルドにお礼を伝えたからかな?


 やがてふたりは、ローマのそれみたいな闘技場に到着します。

 ティアラさん、腰に両腕をあてて施設を大きく見上げ。

「さあ、観戦していこうか」

「ああ、そうだな」

 

 出場はしないみたいね。

 安心しました。


 席はルイス家の名で、キララさんが用意したものです。

 ふたりは、カップル用のペアシートに案内されます。

 お兄ちゃん、ドン引きです。

「お、おい。ここだけ二人掛けの真っ赤なソファーがあるのはどういうことだ。目立ちすぎだろう」

「当然だ。当家の力をあなどってもらっては困る。君との初デートなのだから、このむさ苦しい闘技場にそよ風を吹かせ、花を咲かせるくらいには、ムードを良くしておかねば」


 うわ~。

 相性わるいって計算してたの正解かも?

「私はどうなっても知りませんよーって、ちゃんと警告しましたからねっ。ぷんぷん!」


 うん。

 ティノちゃん今日は、わたしとデートだから。

 こっちはこっちで楽しもうねっ!


「はい、妹さま。……って、あわわ、でも――」


 ティノちゃんの声が急にトーンダウンして。

 ペアシートに、危機がおとずれました。


 ガラの悪い荒くれさんが、三名。

 絡んできたみたい。


「おうおう、てめーがティアラさんと婚約したっつう、もやし野郎か?」

「しょっべー顔だなおい。シワの一つもねえぞ? っぷぇ~っ、こりゃあ苦労してねえ証拠だぜぃ」

「あ~あ、初戦の相手が裏道でボコられちまったとかでさぁ? オレら不戦勝になりそうなんだわぁ。ちょっとお客さん的にもアレだし? こういうときゃ、ルイス家の婿むこ候補こうほさまが、気を利かせて、お相手してくれねぇかな~?」


 お兄ちゃん、席を立とうとしますが。

 ティアラさんは、それを腕でさえぎり。


「私が、まとめて相手をしてやろう」


「へっへっへ」「ケケケ」「プッフフ」


 あちゃ~。

 簡単に、誘い出されちゃいました。

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