第27話 つりばし効果

 会議室は、先ほどの興奮が嘘のように静まり返っていた。


「ねえ、ティノちゃん。手っ取り早く、さっきみたいにお兄ちゃんのところに転移できないの?」

『無理ですねー。チャージが完了するまで数週間はかかります。地球へ帰るエネルギーも必要ですし』


「そっかー。カーランドさんは、その空島について何か知ってる? 橋とかロープとかで渡れないかな?」

 マイの問いかけに、カーランドは重々しく首を振った。

「あの空島は、元は神域を攻めるための戦艦だった魔族の強襲駆逐島で、タラップやロープといった普通のやり方では侵入できないんだ」

「じゃあ、あの映像に映っていたティアラさんは?」

「彼女は母君を救うために独自の方法で潜入を続けているそうだ。空島の各所にある収容棟には多くの者が幽閉されていて、我々が出した救助隊も逆に囚われの身となってしまった。『不沈の空牢くうろう』とも呼ばれている」


 マイたちの想像より重い話だった。

 その侵入方法についてはギルドの機密に当たる。カーランドは「これは独り言だが…」と前置きし、侵入ルートのヒントを漏らした。

「……空飛ぶ魔獣と、透明化の魔法の使い手を、ギルドで手配したことがあったな……」


 その時だった。ティノーが突然、慌てふためいた声を上げた。

『たいへんです、梨乃さま、ディーネさま! おふたりとも怒らないで聞いてください! どんなことが起きても怒らないと誓ってください! 大事なことなので契約書にサインもお願いします!』


「何ごとですのっ!?」「どういうことですかっ!?」

 梨乃とディーネがテーブルに乗り出す。


『お兄さまとティアラさまが、ピンチな状況でいい感じになっています! これは【吊り橋効果】です!』


 マイは、やれやれといった様子で尋ねた。

「またお兄ちゃんのマッチング相手が増えたってこと?」

『いえ、非常にまずいです! シミュレーションの結果、ティアラさまとお兄さまが結ばれても、将来幸せになれる可能性は0%と出ました!』


「あちゃ~、ゴールインさせちゃいけないペアなわけね。で、付き合いそうなの?」

『放置すれば98.4%結ばれるでしょう』

「うっわ、結ばれる率、高っ!」


 マイが絶句する横で、ディーネと梨乃はパニックに陥っていた。

「ど、どど、どうすれば回避できますのっ!?」

「わ、わっわ、私はティノーさんのプランを信じますからっ!」


 ティノーは二人の同意を取り付けると、改めて全員に告げた。

『はい。ですから、皆さま、どうか落ち着いて。そうすれば必ず、お兄さまとティアラさまのゴールインを阻止してみせます』


 立体映像の中でティノーはにっこりと、天使のような無垢な微笑みを浮かべた。


『私が人間アバターを使って、一時的に、お兄さまを籠絡ろうらくしてきます』

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