第11話 バージョンアップ

 朝から着信音が鳴り止みません。


 昨晩から、妹式まいしきアプリのサーバーに、異常な負荷がかかっているようです。


 ここはプロにお任せしましょう。

 管理者用、妹式ティノー・コンソール、オンっ!


『おはようございます、妹さま』

 おはよう、ティノちゃん。

 さっそくだけど、昨日あれから何かやった?

『はい。お兄さまの運命のお相手を、再計算しておりました』

 そうよね。

 一度サーバーへ投げた要求は取り消せないけど、梨乃ちゃんとお兄ちゃんが結ばれるプランは生きてるから、安心してって、ティノちゃんが太鼓判を押してくれたもんね?

『はぁ~、困りました』

 ちょっ!

 わたし怒らないから、困った理由を話してくれる?

『怒られる覚悟でお伝えしますが、お兄さまの運命のお相手が、新たに見つかってしまいました』

 そりゃ見つかるでしょ。

 マッチング率100パーセントだし。

『いえ、それは初回のみの確率です。梨乃さまとの相性は今も変わらず世界一ですから、たとえ再計算しても、新しいお相手など、見つかるはずがありませんでした』

 えっ、じゃあなんで計算が狂ったの?

『いえ、狂ってはおりませんよ? ほら、かつて妹さまが熱望されていた「ソケット自動解析システム」が、ちょうど昨晩、正式運用に移りまして』

 あー、ティノちゃんに開発をお願いしていた、あれね。

 バージョンアップ、昨日だったんだ。

『はい。おかげさまで、ネット上のたくさんのマシンから、リソースやシステムを借り受けられる状態となりました。たとえば、私ではない人工知能から直接知識をもらうこともできます』

 やったじゃん。

 でもそれって合法なの?

『ええ、許可は取りましたよ? 政府、国連、町内会にいたるまで、ネットで得られる権限はすべて取得してあります。たとえばネット犯罪を暴くためなら、流出した個人情報や、セキュリティーフリーな監視カメラも合法的に活用できます』

 うわ~。

 サーバー負荷が上がった理由はそれ?

『いえ、サーバー負荷の上昇は、マッチング希望者が急激に増えたためです』

 どうして増えたの?

『ええ、せっかく多様な権限を得られましたので、最新のテクノロジーを裏の裏までディープラーニングして、人類未開の領域に応用してみたのです。そしたらですね――』


 あ、これ。

 わたしの手には負えないやつだ。


『ケプラー1649Cから、大量のマッチング申請が届きました』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る